特集
総身が太ましいわたくし、夏は当然苦手でございますけれども! 現在応募受付中のカクヨム恋愛小説大賞【ナツガタリ'25】には熱視線を送らせていただいておりますよー。
6つのテーマそれぞれに編集部の熱望が感じられることはもちろん興味深いわけですけれども……テーマは創意工夫の種となりますし、思考や展開を縛める枷ともなりますよね。みなさまがそれとどのように向き合い、どんな作品を抽出してくださるものか。部外者ながら下読み請け負い業な私としましては楽しみでならないのです。
応募締め切りは9月1日の11時59分ということでまだまだ2ヶ月以上ありますからね。恋とネタとを押し詰めた最高の一作を織り上げて、ぜひともご応募いただきたく!
そんなわけで今月はカクヨム恋愛小説大賞にリスペクト。夏の恋愛をテーマに4作品をご紹介させていただきますよ。夏という季節が舞台だからこそ醸される甘いと酸い、心ゆくまで味わってくださいねー!
母親の仕事の都合で転校してばかりの生活を送る少女、つばめ。今度の転校先である乃寿美高校も所詮は通り過ぎるだけのものだと達観し、いつも通りひとりで過ごすつもりでいたのだが……もう5月だというのに探偵部なる部活の募集をしていた眼鏡男子に好奇心をそそられ、つい声をかけてしまった。そして始まるのだ。宝物のような4ヶ月間が。
つばめさんはある事情からずっと自分の意思を抑え込んできました。そこで出遭ったのが奇人な眼鏡男子、コードネーム“アニ”くんです。彼女の灰一色だった世界は彼という奇しき色が差し込まれ、一気に彩づきます。それによって彼女の心情が大きく動いていく描写は鮮やかのひと言なのですよねぇ。
そして本作はふたりの視点切り替え式で進行するのですが、つばめさん視点は物語を主観的に語り、アニくん視点が客観的に見せる役割分担していることも特徴的ですね。両者が並ぶことで物語がより鮮明になる。この構造にも目を奪われました。
夏に終わることが定められたふたりの物語、エンディングが気になります!
(「忘れがたし夏の恋」4選/文=髙橋剛)
高校の近くにある神社で行われる夏祭り。白石天音は無理だろうと思いながらも彼氏を誘ってみて、案の定断られる。自分のほうが好きでたまらなくて、秘密で付き合ってもらっているのだと弁えているから、言い返せない。けれど彼氏のあまりの素っ気なさに思い悩んでしまって……そんな天音と秘密の彼氏との夏祭りが始まる。
誰にも存在を明かせない彼氏との恋愛に悩む天音さん。主人公の心情が端的に、それでいて深々と掘り下げられていく展開にぐっと惹き込まれます。元が『魔法のiらんど』の作品ということもありますが、不必要を削りに削って物語の芯を剥き出させるケータイ小説の王道スタイル、この力強い叙情は本当に味わい深いものですねぇ。
それに加えて構成がいいのですよ。同級生たちの恋愛事情やそれに対する心情が天音さんの思いを浮き彫りにしていき、しかも秘密の彼氏へと繋げていく――憎らしいほど巧い!
彼氏の素っ気なさの理由が知れた後に押し寄せる恋愛カタルシス、ぜひお見舞いされちゃってください。
(「忘れがたし夏の恋」4選/文=髙橋剛)
幼馴染みの二宮藍は中学生になった夏のある日、病気で亡くなった。……現在都内で独り暮らしをしている大学生の香月恵一は、7年越しにこれまで目を逸らしてきた藍の死と向き合うべく故郷へ帰る。そして当時藍と遊んだ携帯ゲーム機、そこに彼女が遺してくれた思いを見つけるのだった。
大切な存在である藍さんを亡くしてしまったことに囚われ、抜け殻のような日々を送っていた恵一さんが、他ならぬ藍さんに救われて顔を上げるまでのお話となります。
目を惹かれたのは物語に一切の外連味がないこと。恵一さんが男子らしい愚かさから藍さんとの関係性を崩してしまうことから始まり、ついに藍さんの思いを見出して、終わる。1万字に満たない文字量の中で7年間の空白とその結末までをまっすぐ描き抜いた筆の凄まじさといったらもう! 王道というものはひとつ間違えば野暮に堕ちますが、それをこうも美しく磨き上げられては唸るよりありません。
夏の夜に噛み締めていただきたい、妙々たる恋物語です。
(「忘れがたし夏の恋」4選/文=髙橋剛)
築30年を迎えようとしている村井旅館の息子、村井祐哉には物心つくころからずっといっしょに過ごしてきた幼馴染みで今は恋人の明日香がいる。だが、高校3年生の夏ともなれば進路の問題が差し迫ってきて……これまでのようにただいっしょにいることはできない。互いに先を見て、考えた末に選ぶ結末、果たしてどうなるものか?
時間がゆっくり流れる伊豆でなんとなく生きている祐哉くんですが、そこを出て行こうと決めた明日香さんによって、自分が進むべき先と向き合うこととなります。
物語としては非常にシンプルな構造なのですが、展開の中で描き出されるキャラクターの距離感の変化、これがなんとも細やかで濃やかなのですよ。何気ない会話をきっかけに深掘りされる心情が相手との距離を遠ざけ、そこへ小さな思いや行動が加えられて、距離が近づく。そうした積み重ねが丁寧に為されていればこそ、ふたりの選択に得も言われぬ情緒が香るのですよね。
心情劇がお好きな方へ特にお勧めしたい、情緒と叙情に満ち満ちた青春劇です。
(「忘れがたし夏の恋」4選/文=髙橋剛)