「余白の声」第20話「運転再開。ただし出発警戒」

秋定弦司

「速度を持たなかった時間のログ」

 ……

 止まっていたわけではありません。


 進めなかっただけです。


 失速でも、遮断でもない。

 ただ、速度を与えなかった時間があったというだけ。


 誰の視線も届かない場所で、計器だけは生きていました。

 数値は揺れ、理由は重なり合い、どれも単独では判断に足りなかった。


 だから、決めなかったのです。


 前に出ることも、終わらせることも選ばず、切断だけを避けました。


 ……


 反応は、確かにありました。

 増える日も、減る日も。


 そのたびに感情は動きました。

 動かないふりなど、していません。


 けれど、運転は渡さなかった。

 嬉しさも、不安も、燃料にはしなかったのです。


 燃やせば進めた可能性はありました。

 ただ、その先で戻れなくなる気配があった。


 ……

 説明は、増やせば安全になるとは限りません。


 言葉を足すほど、境界が曖昧になる場所がある。

 そういう地点が、確かに存在します。


 だから、書けることだけを書きました。

 書けないことは、書けないまま残しました。


 不足はあります。

 それでも、過剰よりは安全でした。


 ……

 回復、という言葉は使いませんでした。


 勝ったわけではない。

 取り戻したわけでもない。


 ただ、次の判断が可能な位置に戻っただけ。

 決めなくていい、という状態です。


 それは猶予ではなく、維持でした。


 ……

 この記録は、背中を押しません。


「進め」とも、「続けろ」とも言わない。

 ただ、「壊れなかった」という事実だけが、静かに残る。


 派手ではありません。

 語りやすくもない。


 それでも、エンジンは切られていない。

 それで、十分でした。


 ……

 必要なところだけを拾って。

 残りは、そのままに。


 これは結論ではありません。

 運転を続けるために残された、余白です。

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