漫画アプリがそこらじゅうに存在していて、場合によっては全話読めてしまうこともあり、藤本タツキ辺りを筆頭に漫画アプリ及びウェブ漫画初のヒット漫画家が出てくるようになった昨今(まあ私はONEとかあんまり好きじゃないんだけど……)において、漫画は摂取しやすいコンテンツの筆頭としてあげられる。……いや、カクヨムユーザーなんだからそこはカクヨムを読めと言うべきなのかもしれないが、私自身商業作品ばかり読んでいるので大声で言えることでもない。
しかし、コンテンツが多いと言うことは駄作も多いと言うことで、人々は選択を常に強いられるあまり選択しないことを念頭に置いて作品を摂取するようになってしまう。つまるところ、他人と語ることが出来るというソーシャルな要素の方が大事で作品の面白さはどうでもいい……と言うような態度が罷り通ってしまう(サメ映画なんかその典型だろう)時代にもなった。でも私は面白い作品以外読みたくないんだよ……と言うわけで、面白いなと思った現在進行形の漫画の話をする。
:ドラフトキング
激推し漫画。
最近歳を食って、甲子園とか学生野球であくせくやるタイプの漫画が本当に受け付けなくなってしまって、そもそも中学生の頃にしてみても青春のジャンプではなくラブコメのサンデーを摂取していた時点で凡そ察しはつく。ようは熱血とかいうモノがいかんのだ。あれは背脂みたいなもので、摂りすぎると腹を壊す。
その点、ドラフトキングは胃に優しい。
ようはプロ野球のスカウトマンの話なのだが、その内容を見ると大人社会の色々を想起しつつも、やはり根本的には野球の話。過去のドラフト、名選手の出発地点を複数に散りばめて表現するそれはザ・大人のコンテンツ。とは言え野球が好きじゃなくても面白いだろう。ようは人事と営業を兼ねた仕事の話なのだ。
:九条の大罪
多分だが、大半の人は
「闇金ウシジマくんの作者でしょ? ああいうのもういいよ」
とか思うかもしれない。……というか、私もそう思った。
作者もウシジマくんを読んだ人々の反応を見たのか路線変更。主人公の九条弁護士は良くも悪くも”手続き”を遵守し、相手が悪漢であろうが搾取を受けた人々であろうが平等に扱い弁護する。様々な現代社会の問題をフォーカスしつつ、九条弁護士はあくまで法の遵守者に過ぎない。弁護とは万人が受け得る権利なのであるというロジックを徹底追及する。今後の展開が一番気になる漫画の一つと言っていい。
:ひともんちゃくなら喜んで!
経営自己啓発の権化みたいな女がブラック企業を改革する話。
本当にその一行で終わってしまう上に、話の作りにはご都合主義を感じないこともないが、現代の娯楽コンテンツの解釈・解答としてとても面白い。結局のところ社会人に課せられたミッションとは赤の女王仮説そのものであり、つまり、踏みとどまるためには人々は前進を続けなければならないのである。この漫画を読んでいると「本当かよ……」とはまあ、思わんこともないんだが、空論であろうがなんだろうが自分の知らない経営哲学みたいなモノは読んでいるだけで面白い。
多分女性向け漫画なんだと思う。女性向け漫画には相手役(つまり男性)のステータスをカッチリ明示しないとグッと来ない法則みたいなモンがあるらしく、そういう目線を持ち込むとより面白いかもしれない。
:ウソツキ皐月は死が視える
歩く生権力みたいな女が現場猫事案をバスティングしていく学園ミステリ。
主人公は数時間後に発生する死体が見える特異体質であり、全ての人間は生き続けられる限り生きるべき、とモットーとする主人公は異常な身の張り方でもって死亡事故を未然に防ぐ。……つまり生権力じゃないか! 生権力の美少女化コンテンツとかマジで新しすぎじゃないか!?
途中で出てくる生徒会長は主人公と同一の能力を持ちながら”死ぬべき人間と生きるべき人間を選別する”立場にあり、主人公と対立する……生権力は容易に死の権力へと転化し得るという生権力周辺の論争を思い起こさせ……ようは生権力の話じゃないか!!!
大抵の死因は学校空間で起こり得る死亡事故を網羅しているもので、言ってしまえば現場猫。現場猫事案をバスティングし続ける生権力女がなんか助けた女学生と百合っぽい空気を出そうとしたりするんだけど……いいのか? この女、歩く生権力だぞ??? 斬新すぎやしないか。
:寿エンパイア
もう一時期バズってたからイチイチ説明することないでしょ……って気持ちも起こらないこともない。
寿司漫画とはSFであり、それは<スシ・ファンタジー>と読む。
途中まではたんに斬新な(『将太の寿司Ⅱ』っぽい路線の)寿司を作りまくる話かと思いきや、不老不死の男が出てきて話が変わってくる……不老不死?
不老不死???
不老不死になる寿司を巡るSF<スシ・ファンタジー>がどうやらこの漫画のBストーリーらしく、展開が気になる漫画の一つ。
:ヴァンピアーズ
吸血鬼とただの女学生の百合漫画。
と書くと何か退廃的で、暗い洋館に閉じ込められて荊棘が咲いて……とか思うかもしれないが、何か田舎の一軒家でやたら生活感満載の百合を展開する。そもそも吸血鬼のくせに太陽の光とか余裕だし、汗と砂の匂いがする吸血鬼百合漫画ってちょっと作劇として面白すぎるんじゃないの?
しかし吸血鬼モノだからか、やはり永遠の命それ自体の苦しみとか、数百年前から続く因縁……みたいなファンタジーっぽい要素もしっかりある。でも何より、全体的に芋っぽいヒロインが本当に可愛い。
:裏バイト
説明不要!
いや本当に面白い。
ようはホラー漫画なんだが、出てくる対象が常にフランツ・カフカとかそういう次元の不条理で、ホラーというか殆どこれはコズミック・ホラーである。
たんに壮大なだけでなく、話の組み方が異常に上手いと感じる回も多く存在しており、今も評価が高いが、それでも評価が見合っていないと感じる作品。
:デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション
文学オタクはす~ぐ浅野いにおの話をする、の浅野いにお。
宇宙からの侵略を受けながら、その侵略者も微妙に弱くて、空に浮かぶ巨大なUFOと汚染地域と共に暮す日常の中にある少年少女の話。
世界観的に言えばやはり3.11の影響が~……とか小難しい理屈を垂れ流したくなってくるんだけど、話が最後ドラえもん的な少年のセンス・オブ・ワンダーに帰結していくのは非常に美しく、かつ嫌味がない。
:グッド・ナイト・ワールド
止揚されたソードアート・オンライン。
オンラインゲーム内部で疑似家族を作るプレーヤーたちが、実際には没交流となった実家族であると言うところから、徐々にゲームと現実の境目が曖昧になっていく話。最初の設定のウッと来る感じさえ乗り越えられればとても面白い作品。作者は現在別作品で休養に入ってしまったが、頼むから続きを描いて欲しい。この作家が描く女の子は本当に可愛いんだ……。
:リエゾン -子どものこころ診療所-
小さな子どもから若年層の大人まで、様々な心の病を題材に取りつつ対処していく話。
話の最初は、リベラル~~~って感じな部分がないこともなかったけれど、話が続いていく毎にそれぞれの家庭や人物のリアリティ、現実について言及するようになっていく。とくに、現代っ子のいじめ描写については小説を書く人間であれば一度資料として目を通すべきだと感じる。
他にも、ハコヅメとかグラゼニとか湾岸ミッドナイトとか新宿スワンとか読んでいたんですけれど、どれも最近とは言い難いのでなし。