初の合同コンテスト開催! 目指せ、作家デビュー!
370 作品
女子向けエンタテインメント小説レーベルの「ビーズログ文庫」、小説投稿サイト「カクヨム」、「魔法のiらんど」の三者による初めてのコンテストには、期待通りフレッシュな才能が多数集まりました。「泣ける」「オタク」「謎解き」という一見つながらないジャンルでの募集かと思われましたが、実際の選考では、その三つのジャンルがうまく融合したといえる優れた作品に出会えた印象です。各投稿サイトで切磋琢磨している投稿者の作品からは、読み手を強く意識していることが感じられました。また、ひとつの作品として完結させることができている、ということに、各作品の投稿者には胸を張っていただきたいと思います。各賞に選出された作品は、キャラクターの個性を描き出すこと、全体の構成、「あっ!」と言わせる意外性の演出が巧みで、さらには「恋愛」をはじめとする、胸に響くような要素が盛り込まれていたところが特徴です。
謎解きミステリ小説部門
「失恋した。この気持ちは聖良ちゃんにはわからないよね」
高校三年生の秋、私の留守電に謎めいたメッセージを残して菜々子は海で死んだ。
事故だった。
――でも、もし本当は自殺したとしたら?
仲違いしていた幼なじみの死の真相を知るために、私は恋をしようとする。
同級生の青井を巻き込んだ、つたない恋人ごっこを通して。
理解できない他者と失われた想いを追いかける、青春ライトミステリー。
「泣ける」小説部門
初恋の人と結婚して三年。俺は幸せな生活を送っていた。
しかしある日、その幸せは絶望へと反転し――。
彼女を救うため、時間を巻き戻す力で、俺は中学生から人生をやり直すことに。
驚愕の結末に涙が止まらない、純愛ミステリー。
愛する妻の命を救うため、タイムリープする主人公。しかし、その能力と引き換えに失うのは、最も大切な――。巧みな構成と、先を読ませる展開づくり、思わず読み返さずにはいられない、小説だからこその仕掛けを楽しむことができた。文章力が高く、リアルに情景を思い浮かべられるので、切なさが読み手に伝わってくる。賛否両論を巻き起こすまさかのラストを書き切ったことを何よりも評価したい。一方で、このラストで、主人公にもう少し救いがあると、より泣ける物語に作り込める作品でもある。
オタク主人公部門
高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。
何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。
翌日、萌はルビーと出会う。
女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。
彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。
初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?
オンラインゲームで知り合い仲良くなった女子プレイヤーに、偶然リアル世界で会ったら驚くほどの美少年で、しかも「彼女のフリをしてほしい」と頼まれてしまい――という興味を引く導入で、時代性を反映した設定を活かしつつ、主人公と彼の距離が縮まる流れを丁寧に描いていて好感度が高かった。ゲームオタクならではのエピソードをうまくちりばめ、活き活きしたキャラクターと明るくテンポのよい作品で、10代読者が憧れる恋愛として、全体的に『かわいい』という印象を強く与えてくれた。
「泣ける」小説部門
重い心臓病で何度も入院を繰り返している真尋(まひろ)は、ある夜部屋に風が吹き込むのを感じて目を覚ました。
ベッドのそばに立っていたフードを目深に被った少年は自分のことを死神だという。
そして「君の魂を貰いに来ました」と真尋に告げた。
30日以内に死ぬと告げられた真尋は「その日まで私の喋り相手になってもらおうかな」と明るく言った。
病室でいつも一人ぼっちだった真尋は死神と過ごす日々がだんだんと楽しくなってくる。
けれど運命の日は訪れてしまう。
弱弱しくなった心音。
掠れた声。
そんな真尋に死神がとった行動とは――。
これは決して結ばれることのない、死神と死を告げられた少女の切ないラブストーリー。
「ねえ、死神さん」
「なんだい?」
「私を一人にしないでね」
「……しないよ。最期まで、僕が君のそばにいるから」
病床で死期が迫る少女の前に現れた死神。余命宣告され、生きることを諦めたはずの少女だったが、やさしい死神と日々言葉を交わすうちにひかれていき――。描写の巧みさにより、シーンごとに情景が浮かんできて、切ないラブストーリーを彩っていた。ラストの展開が、ある程度予測がついたのが残念だったが、わかっていても最後まで読ませる筆力があり、涙を誘う作品になっている。ファンタジー要素も違和感なく昇華されており、「死」と向き合うことを、悲しみだけではなく優しさとともにじんわりと伝えてくれた。
講評
「失恋した」というメッセージを残して逝った幼馴染の死の真相を知ろうとするも、恋心がわからない主人公は、自分に告白してきたクラスメイトと“恋人ごっこ”を始めて――。タイトルで読者の気持ちをひきつけ、冒頭からぐいぐいひっぱっていく力のある作品。恋愛感情と真摯に向き合い、友情、人の生と死など、10代の悩みにストレートにぶつかった印象を受けた。他者の心を理解する難しさ、他者には理解できない感情を抱えることを描き出し、深く心に響く仕上がりになっていた。瑞々しい文章の中に、鋭さ、痛さ、切なさがつまっていて、読者に青春を追体験させてくれるところが高く評価された。