今回はTSを扱った物語をご紹介。美少女の身体になった結果、親友と微妙な関係になった男子高校生(元魔法少女)、互いに身体が入れ替わったことをきっかけに付き合うことになったカップル、第二の人生を女性として歩んでいたら思わぬきっかけで最強となってしまった退魔師、夢の中だけでTSを楽しんでいたらどんどん深みにはまっていく少年。全ての物語がTSを主軸に置いているわけではないが、性別が変われば人生も見える世界も当然変わってくる。というわけで、そんな新しい世界をちょっぴり覗いてみませんか?

ピックアップ

鈍感少年と元魔法少女のすれ違いラブコメ!

  • ★★★ Excellent!!!

男子高校生の飛高陽太はルーナに変身し、異世界からやってきた侵略者と日夜戦っていた。そして長き戦いは陽太の勝利に終わったが、敵の首領の悪あがきによって、陽太は飛高ルナという少女の姿にされてしまい、陽太が男だった頃の記憶を持つ人間はこの世から消えてしまった……ただ一人彼の親友を除いて。

本作はTSした本人ではなく、その親友である黒崎晴翔の視点を中心に進んでいく。過去に陽太に命を救われたこともある晴翔は、陽太を喜ばせることが元の姿に戻る鍵だと知り合いと相談しながら、様々な手段を試して彼を男の姿に戻そうとする。

自分が男だった頃の記憶を持っており、自分のために親身になってくれる晴翔の存在は陽太にとって特別な存在。その感情は徐々に友情から別のものへと変わっていくのだが、この変化の過程がしっかり丁寧に描かれており、TSものの醍醐味を味わわせてくれる。そして妙に世間知らずな晴翔は陽太からの感情に全く気付かないのに、陽太を元に戻すためにあの手この手で喜ばせようとしてくるのだからある意味質が悪い。二人の微妙なすれ違いっぷりが読んでいて実にヤキモキさせられる。TS設定がフル活用されたラブコメだ。


(「裏返る性別……TS作品特集」4選/文=柿崎 憲)

振られた直後に身体が入れ替わった結果、結婚を前提にしたお付き合いに!

  • ★★★ Excellent!!!

学校でもトップクラスに美人な瀬織星那に密かに思いを寄せていた、白山夜凪。ある日彼は偶然星那に告白することに。だが結果は「学校で二番目に好き」と言われて玉砕。さらにその直後二人は事故に巻き込まれて、何と互いの精神が入れ替わってしまう。

すると、夜凪の身体に入った星那は突如「責任を取って私と結婚しなさい」ととんでもないことを言い放つ。星那はなんと他人を自分以上に好きになれないナルシストだったのだ。そんな星那にとって、元から好ましく思っていた夜凪が自分の身体に入ったというのは非常に好都合。さらにお互いの家族にこの状況を説明して外堀を埋めていった結果、精神が入れ替わった二人は一つ屋根の下で暮らすという奇妙な同居生活が始まっていく。

本作で面白いのは、元々気が強くて教室でもやや浮き気味だった星那の身体に、草食系で家事が得意な夜凪が入ることで、結果的に星那の女子力が急上昇してしまっている点である。互いにTSした結果、夜凪はより男らしくなり、星那は可愛らしくなるという謎の逆転現象が楽しく、女性の身体になってしまった夜凪が女性ならではの思わぬトラブルに遭うというTSもののお約束もしっかり踏まえているのも嬉しい。


(「裏返る性別……TS作品特集」4選/文=柿崎 憲)

昼は人類最強の退魔師。だけど夜は……

  • ★★★ Excellent!!!

物語の主人公となるのは現代世界から異能の存在する世界に転生してしまった蛇谷水琴。前世では男だったのに今世では退魔師の家系の女子に生まれてしまい、両親は鬼神との戦いで亡くなり、若くして蛇谷家の当主に。しかし、受け継いだ退魔師としての能力ははっきり言って微妙。そして高校入学後の最初の夏休み。水琴は家の周りに突如出現した異常な力を持つ妖魔『龍神』と遭遇してしまい、下僕にされて容赦なく三十日にわたって凌辱されてしまう……。

しかし、前世の影響か特殊な魂の構造をしていた水琴は、その凌辱に耐え、さらに規格外の龍神の力をその身に宿すことに。世間的には日本最強の退魔師で、妖魔との戦いでは圧倒的な力を見せるのに、龍神には一切逆らえないという力関係のギャップが強烈な本作品。人類最強になったはいいけれど、頼れる者も秘密を明かせる者もおらず、とにかくハードモードな水琴の人生。お話はまだ序盤といった感じで、今後他の退魔師とどう絡んでいくのか、この秘密を誰かに明かせる日は来るのか……先の展開が非常に気になる退魔アクションだ。


(「裏返る性別……TS作品特集」4選/文=柿崎 憲)

夢を見ているあなたはだあれ?

  • ★★★ Excellent!!!

自分の夢をインターネットにアップロードできるようになった時代を舞台に、女性化した主人公が夜に見る夢の様子を描いていくのだが、とにかく夢の世界の描写が強烈である。
部屋の扉を開けたらいきなり列車が走っていたり、本来いないはずの人間がいきなり登場したりと、展開の支離滅裂さがまさに夜に見る夢そのものなのである。第三者の視点から見ると明らかにおかしなことしか起きていないのに、本人はそのことにまったく違和感を覚えないというのがまさに夢の世界。

それだけでも強烈なのに、一話進むごとに物語は全然違う顔を見せてくる。先ほど見ていた奇妙な夢の話をしていたと思ったら、実はこの瞬間こそが夢だと気づいたり、実は夢を見ていたのが自分ではないと判明したりして、読者の精神をどんどん揺さぶってくる。
そうして文章の力でさんざん読者を悪夢のような酩酊世界に引きずり込んでおきながら、わずか4話で物語にきっちりオチをつけて、綺麗に完結させているのだから脱帽としか言いようがない。


(「裏返る性別……TS作品特集」4選/文=柿崎 憲)