ゴダールも知らなかった頃に見たわけですけど、自分の中での戦争映画ベスト1と言えばこれになる。何せ原題が"THE BIG RED ONE"だから一番でなくてはならない。二位じゃ駄目なんですか。お勧めは80年の劇場公開版でなく04年に出た再編集版で、これはちょこちょこシーンが追加されていて、全体的にブツ切り感が解消されており、よい。
監督のサム・フラーと言えば『気狂いピエロ』の「映画とは戦場だ」で有名ですが、それは後になって見た。実際にビッグ・レッド・ワンこと第一歩兵師団に所属し、北アフリカからシシリア、ノルマンディからフランスやベルギーへ転戦していて、監督の半自伝的な要素もあるように思う。主演のリー・マーヴィンも太平洋戦線に行った。老軍曹のリー・マーヴィン率いる四銃士が生き残るっていうそういう映画。全体的には戦争寓話っぽく、馬を駆る騎兵が出てきたり赤ん坊が出てきたり、精神病院で戦闘したり、色々とシュールっぽいがあくまで淡々としていて不気味ですらある。
名作かと言われれば低予算映画なんですけど、尖っているところが尖っていてよい。上陸作戦の時にコンドームを被せて砂の侵入を防ぐとか、戦利品として耳を切り取るとか、細かいリアリティが光っている。ドイツ軍の戦車が戦後イスラエルのスーパー・シャーマンなのは、御愛嬌でしょう。(あるいは、ユダヤ的皮肉か)
何より問題なのは、敵役である狂ナチの軍曹がぎりぎりまで生き残ってしまうことである。先述したように軍曹以下四人の兵隊は死なないんだけど、同様に、ナチスに心酔して味方殺しも反ナチの女殺しも厭わない奴が生き残ってしまう。これはつまり「(敵でも味方でも)生き残る事が一番の栄光なのだ」という事でしょう。ナチと見れば全員殺す思考停止、ないし国防軍無罪論とは全然違う。相対化みたいなもんで。これは後年のタランティーノの『イングロリアス・バスターズ』で再び現れていて、あれはミイラ取りがミイラ取りに、ナチ殺しをしていたら実際ナチより残虐だったとかそういう話なんですけどね。
主人公のリー・マーヴィンこと軍曹には名前が無い。中盤、ドイツ軍が「死んだふり」作戦をして軍曹たちを嵌めようとするシーンがあり、そこで軍曹が隊長に「ポッサム軍曹です」と名乗るのだが、それは「奴らは狸寝入りをしています」という符牒であって(ポッサムは死んだふりをする動物)、実際の名前ではないだろう。その直後に有名な戦車内での出産シーンがあるんだけど、感動っぽくしてあるが、何人も殺した後に子供の誕生を祝うというのはキルゴア中佐よろしく狂っている。狂っているで言えば精神病院での戦闘で、一人の患者が「おれは正常だ!」と言いながら機関銃を撃ちまくるのだが、「精神病患者に犠牲は出してはならないが、正常ならば(敵兵士であるならば)殺してよい」という論理で殺されてしまう。こういうシニカルさがたぶん自分は好きなんだと思う。要所要所でそう言った、「敵と味方」の境界、「戦争状態と非戦争状態」の境目みたいなのが垣間見える。食事シーンが多いのも特徴か。歩兵の仕事は歩く事と穴を掘る事。殺しは鉄の心臓がやる。(それはフルメタルジャケットだ)
ところで、四銃士の一人にマーク・ハミルが居ます。スターウォーズを見た事が無いので、自分の中でマーク・ハミルの出演作と言えばこの映画になるわけです。まぁ、DVDが安いので、見てください。