気が付けばすっかり秋めいてきました今日この頃ですが皆さまいかがお過ごしでしょうか?(時候の挨拶) 秋と言えば読書の秋、というわけで本日は新作小説の紹介をしていきます。SFからラブコメ、RTA(?)、ホラーと様々なジャンルから集めました。ぜひぜひ秋の夜長のお供にどうぞ。
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加藤啓司は突如出現した神によって、特殊な異能が得られるガチャを引かされる。そこで何と彼はSSRの上を行く最上級UR(ウルトラレア)の異能を手に入れる。その名も【粒あんエクスチェンジ】! その効果はどんなまんじゅうでもその中身を粒あんに変えられるというものだった……! いらねえな、これ。
だが腐ってもUR、この粒あんにはある秘密があった。めちゃくちゃ美味いのである……! いや、それでも微妙だな、他には【テレポーテーション】や【影分身】とか当たり能力が候補にあったし……。こんなハズレ能力でも使いようはあるということで加藤はこの力を駆使し、美味しいまんじゅうを大量生産して商売を始めるのだが、ある事件をきっかけにこの能力のとんでもない活用法に気付いてしまう……!
微妙な能力を意外な手段で活用して大活躍!というのはわりと王道のパターンである。しかし、本作は短編ということもあって加藤が能力の使い方に目覚めてからのスピード感が半端ない。あれよあれよと話は予想外の展開に転がっていき、気が付けばとんでもないスケールの話へと変貌しているのだ。本作のジャンルはSFになっており、序盤だけ読むと現代ファンタジーの方がふさわしいのでは?という気もするのだが、最後まで読むとちゃんとSFになっているし、やたら規模が大きくなったのにラストではややブラック気味でありながら、これしかないという結末に綺麗に落としているのだから非常に完成度の高い一作だ。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)
離婚届を提出し、妻と別れた直後に車に轢かれた黒瀬航平、彼はその瞬間高校時代にタイムスリップしてしまった。妻と喧嘩ばかりして険悪な仲になったことを反省し、今度は前回と違う人生を歩もうと決意する。だが、彼が通う学校にはまだ結婚する前の妻、鯉川柚花も通っており、さらに航平だけではなく実は柚花も過去に戻っていて……!
というわけで、喧嘩するほど仲がいいケンカップルを描くラブコメである。身体は高校生に戻っているが、本人たちの意識では離婚したばかりということもあって、当然関係性は最悪……と思いきや、なかなかどうして仲が良かったりする。互いに悪口を言い合っていたはずがいつの間にか惚気になっていたり、過去の嫌な思い出を語っていたはずが気が付けば思い出話に花が咲いていたりする。この喧嘩と思いきやいつの間にかいい雰囲気になっている二人のラブラブな痴話喧嘩が非常に楽しくて一気に読ませるのだ。
また、今度の人生では互いに絡まないでいようと思ったはずが、二人とも精神年齢的に周りのクラスメートと合わないということもあって、結局二人で一緒にいてばかり。一度は結婚していたぐらいに相性もいいので、せめて今度の人生では恋人関係にはならず友達のままでいようと決意するのだが、互いに高校生になっているせいもあるのか、元妻の何気ないしぐさについドキドキしてしまう……。
文庫本一冊ほどの分量できっちり完結している作品なので、そこそこの分量で完結しているラブコメを読みたい人はまさにうってつけの一作だ!
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)
若くして亡くなった絹子という名の女学生。彼女の全身にはまるで蝶や花の文様のような奇妙な火傷痕がいくつも残っていた。その彼女が遺した手紙から彼女の身に何が起きたのかを追想するのが本作品だ。
本作最大の特徴は文体にあり、絹子が両親に遺した手紙がそのまま小説となっている。そこに書かれているのは、仲の良い親友二人とともにウィジャ盤遊び――日本でいうこっくりさんのようなもの――を始めたこと、そこで意外な答えが返ってきたこと、ある日突然運命的な出会いをしたこと……。20世紀前半を生きる絹子の落ち着いた文章は丁寧でとても読みやすく、好奇心、不安、歓喜、といった感じに日常の中で揺れ動く彼女の心情がよく伝わってくる。
もちろん、これだけだとただのなんてことない手紙なのだが、読者は冒頭で彼女の身に待ち受ける運命がわかっている。だからこそ、手紙の内容と現実の落差にゾッとしてしまうのだ。そして全てを読み終わった後に冒頭のエピグラフを改めて読みなおすと、まさにこの作品にぴったりのものであると納得でき、ただのホラー小説としてではなく一種の恋愛小説としても読める、奇妙な味のある一作だ。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)