今年も早いものであっという今に入学、入社シーズンを迎え、この春から進学で故郷を出て上京してきたり、新社会人として働き始めたという方も多いのではないでしょうか。慣れ親しんだ故郷と比べて新しい土地での生活はどうですか? 学生時代と職場の常識の差に戸惑うことはありませんか? それこそいきなり異世界に訪れたようなカルチャーショックを受けたのでは? 今回は『異世界で働こう』特集と題しまして、異世界で様々なお仕事をしてみる作品を集めてみました。人間はなぜ働くのか? 働いてなにを得るのか? 働くって、辛いことばかりですが、どんなことも喜びや楽しみがないと続きませんよね。達成感だとか、自分の成長だとか、必ずしも報酬だけが労働の成果じゃないはずですよ。辛いか楽しいかは、人それぞれの考え方や捉え方次第なんじゃないかと思います。これらの作品から皆さんなりの答えが見つかることを祈っています。

ピックアップ

ここは伝説の異世界医院。あなたの心と身体を癒やします。

  • ★★★ Excellent!!!

 普段はありふれた町の診療所だが、夜間だけ異世界に繋がる不思議な診療所「本多医院」。さまざまな種族が暮らす異世界のユーパン大陸では「白亜の建物」と呼ばれ、難病で苦しむ者の元に現れ、すべての病を癒すと言い伝えられていた。現代医学を用いて異世界の患者を治療する医療ファンタジーです。

 各話は異世界の住民たちの視点で描かれ、治療困難な謎の奇病や心の病を現代医学の力で解決していく展開が明瞭にして明快です。

 本多医院の医師の本多は、見た目は不真面目でボサボサ頭の四十男ですが、病気の診断に関しては炯眼の持ち主。内科、外科、精神科を問わず、患者の症状を見ただけで病名を看破し、適切な治療を施していく。

 異世界の住民たちの抱える不可解な病気や症状は、実は私たちにも身近な病気ばかり。原因から治療法、予防法まで、専門用語を使いながらもわかりやすく解説されています。種明かしを見てみれば「何だそんなことか」と単純明快に感じるのは、作者に確かな医学知識の裏付けがあればこそ。

 病によって人生を狂わされた人々が、病を治して新たな人生を歩み始める。人々の人生を変える医療の素晴らしさを実感できます。



(「異世界で働こう」4選/文=愛咲 優詩)

じいさんばあさん若返る。老後の移住先は異世界で。

  • ★★★ Excellent!!!

 主人公の時笠宗徳と妻の寿子は、長年連れ添ったおしどり夫婦。退屈な隠居生活から脱却するため、役所から紹介されたシルバー派遣の仕事は、「異世界に移住する」という奇想天外なものだった。

 異世界で主人公が無双するファンタジーというだけなら定番ですが、老夫婦が若返って老後に異世界で大暴れするという設定はちょっと見ないでしょう。

 と言っても、肝心の宗徳の中身はデカいものが好きだったり、新しもの好きだったり、少年の心を忘れない若々しさが可笑しいんですよ。

 元々あった武術の経験に加え、あっという間に魔法を使いこなして、異世界で村作りや人命救助、魔物の探索や討伐と、現役の冒険者として大活躍。

 かといって主人公ばかりが都合よく優遇されるわけでもありません。宗徳よりも強い師匠の爺様だったり、千歳を超えた魔女だったり、もっとぶっ飛んだ元気なお爺さん、お婆さんが次々と登場するから愉快なんです。

 孫娘が家出してきたり、孤児たちを養うことにしたり、次第に若者キャラも増えますが、シルバー世代はメンタルもフィジカルもイマドキの若者よりパワフル! 威勢のいいお年寄りたちに笑顔と元気をいっぱいにもらえる一作です。


(「異世界で働こう」4選/文=愛咲 優詩)

高校生が異世界で職業体験。労働は世界と自分を変える。

  • ★★★ Excellent!!!

とある私立高校の女教師・木下花子の正体は、異世界の魔女キャロリシアだった。彼女は生徒に人生経験を積ませるため、生徒たちの魂を異世界へと送りこんだ。生徒たちはメイドや女王、勇者、魔王、聖女など、様々な職業の人間に憑依して仕事に取り組むことに……。現代の高校生たちが異世界を変えていく群像劇ファンタジーです。

 物語は突然剣と魔法のファンタジー世界に飛ばされた高校生たちを中心に展開します。そこは平和な日本とは違い、身分制度が厳しかったり、危険な魔物がいたり、使命を背負わされたりと不自由で過酷な社会。

 生徒たちは現地の人々の身体を間借りしながら、異世界での職業体験を通じて過去の後悔やトラウマを克服するきっかけを掴んでいく。

 また、異世界人たちにも葛藤や苦悩があり、生徒の視点や助言を得て、お互いに励ましあって困難を乗り越えていく成長物語に心を打たれます。

 彼らの一人ひとりの行動は些細なものですが、次第に繋がって大きな変化をもたらし、勇者と魔王の因縁や国同士の外交にも影響を与えていく。

 働くということは社会に関わること。経験を積み成長すること。働くことの意味や目的を考えさせる、労働の大切さを教えてくれる作品です。


(「異世界で働こう」4選/文=愛咲 優詩)

引越しは新たな人生の門出。異世界で引越屋始めます。

  • ★★★ Excellent!!!

ベテラン引越作業員の神倉悠樹は、子供をかばってバイクに轢かれて異世界へと飛ばされてしまう。中世ドイツのような町ウビイを訪れた悠樹は、それまでの経験を活かし、異世界で初の引越し屋さんを開業することに。

 引越しとは、ただの肉体労働ではありません。荷物を傷つけない技術やノウハウが欠かせない繊細な作業であることはもちろんですが、依頼者が長年暮らした我が家を離れるには複雑な事情があり、その心には思い出や感傷がよぎるもの。

 そんな誰かの家族の歴史がつまった大切な家具や食器を丁寧に扱い、お客様の想いに寄り添った誠実な仕事ぶりが深い感動を呼び覚ますのです。

 ときにはギャングに脅されている孤児院の夜逃げを手助けしたり、魔物の出る街道を通ってお姫様の嫁入り道具を運んだり、スリリングな荒事も起こるのがファンタジー世界の引っ越しならでは。

 これから新生活を迎える誰かのお手伝いをするのが、引越屋さんのお仕事です。引っ越しを通じて見える異世界の人間ドラマに引き込まれます。


(「異世界で働こう」4選/文=愛咲 優詩)