おしゃべりなカラスと無口なクロネコ
江藤ぴりか
おしゃべりなカラスと無口なクロネコ
ここは町外れにある廃病院。
夜が終わり、朝を待っています。
カラスは周りをカァカァと鳴きながら飛び回り、今は休憩中です。
取り壊される病院の裏庭に、黒い二匹がおしゃべりをしていました。
「やあ、クロネコさん。キミの魂はいくつ目だい?」
クロネコはカラスの言葉に答えました。
「……五つ目」
「どうりでぼくと話せるわけだ」
カラスはカァとひと鳴きします。
「ぼくたちってさ、不吉なんだって」
クロネコは耳を弾き、カラスのおしゃべりに付き合います。
「黒いし、いる場所が悪いし、縁起が悪い顔をしているから」
クロネコはしっぽを揺らし、なにも言いません。
「人間ってさ、死にそうな場所が好きだよね。病院とか、葬式とか」
カラスは、ぴょこんとクロネコに向き直りました。
「きみは知っている? この病院ってとこはそれはもう悲惨な場所さ」
翼を広げ、大げさに語ります。
「患者ってやつは常に痛みと戦い、お見舞客ってのはいつも泣いてる」
クロネコは病院のひび割れた窓を見ます。
「看護師ってのは、患者の背中をさするだけ。医者ってのは、その場しのぎの薬で患者の痛みを取り除いてやるんだ」
カラスは誇らしそうです。
「患者はそうしている間に、死んじまって白い布を顔に被せられる。ある患者は枯れ葉が一枚落ちる度に、自分が天国に行くって信じているのさ」
ため息をつき、遠くに見える町を見ます。
「……まぁ、たいていは葉が落ちる前に、虹の橋に渡るんだけどね」
クロネコはなおも同じ窓を見つめています。
「いつものことさ。人間は死にたがりやなのさ」
カラスはクロネコの視線の先を追いました。
「さっきから、あの窓ばかり見ているね」
クロネコの金色の目は、窓を見つめたままです。
「……あそこに、来てたんだ」
カラスはそれがなにかを察しました。
「ああ、あの小さなやつか」
クロネコは頭をうなだれました。
「毎日、窓の下で待ってたんだ」
クロネコは病院だったころに出会ったおばあさんの話をします。
「あの人は、ボクに親切にしてくれた」
いつもライラック色のカーディガンを羽織っていたおばあさん。
彼女はクロネコに話しかけていました。
「あんこちゃん、いつもきれいだね」
おばあさんはクロネコが寂しいと思った時に、撫でてやったのです。
「ご飯をくれるわけじゃないけど……ボクはおばあさんを、好きだった」
カラスはいつもの調子を崩され、少し不機嫌です。
「おばあさんが外に出られなくなった時、キミはネズの枝を窓に置いていたね。意味なんて、ないのに」
クロネコは答えました。
「いっとう、香りのいいネズの枝、実でも翌日には綺麗さっぱりなくなっていたよ」
カラスは答えます。
「それは看護師が綺麗さっぱり掃除したからさ。おばあさんが受け取ったわけじゃない」
「……それでも、いいんだ」
クロネコの言葉に、カラスは詰まりました。
もうすぐおひさまが顔を出します。
空は白み、雲の輪郭をはっきりさせます。
「ぼくたち、こういうのを見ているから、不吉なんだろうね」
おしゃべりなカラスは空を見ながら言いました。
「……ちがうよ」
クロネコは顔を洗い、言います。
「見てるだけ。人間が決めつけているだけだよ」
カラスは仲間の呼びかけに飛び立ち、クロネコは窓の下にいっとう香りの良いネズの枝を置きました。
おしゃべりなカラスと無口なクロネコ 江藤ぴりか @pirika2525
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