保紫 奏杜様の作品です。
https://kakuyomu.jp/works/16817330653313722580太陽系外に人類が植民するようになった未来の、本格SFロボットアクションですね。
舞台は宇宙の片隅にある辺境惑星なんですが、まだ開発が進んでおらず、文明レベルが、西部開拓時代から、宇宙植民時代までごちゃまぜになったような、だいぶ歪な形になっております。
例えば巨大ロボットを設計する技術はあるけど、そのための基幹パーツを現地で作るインフラがないため、地球からの輸入に頼るしかないものの、その輸送船もたまーにしかやってこない。
一般人の輸送手段は馬が主流だったり。
という感じでM.O.V.と呼ばれる10メートル代の巨大ロボットは、その惑星ではとっても貴重品になっています。
そんなロボットのブリガンダインを駆って、犯罪者を取り締まる荒事専門な捜査官の少女、ロクサーナが主人公。
男勝りな大立ち回りで肉弾バトルから、ロボットバトルまで颯爽とこなしちゃいます。
本作はそんなアクションシーンも見所ではあるんですが、私が推したいのは
主人公の少女パイロット・ロクサーナと、ブリガンダインの制御AI『ヴァージル』のバディ感あふれるカップリングですね。
ヴァージルはあくまで戦闘のためのAIで、一言で例えるならナイトライダーの『K.I.T.T.』やフルメタルパニックの『アル』みたいな雰囲気です。
なので人との日常会話的なコミュニケーションは本来の用途ではないんですが、
戦闘中にはロクサーナの緊張をほぐすような声をかけてきたり、励ますようなことを言ってきたりするんですね。
でもこれは、『AIに心がやどった』みたいな話しじゃありません。
本格SFなので、そういうファンタジー要素はありません。
あくまでパイロットのメンタルのパフォーマンスを保つためのプログラムでしかありません。
でもね。でも、なんですよ。
例えプログラムされた通りに喋ってるだけだとして、
戦闘という極限状態で、励まされた側はどう感じるでしょう?
しかもその声をかけてくる相手は、自分を守るために戦術を練って、自分の代わりに機体を操ってくれることもあるんです。
やっぱりね。こうなるともう、ただのプログラム相手なのに、『自分を守ってくれる人』みたいな感覚になってきちゃうんですよ。
そう、ヴァージルというのは、ロクサーナにとって自分を守ってくれる頼りがいのある王子様、なんですね。
このあたりで、私が思い出すのはターミネーター2ですよ。
あれのT800(シュワちゃん演じる、主人公を守る側のサイボーグ)なんですが。
T800はあくまでプログラムに従って、主人公を守ろうとするだけなのですが、
守られる側からすると、文字通り身を挺して自分を守ってくれる頼りがいのある父親、みたいに見えてきちゃうんですよね。
そうしてT800に主人公も感情移入しちゃって、彼が溶鉱炉に沈んでいくときは涙すら流す。
もう完全に、ただのプログラムを、人、として見てるって事です。
ヴァージルもそれと同じで、ロクサーナにとっては、完全に『自分を守ってくれる白馬の王子様』状態です。
だって、どんな時でも自分のことを第一に考えて行動してくれて、どんな危機的状況でも助けにきてくれて、なんの見かえりも求めず傷ついて戦い、絶対に浮気もしない。
ええ、理想の彼氏・王子様そのものですよ。
どんな人間の王子様より、よく出来た王子様。それがヴァージルなんです。
白馬の王子様と上で書きましたが、これちょっと違ってますね。
ブリガンダインはロクサーナが乗る、いわば白馬のようなもの。
ならばヴァージルは、白馬の王子様、ではなく、『白馬が王子様』ってところでしょうか。