ご無沙汰しております、アヤナミシュウスイです。
日頃、読書感想の類はTwitterかnoteに投稿しているのですが、本作はこちらに投稿したいと思います。
というのも、本作は題名からお分かりの通り、奈良県吉野に谷崎が訪れた折の物語という内容。
そして、その目的は南北朝・後南朝・「自天皇」の歴史を小説にしようと思ったことによるとあります。
私自身、その時代に関心を持ち、恐れながら『後南朝の華』『異形の山脈にて』と題して二作ほど創作にも挑戦しているからこそ、その「系譜」の中にある者の一人として、近況ノートに投稿した次第です。
さて、感想なのですが、まず、南北朝とはいいつつ、むしろ作中に多々登場する『義経千本桜』や静御前に興味を覚えました。吉野の歴史と風土の奥深さ。
私が読んだのは岩波文庫であり、他の出版社だとどうだかしれませんが、おそらく共通して、当時のものと思われる写真が多く掲載されているのも、「紀行文的」で面白い。
これを純粋に紀行文と言えるのか、それはどうやらかねてより議論があったようで、読者によっては完全なる「文学」、それも耽美ではなく、ましてや時代小説でもなく、ある意味、自然主義文学を彷彿とさせるような、冷静な知見が特徴。
個人的に、写真の風景が現在大きく変わったようには、かつて訪れた折にみた印象と比べても、あまり感じません。強いて言えば「広く」感じます。
そのため、実際に訪れる機会のない人でも、谷崎の巧みな文体と組み合わさって十二分に、紐解かれる歴史と思い出とが味わえるでしょう。
短編でもありますし、谷崎潤一郎作品を最初に手に取ろうという方にもオススメしたいですね。
※吉水神社における「後醍醐天皇 玉座」
撮影:綾波宗水