「第六感」
「聖闘士の主張は全て正しいと仮定した場合なんですけど」
「眼球に死ぬときの風景が焼き付いていて、それを飛ばして相手の技の情報を伝達することができることになるね」
「暗黒聖闘士は聖闘士に含まないことにします(暗黒聖闘士は聖闘士のなりそこないであるため)。ただその、網膜に像が残ることはないでしょうけど、最後に賦活した神経細胞がどれかくらいはめちゃくちゃテクノロジーが発展したら可能そうな気がしませんか?」
「えー? 活動電位のアンダーシュートの後に定常状態に戻るまでが <10 msだと思うが、そんなん残存するかね。皮質までいけばちょっとは残るかもしんないけど」
「別になんもイオンだけじゃなくて代謝もあるでしょ。何かしらの濃度とかで」
「いやでも前に調べたら眼球内の視神経乳頭のサイズが1.5 mmだってよ。この1.5 mm内のなんかの代謝の濃度変化で神経活動を再現して、それをエミュって映像として認識する機構が聖闘士にはあるって仮定でしょ? 厳しくない?」
「うーん、さすがに厳し……いや! 聖闘士の基本技能は、「原子を砕くこと」なんで。やつら原子を認識して破壊するところがスタート地点なんですよ。それ考えたら1.5 mmとか広大無辺じゃあないですか?」
「たしかに、オーロラエクスキューションとかって『分子の運動を停止する』が発動原理だった気がするね。まあ、観測可能とは言ってない気がするが、でもまあ砕いてんだから一定認識はできるんだろうね。原子まで観れるならワンチャンあるか? あるのかなあ。わからんが。まあじゃあ、いいよ、暗黒聖闘士の主張も深めて聖闘士の主張は真としよう。そんで?」
「すると五感を失うと第七感<<セブンセンシズ>>または阿頼耶識<<エイトセンシズ>>が強く発動するわけじゃあないですか」
「まあ、そう……いや、機序としては、五感を失うほど小宇宙<<コスモ>>が燃えて……ん? どっちが先なんだっけ? 小宇宙と第七感って」
「小宇宙がエネルギーで、第七感と阿頼耶識はアンプリファイヤです。だから、『五感が封じられるほど、小宇宙はよりアンプリファイされるようになる』が正しいことになるので、出力としては小宇宙の増大ですけど、順序としては第七感の発動が先です」
「内的エネルギーを増幅する機構が第七感および阿頼耶識だと。あーまあじゃあ合ってるんじゃあない? 五感を失うと、第七感に目覚めやすくなる。いいと思うけど。それがどうかしたか?」
「もう一つ。第六感って『脳・思考』のどこかにあるらしいんですよ」
「今気づいたんだが、お前ずっと天舞宝輪の話しかしてなくないか? 『乙女座のシャカが話すことはすべて正しい』って言えば良かったのでは? まあいいけど。そんで、第六感の座もまあ異論はないよ」
「ここからが大事なんですが、第六感以降の機能は、五感等身体・精神機能のアンプリファイヤだと思うんですよ。増幅の相とか次元が違うから便宜上区分しているけど、基本機能はアンプリファイだと。これは僕の仮説です」
「第七感と阿頼耶識はまあアンプリファイヤだ、でいいと思うけど、第六感にそんな描写はあったっけ?」
「いや、ないと思います。少なくとも『十二宮編』『ポセイドン編』『冥王編』にはなかったと思います。なんでこう考えたかと言うと、感覚遮断実験ってあるじゃあないですか」
「………………あるね」
「一応説明すると、手足にギプスとか撒いて体性感覚遮断して、目と耳は普通にふさいで(視聴覚の遮断)、なーんもない部屋で寝かしておいたり、ぬるま湯に浮かばせておくという実験ですね。嗅覚と味覚は遮断もしないけど、別にインプットもないという状態です。で、この状態に置かれた人は、しばしば幻覚を見るわけですが、なんで幻覚を見るかと言うと、外部からの刺激入力がなさすぎるので、普段刺激のゲーティング、ようするに入ってくる刺激を遮断している作用が働かなくなって、ごく微細な信号を<<増幅する>>ことで、各感覚領域が活性化して、そんで幻覚とか幻聴を見るわけですよ。この部分を第六感と呼ぶのであれば、第六感は既に増幅器なんです」
「だからいわゆるその、霊感とかを指す場合も、通常検出困難なごくわずかな霊的ななんかをアンプリファイして検出できると。おおなるほど、まあ、筋は通るんじゃあないか? 納得納得」
「納得してくれて良かったです。先輩、言ってましたよね。小さい頃の夢は、聖闘士になることだって」
「そうだねえ。まあ、おれはうお座だったから、十二宮編ではがっかりしたけど、それまでは結構強く聖闘士になりたかったね」
「うお座は今のところ本編に継承者がいないはずなので、今から先輩が強いうお座になればいいんですよ。バラとか投げてないでもっと物理的に強い技を覚えましょ」
「まあ、バラも結構物理的に強いけどな。青銅くらいだったら割れるみたいだし。心臓の血を吸い上げるみたいな悠長デバフ戦法がイマイチなだけで。って、いや、別にもう、今更聖闘士になりたいとかはないよ。だから、この拘束を外してくれないかな」
「いいえ。なるんです。先輩は。聖闘士に。大丈夫、僕の仮説は完璧です。任せといてください。まずは第六感を研ぎ澄ませましょう。第六感の操作が完璧になったら――」
「それも奪ってあげますからね」