とうとう始まりましたカクヨムコン9! 今年は自分も特別審査員という形で参加させていただいており、カクヨムで作品を読む時間が増えているのですが、やはり一年に一度の大イベントということもあって、いつも以上に力の入った作品が多い!! 今年からはスコッパー賞や最熱狂レビュー賞など書き手以外の参加者に向けた賞も新設されているので、読者の方々も是非是非参加してください。
そして、カクヨムコンに応募していない中にも面白い新作はたくさんある! ということで新作紹介「カクヨム金のたまご」です。どれも楽しい作品ばかりですので是非ご一読を!

ピックアップ

高度に発達した占いは、現実改変と区別がつかない。

  • ★★★ Excellent!!!

 50年前からダンジョンが出現し、人々がスキルを持って生まれるようになった世界。スキルを持たず無能扱いされていた男子高校生の田沼はモテる手段として占いを選んだ。

 占いといっても具体的に道具を使ったり手相を見たりするわけではない。誰にでも当てはまりそうなことをそれっぽく言うだけである。

 しかし、この田沼の占いが異常に当たる。クラスのギャルの早坂さんに「良いことが起こる」と言えば、行方不明になっていたペット(ケルベロス)が帰ってきて、その早坂さんがダンジョン探索の配信を始めると言うので「良いモノを見つけて盛り上がる」と言えば、見事超絶レアな鉱石が発見されて配信は大成功。

 適当に占ったはずが予言レベルでどんどん的中し、いつの間にか人気者になっていることに途惑う田沼の姿が大変面白い。そしてこの状況を面白く思わないクラスメートが田沼に絡んでくるのだが、彼に対して田沼はとんでもない形で占いの力を使ってしまう!

 絶対的中する占いというシンプルながら応用性が非常に高い能力と現代ダンジョンの組み合わせが楽しい一作だ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)

ハッピーエンドの裏側で描かれる泥沼の恋愛事情!

  • ★★★ Excellent!!!

 国中の女性から愛されていた王子、既に公爵令嬢との婚約が決まっていた彼はある日身分違いの町娘と恋に落ちる。王子が真実の愛に目覚めたことを知って、公爵令嬢は身を引き、町娘は森の動物たちに助けられて、王宮の舞踏会に参加する。王子はその場で町娘との結婚を発表し、二人は幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし……。

というのが、本作の世界で伝わっている大人気の御伽話。しかし、この御伽噺に隠された真実を、王子から身を引いた公爵令嬢アリエノールの視点を中心に語られるのだが、まあこの内情が実にドロドロしている!

 立場を無視して、身分違いの恋を進めた王子がアレなのは仕方ないとして、彼と結婚することになったソニアがとにかくヤバい。何がヤバいってやってることはかなりの悪女なのに本人に悪いことをしている何一つ自覚がないことである! 全く悪気を持たず自分の本能に忠実に生きる彼女は、ある意味この物語で一番純粋なのだが、その純粋さゆえに周囲の人間を次々に地獄へと落としていく……!

 その一方で婚約解消となっても自分に有利に事が運ぶように立ち振る舞い、冷静に新しい結婚相手を探すアリエノールの姿は強くたくましいが、あまりに冷静すぎて少し恐ろしさすら感じてしまう。全く正反対のタイプながら二人の女性の恐ろしさが描かれるお伽噺の裏話だ……!


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)

異常な現象に、先輩と後輩が科学の力で立ち向かう。

  • ★★★ Excellent!!!

 ある日の放課後、科学研究部に所属する『俺』と先輩である不知火遥は部室で他愛ない会話を繰り広げていた。しかし、遥に命じられて『俺』がジュースを買いに行こうとしたところで、部室のドアが開かないことに気づく。開かないドアをどうにかしようと悪戦苦闘するが、そのとき『俺』は窓の向こうに飛び降りる女性の姿を目撃してしまう。さらにその直後意識が暗転し、気が付くと時計の針と15分前に戻っていた!

 絶対に出られない部屋、この場にいるはずのない飛び降りる女性、そしてタイムリープ。これらのありえない出来事に対して、科学研究部の二人は科学的アプローチ、すなわち仮説と検証を武器にして、問題を一つ一つ切り分けて事態の真相と部室から脱出する手段を探っていく。

 物語はタイムリープを繰り返す部室の中だけで展開され、登場人物も『俺』と先輩のみ。非常にミニマルな内容だが、この二人がときどきイチャつきを交えつつ、徐々に真実に迫っていく様子が大変面白い!

 検証が進むたびに真実が少しずつ明かされていくストーリーはワクワクするし、実験と称してキスマークをつけたり、ハグをねだったりする遥先輩はとても愛らしい。SFミステリーとして読んでもラブコメとして読んでも楽しめる作品だ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)

バカにされていた地味豚公爵の隠された偉業とは……!

  • ★★★ Excellent!!!

辺境の田舎にあるオールー公爵領を治め、世間からは『地味豚公爵』と馬鹿にされているヴィクトル。そんな彼の元に王国一の美女エレーナ公爵令嬢が嫁ぎにやってきた!

生活魔法しか使えず、過去に婚約者を弟に寝取られ、自己評価が大変低い彼は、面識のなかったエレーナとの突然の婚約に大混乱。しかし、このヴィクトル、本人が自覚しないところで実は数々の偉業を成し遂げていた。

領地の治水、永きに渡る魔族との対立を解消、日常に役立つ数々の魔道器を発明……これだけのことをやっているのに、いつもオドオドしているヴィクトル。しかし彼が自信なさ気な分だけ、ヴィクトルの素晴らしさを誇らしげに語ってくれる領民たちの姿が大変心地よい。婚約者のエレーナもヴィクトルのことをしっかり理解して、才女らしい聡明な視点で彼をサポートしてくれて大変魅力的。ときどき危ない面も見せるけど……。

これまでの数々の辛い目にあわされてきたヴィクトルだが、その分だけ、物語の最後で過去の出来事すべてにしっかりケリをつけてしっかり報われる、読んでいて気持ちがいいストーリーの作品だ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)