冲方丁作品の二次創作による新人賞、第二回「冲方塾」挑戦者募集!
110 作品
第二回冲方塾へのご応募、まことにありがとうございました。
あらゆるエンタメが受容するものから発信し合うものへと移り変わってゆく昨今、当然ながら人材の裾野は広がり、どこからどのような才能が生まれるかまったく予期しえない時代となりました。
そのような時代において、どういった人材育成のすべがありうるかを受賞者と選考者がともに考え、業界がこれからどこへ向かって発展してゆくかを見定めるための試みとして、二回にわたる「二次創作コンテスト」を行って参りました。
結果は、私たちが想像した以上に、応募作の全てが多種多様であり、受賞された方々も多彩の一言に尽きました。いよいよ従来的な新人育成ではいかんともしがたい、多数の、豊かで個性的な才能のきらめきを前にし、私たちこそ既存の枠組みをこえてみなさまと向かい合わねばならないのだと心を新たにした次第です。
第三回につきましては未定ではありますが、第一回・第二回における成果を受けて、日々議論を深め、これからの描き手・編集部・出版社・業界のあり方を問いながら、今後ともスタッフ一同みなさまとともに精進し歩んで参りたいと思っております。
イースターズ・オフィスのバックアップとして、海を渡った大陸国家にある組織<バックスターズ・オフィス>の活躍を描く。
大陸国家の辺境の地ザルバニトゥ市にあるオフィスへ、ある日、ゾルタン・ガウディから驚くべき依頼が届く。正体不明の者をあわせたトラスト・インフルエンサー3名の保護。間もなく市民投票で生命保全プログラムが受理され、ドクター・マイニング率いるバックスターズ・オフィスは同様の依頼を受けた他事務所らと競って彼らを保護すべく行動を開始する。
オフィスのエンハンサーであるビットはさっそく馴染みの刑事から情報収集しているところで急襲される。敵はあきらかにエンハンスメント技術を用いていた。ここにトラスト・インフルエンサー争奪戦が幕を開ける。
他事務所を蹴落とすべく攻撃を仕掛けてくる事件屋組織。
水面下に潜む中央集権の残存勢力。
――直線的な敵対者。
真の分散社会を目指すべく、居場所特定のために保護要求をかけておきながら実はその裏でトラスト・インフルエンサー抹殺を企むゾルタン・ガウディらDAO推進派。
――曲線的な敵対者。
それらと対抗する、トラスト・インフルエンサーを祭り上げた新興宗教組織。
――利害が一致した協力者。
ナブチェーン(物語内のブロックチェーンの呼称)によって構築されたトラストレスな分散社会で各人の思惑が衝突する。任務遂行の最中、渦巻く陰謀に翻弄されつつ、ビットは己の存在意義、己の価値を見出していく。
証人保護プログラムを適用されたケイトは、日本の地方都市で全くの別人『マキ』として生きることとなった。
数々のセラピーや適応のための学習を経たものの、フラッシュバックは頻繁に起きている。
希死念慮にとらわれたマキは、集いに参加することを決意する。しかし時間に遅れたため、集いはすでに終了していた。
諦めきれないマキは、残っていた管理人サトシとアンリ、駆けつけたセイゴへ自らの過去を話す。それがきっかけとなり、サトシは変則的な集いを開催することを宣言した。
マキは生きるべきか死ぬべきか。
意見は真っ向からぶつかり合う。
集いのサポートメンバーまで勢揃いするが、やはり意見は真っ二つ。
なぜ自分はこれほどまでに苦しいのに死なせてくれないのか。
マキは思いの丈を吐き出した。
なぜ生きるのか。
自分は何に苦しんでいたのか。
答えを見いだしたマキは、死ぬまで生きてみることを決意する。
そしてマキを見送ったサトシ達は、それぞれもの思いにふけるのだった。
根本的に異なる二つの世界を大胆につなげながら、キャラクターにしっかり焦点を当てて書いているのはお見事。また、物語が行き着く先を見据えて書いている姿勢を評価しました。(冲方丁)
租税回避地タックス・ヘイブンの金満リッチな小国・リヒテンシュタイン共和国―――自前の軍隊を持たないこの国は、武装銀行強盗に対抗するためミリオポリスから特甲少年を輸入し、新たにLPB(リヒテンシュタイン・ポリツァイ・バタリオン)を創設した。
雪風・リヒャルト・バッハは、キレると怖いが普段は無邪気なチャラ男キャラ。信濃・ウィリアム・オレインブルグは無口な英国青年の趣。秋月・ベルンハルト・ドップラーはちょいエロのパンク少年。
可能性未知数、警察との連携不十分、装備・人材とも不十分、各種不確定要素多数――での実戦形式での訓練を開始しようとしたまさにその時、市街地の銀行が実際に襲撃される。
スイス軍の支援を待ってはいられないという本部の判断により、初めての実戦を経験する特甲少年<艦隊フロッテ>たち。
経験不足/知識不足/敵の想定外の重装備/恐怖――結果は、犯人には逃げられ、雪風、信濃は大怪我を負うという惨憺たるものとなった――。
原作に取り入れたいくらいの素晴らしいアイディアを惜しみなく投入している点を評価しました。オリジナル・キャラクターの造形も秀逸で、もっと掛け合いを読みたくなります。(冲方丁)
ギャングに捕まった保護証人を助け出すため、イースターズ・オフィスの面々が動く。
日夜カジノに通い詰めポーカーに興じるギャングのリーダー、<バレル・フィッシャー>には流儀がある。それは、ポーカーに勝った日には恩赦を出す事。
保護証人を捕まえるように頼んだカジノ側、捕まえたギャング側、保護証人を救い出そうとするイースターズ・オフィス側の三つの思惑が混ざる。
カジノで負け続けるフィッシャーにオフィスはブルーの能力を使って、次々とプレイスタイルを変えさせることで勝利へと導くが、能力の乱用にによってフィッシャーの虚勢を建てた人格は崩れてしまう。
結果、フィッシャーは恩赦を与えずに保護証人を殺してしまう。ブルーの悔悟とウフコックとの溝の深まり、人の内面は他人には見えないという事。
原作キャラクターとギミックを踏襲しつつ、しっかり独自の解釈を込めて自分流に書いている点を評価しました。内容もハードで、クレバーなキャラクターが抱く悔悟という美味しいところを上手くとらえて料理していると思います。(冲方丁)
「第2回冲方塾(小説部門)」の中間選考の結果を発表させていただきます。
多数の力作を投稿してくださった皆様、並びに作品を読んでくださった皆様には、改めて深く御礼申し上げます。
※掲載の並びは作品のコンテストへの応募順となっております
講評
マルドゥック・シリーズの舞台から抜け出して「大陸側」を描き、カレンシー(通貨)やインフルエンサーというホットなテーマを取り入れ、オリジナル・キャラクターを巧みに配置するなど、評価に値する点が多々ありました。沢山の応募作の中、何よりも創作に対する意欲が抜きん出ていると感じます。(冲方丁)