「焼き鳥が登場する物語」
あの日僕らは二人でしハツ列車を待っていた。
彼女は僕にもたれかかりながらこう言った。
「なんかサ、サミしい気分になるよね」
「夜明けに? これから朝が来る時に?」
僕は彼女に尋ねた。彼女は、
「ないスナギモんね。でも、私は寂しいの。だからもっとくっツクネ」
僕は彼女の体温にどきどきしていた。このムネの高鳴りが、彼女に伝わっていないだろうか? 心音が波のように寄セ、セリ上がるような気持ちだった。
なんとなくスマホのニュースアプリを開き、今日も世の中で嫌なことがたくさん起こっていることを知る。見なきゃ良かったな、と思った時、彼女がスマホの画面を防ぐ。
「そんなの、ただのサエズリだよ。見たってしょうがないよ」
「しょうがないけど、でも、見ないふりをしたって現実に起こっているわけだし。知らないふりをするのは欺瞞なんじゃないかな」
「そうネ、ギマんよ。でも、真摯に向き合ったって、私たちに何ができる? ただのボンジリの私たちに。札束をナンコツみあげても解決しないような問題に?」
確かにそうかもしれない。特に、隣にいる女の子に積極的にアプローチもできないような僕にできることなんて何もないかもしれない。だから僕はスマホをポケットにしまって、彼女の顔を見つめる。そして言う。
「君の言うことがきっと正しい」
「そうだよ。私はくレバーなんだからね。あなたは私についてくればいいの。カワいい人」
そう言って、彼女はほとんど僕に抱きつく。まるで、つくねに卵が絡みつくように。
「明日モ、モう一度会えるかな」
僕はなんとかそう言った。
多分彼女は微笑んだんだと思う。僕の頬に触れる動きで僕はそれに気づく。彼女が囁く。
「それじゃ、また串鳥でね」
夜が明ける。明るい日が昇る。僕たちは明るい日の中にいるのだ。
※串鳥は北海道に沢山ある焼き鳥チェーン店です。この物語で唯一の焼き鳥要素ですが、まあ、1箇所でも出てきたらいいんですよね?