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KAC20225

「88歳」(一時的に解読不能になってましたが、修正しました)


1.汗をかくほど日射しの強い日だが、その場所だけはひんやりとしている。不思議に思って触っても、写真を撮っても変化はない。

「それでそこで藁人形を作りまして」
「それで、って?」
「他山の石……とも違いますねえ。現象を変えようって。解釈、ですか。とにかく、そこに謂れを置こうと。だって」

 だって理由が欲しいと思いませんか?

 笑いがこぼれかける口元を押さえる顔を見てから、彼とはもうずっと疎遠です。

Q:あなたの後ろにあるのは何?


2.クラスにそのう……知恵遅れ、って言うんですか? 知的障害? とにかくそういう子がいたんです。なんか、お母さんが普通学級で一緒に学ばせたいって強く言ったらしくて。いやいや、全然、おとなしい子でしたから。別に困ったこととかはなかったんです。

 ただ、やっぱり手を挙げて発言することとかはなくて。テストの時間も、なんだがぼーんやりしてましたねえ。名前くらいは書いてたと思いますけど。それで、先生もその子を指名しても授業が進まなくなっちゃいますから。結局、その子は「いないもの」として扱われていたんですよね。それって良かったのかなあって。や、もちろん、その子が分かるまで教えるとかってのが難しいのもわかるし、インクルーシブ? みたいなことを考えたら、同じクラスに通うのも全然悪いことじゃないし、もう一回言いますけど私が困ったわけでもないんですよ。でもなんか、人ひとりを「いないもの」にして、それで上手く回る感じになっちゃってて、それってなんか。

 一度だけ、隣の席の人と手紙を交換しようってことになって、私その子と交換したんです。ちょっとどうしようって思ったかな。それで、まず名前書いて。たしろまさきよくん、だったかな。それから、どんなあそびがすきですか? とか書いたんだと思います。それでその返事が、

「ろさちゃ また つみき しよ」

 って。はい、そうなんですよね。私の名前はロサじゃないんです。りさちゃん、とか、ローサちゃんとか、そう言う子と昔仲良くしてたのかなあって思って、積木とかで遊んでたのかなあって、そんな風に受け取ったんですけど、今になって思うと、そうじゃあなかったのかなって思うんですよ。本人も、自分はここでは「いないもの」だって自覚してたのかなって。

 その彼ですか? 今はやっぱり、いないことになったみたいです。

Q:彼の手紙の真のメッセージは?

3:「たおか」のおじさんですか? うっわ、懐かしいな。いましたね。よくご存知ですね。あれは僕らが小学校の頃ですかね。通学路に、「たおか」って、油そばって言うんですか? なんか、ラーメンに胡麻油とか混ぜて、汁なしで食べるみたいな。あのお店が出来たんですよ。で、「たおか」ってひらがなで書いててね。真っ黄色の看板で。小学生にもわかりやすいじゃあないですか。だから、僕らも「たおか」を待ち合わせ場所にしたりして。「たおか」の前に集合な! とか言ってたんですよ。だからよく、「たおか」ってみんなで声に出してました。はい。

 そのせい……なのかはわかんないんですけど。そのおじさんは、なんか、「たおか!」って大声で言うんですよ。急に。それで、まあ、今だったら怖いですけどねえ。当時はなんか、面白い……いや、ちょっと怖かったかな。当時も。でも、ガキ大将って言うんですか? リーダー格の子が、そのおじさんをからかうって言うのかなあ。「おっ、『たおか』のおっさんじゃん!」みたいな感じで軽く付き合う風だったんで、僕らも、それに追従するっていうか。

 え、身なりとかは別に普通だったと思いますよ。全然思い出せないですけど、服を着て。顔ですか? それもあんまり。でも無精髭で汚いとかそういうことでもなかったと思います。とにかく「たおか!!」って声出すだけですね。ちょっと甲高いような、笑いを噛み殺すみたいな声で、それだけ良く覚えてます。

 どこで? どこだったかなあ。いやそうだ、言われてみれば確かに。「たおか」、お店の方ですね。お店の「たおか」の前とかでは無かったですね、そういえば。あ、そうなんですか? 他にも見たって子たちがいるんですね。へえ。

 言ってることが違った……ですか。いや、僕らは聞いたことないと思いますけど。通学路以外のところでは……いや見かけたことなかったです。ああ、なるほど。他の学区では他のことを言ってたってことですか。そうなんですねえ。

 ああ、知ってますよ。ホットココアが有名なお店ですよねえ。そのお店の前で? 「ここ!」って叫んでたんですか。はあ。そのへんの子供は、そこで待ち合わせでもしてたんですかね。え? いやだから、僕らの「たおか」みたいに、「ここ」で集合な、みたいなこと言ってたのかなって。

 もう1箇所で目撃情報があるんですか。へえ。ああ、東札幌の。北海道ではかなり早くからコメダ珈琲ありましたよね。あそこの前ですか? 僕、家庭教師とか、ワクチン接種とかで、何度か通りましたけど、見かけたことなかったですねえ。そこではなんて?

「しろわーる」? え、しろわーる、ですか? それって、でも、1文字足りてないですよねえ。

 そういうことじゃあないかって?

 そういうことって、つまり、だから、<<あのおじさんは本当は「たおか」って言ってない>>ってことですか? 何かを隠していたって? 

 いや、確かにあそこには……はい、そうですね。当時流行ってましたから。確かにありましたけど、でも。

 そんなことを隠して一体どういう意味があるんですか?



Q:「たおか」のおじさんは、何を隠していたのだろうか?

 


「いやそうなんですよ。もうずーっとコロナで、ひいおじいちゃんにも会えなくて。それで、急に手紙が届いたと思ったら、こんなで。なんか全体的にオカルトっぽいじゃあないですか? それで、オカルトといえば岩井先輩だなって思って、LINEしたんすよ」
「へんな曽祖父。でもまあ、別に君を呪おうとかそういうことじゃあないと思うから安心していいよ。むしろ、お祝い……の催促かな」
「どういうことスか?」
「多分比較的最近、ひいおじいさんの誕生日があったんじゃあないかな? でも、かわいい曾孫のはずの内藤さんが、お祝いのひとつもしてくれないから、たぶんスネちゃったんだよ」
「あっ、そういやひな祭りの日が誕生日だったと思います。なんかよく分かんないけど、じゃあ、一応おめでとうって言っときますね。ありがとうございました」

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