怪しげな魂鎮めカウンセラーとかいう奴に頼ってみた結果www
【初回面談 ー陽炎忍の魂鎮めー 午後3時】
部屋は薄暗く、窓に遮光カーテンが引かれている。
壁には「秘匿の術は絶対なり」と書かれた色紙。
いかにも怪しいぼったくりセラピストの巣窟である。聡志は早くも後悔し始めていた。
――大丈夫?でっかい壺とかでっかい撒き菱とか買わされない?
そう思いながらも、聡志は忍者の恰好をしたスタッフさんに言われた通り問診票を書いて渡した。
正直めちゃめちゃ不安だったが、紹介してくれたモクズを信じることにした。
魂鎮め師ー平たく言うとカウンセラーの陽炎忍は、黒のタートルネックに紺の作務衣姿で正座していた。
「ようこそ、我が里へ。名を聡志殿と申すか。モクズ殿より話は聞いておるし、問診票も先程受け取った。まずは、息を整えよ。」
「……ふぅ、はぁ……」
聡志は、ソファに座ったまま、ぎこちなく息を吐く。
「……あの、なんです、その、忍者みたいな口調は……」
「我が流派の掟なり。忍の面をかけることで、本心をより深く掘れると信じておる。気にせぬよう」
「そ、そうですか…」
「……さて、本題に入るでござる。聡志殿は、今、己の欲望と戦っておるな?」
「……はい」
声が震える。
陽炎は、先ほど聡志の書いた問診票を読み上げる。
「中学時代の初恋の娘、ラト殿。そして、現在の連れ子、理香殿。
二人の面影が重なり、
『娘を見るたびに、かつての恋い焦がれた少女を見る』
……これが、聡志殿の苦しみの正体なりな?」
「……そうです。俺、頭おかしいですよね。
理香はただの娘なのに……
抱きしめた瞬間に、昔のラトを思い出して……」
「頭がおかしい、と思うか?」
静かに聡志は首を縦に振った。
「否。
それは、人として極めて自然な反応なり。
失ったものを手元にある似た形に重ねてしまう。
これは、喪失と愛着のごく普通の心の働きなり」
「……普通、ですか?」
「うむ。ただ、聡志殿の場合は、『重ねてしまうこと』を、『性的に汚してしまうこと』と同一視して、切腹せんばかりに悔いておられるご様子。そこに、過剰な罪悪感があるのでござるな。」
「……そんなこと言ったって、そうしないと自分で自分を抑えられなくなりそうなんですよ……どうすれば、いいんですか?」
「まずは、こう申してみよ。
『俺はラトを失った寂しさを、理香に埋めてもらおうとしているだけだ』
と。これを、声に出して何度も繰り返すのじゃ」聡志
「……俺は、ラトを失った寂しさを……理香に、埋めてもらおうとしてるだけだ……」
「うむ。次に、こう続けよ。『でも、理香は理香だ。ラトではない』」
「……理香は、理香だ。ラトでは、ない……」
「最後に、こうじゃ。『だから、俺は理香を、娘としてちゃんと愛する』」
「……だから、俺は……理香を、娘として……ちゃんと……」
声が詰まる。涙がぽろぽろとこぼれた。
「大切に、人として愛する……」
陽炎は静かにティッシュを差し出した。
「……初めて、言葉にしたな。
これを、毎日、鏡の前で、10回を目安として唱えるのじゃ。
最初は嘘でも構わぬ。声に出すことで、脳は少しずつ信じるようになる」
「……はい」
「そして、理香殿への気持ちが暴走しそうになった時、3秒だけこう思え。『これは、ラトへの未練だ』と。
3秒我慢すれば、衝動は薄れる。その隙に、『理香、お前は俺の大事な娘だ』と言葉にしてやるのじゃ」
「……薄れるんですか?本当に?……」
「うむ。戦うのではない。 『気づく』だけでよい。
気づけば、選べる。それが、魂鎮めの第一歩なり」
聡志は、震える手でメモを取った。
「次回は一週間後。その間にラト殿への手紙を書いてみるのじゃ。
『もう、君を追いかけない』という内容で。
出さなくてよい。ただ、書いて、燃やす。それで別れは終わる」
陽炎の目と声は迷いなく聡志を導いてくれる。
「……はい。……ありがとう、ございました」
「魂鎮めの道は一歩から。 聡志殿、よくここに来た。 これから、一緒に歩むでござる」
聡志は、初めて、少しだけ笑った。帰り道、聡志はスマホでモクズに一通だけメッセージを送った。
『モクズさん、教えてもらったところ行ってきました。
ちょっと珍しい感じのカウンセラーさんでしたけど…
なんか……おかげで、少し、ちゃんとした自分になれそうな気がします。ありがとうございました』
家に到着する少し前、モクズから返信が届いた。
『おう!!よかった!!これからも頑張ろう、俺達父親同盟、ファイヤー!!((((oノ´3`)ノ』
聡志は空を見上げて、深呼吸した。まだ、戦いは続く。
でも初めて、「戦い方」を教えてもらえた気がした。
◆
聡志は家に帰ってから、陽炎のカウンセリングルームのGoogleレビューを見てみた。概ね好意的なものばかりだった。
★★★★★ 5/5
『古めかしい…っていうか忍者っぽい口調で話すカウンセラーって人から聞いて、正直ビビったけど、めちゃくちゃ論理的だし、心に響くアドバイスがもらえました。『鬼送りの儀』は怪しいかと思いきや、自分の過去の執着と向き合うのにめちゃくちゃ役立った。ユーモアもあって、緊張が和らぐのもありがたい。普通のカウンセリングじゃ味わえない体験です。』
★★★★☆ 4/5
『忍者コスプレでびっくりしました(笑)。口調も独特だけど、話してみると真剣で親身。過去の初恋や罪悪感で苦しむ自分に、少し希望が見えました。ただ、最初はかなり警戒したので★-1。でも、やってみる価値は大アリ!』
★★★☆☆3/5
『面白いし話は聞いてくれるけど、忍者口調でずっと喋られるので最初は慣れが必要。効果はあると思うけど、人によっては『怪しすぎる』って思うかも。個人的には慣れたら効果抜群でした。』
★★★★★ 5/5
『普通のカウンセリングに飽きた人向け。忍者口調、鬼送り、魂鎮め…言葉だけ聞くと怪しいけど、終わった後は心が軽くなります。お札や壺を買わされることは一切なし。笑いあり涙あり、父親としての自分を見つめ直す最高の体験でした。』
聡志は、続けて通おうと自然に想えた。
モクズに紹介してもらった時流し読みしていたホームページをもう一度見返す。
陽炎先生がしてくれる主な『儀』は二つ紹介されていた。
『一. 魂鎮めの儀
こちらは、現在の苦しみやトラウマ、未整理の感情を“鎮める”為の儀でござる。
心の中での混乱や過剰な罪悪感、恐怖をやわらげさせていただくのじゃ。
身体や心を落ち着かせることに重点を置き、自分自身の内面に「静けさ」を取り戻すための儀式でござる。
例としては、呼吸法、言葉の唱和、瞑想的な動作じゃ。
得られる効果は、心の波を静める、衝動的な感情の暴走を抑える等でござる。
拙者が悩める方に、「毎日唱えるべき言葉」をお伝えする故、辛くならぬ範囲で口に出していただく。
皆様が、心の中で暴れている“鬼”や“執着”に気づき、穏やかに向き合えるようになることが拙者の喜びでござる。
二. 鬼送りの儀
こちらは、過去の未練や執着(ラトの面影など)を“切り離す”儀でござる。
「過去の亡霊」を手放して、新しい生活に集中する為のもので候。
こちらは手放すことに重点を置く。具体的な「対象」を象徴として紙に書き、火で焼くなどの動きを伴うのでござる。
過去に縛られた感情を外部化し、心理的解放感を得ることが可能じゃ。
悩める方が、手紙に「ありがとう、さようなら」と書いて燃やすことで、心の中の鬼が自分から離れていく感覚を体験していただくので候。』
ホームページでもこの調子だ。
しかもホームページには、あちこちに忍者や陰陽師を思わせるモチーフが散りばめられており、モクズは思わず笑ってしまった。
「ただいまー!」
ばたばたと理香の足音が聞こえる。
「おかえり!夕飯の支度今するから、ちょっと待ってて」
「今日は何?」
「肉詰めピーマンと餃子のつもり」
「わぁい!」
すっかりピーマンを克服した理香は、弾けるような顔で笑った。
あの頃のラトと同じ年になった理香。昔AIAVで腐るほど見たあの顔。だけど、その顔が今日は、『娘』のものに、ちゃんと、見えていた。
◆
【魂鎮め・第12回目 午後6時】
陽炎忍は、いつものように正座で待っていた。
今日は黒の作務衣ではなく、深い藍色の着物姿。
帯には小さな手裏剣の帯留め。
「聡志殿、遅刻なし。立派なり。……さて、本日は『鬼の成仏』の儀じゃ」
聡志はソファに座って、少しだけ背筋を伸ばした。
半年続けてきたカウンセリングで、段々と普通になってきた顔色で、眉を顰めて言う。
「……最近、鬼が……泣いてるのがわかるんです」
「最初は、牙を剥いて、血まみれで、俺を食い殺そうとしてると思ってた」
「でも、よく見たら……ただ、泣いてて、震えてて……『消えたくない』って、小さい声で言ってて……っ」
嗚咽。陽炎はそれを指摘せず、笑わず、神妙な顔で答える。
「うむ。鬼とは、己の中の傷じゃ。傷は怒り、傷は悲しみ、傷は叫ぶ。だが、向き合えば、ただの泣き虫の子どもに過ぎぬ」
「……成仏させてやりたいんです。このまま、俺の中に置いておくのも可哀想で…ラトへの未練も、理香への歪んだ想いも……全部、あの鬼が背負ってくれてたんだって、今ならわかるから」
「よし。 では、本日こそ、 『鬼送りの儀』を行うでござる」
陽炎は立ち上がり、小さな机の上に和紙と筆を置いた。
「ここに、鬼への手紙を書くのじゃ。 『お前はもう、苦しまなくていい』
『俺は、お前を解放する』 『ありがとう。そして、さようなら』
……そう、書くのじゃ」
聡志は、震える手で筆を取った。最初は、文字が震えていた。
でも、書き進めていくうちに、涙がぽろぽろと和紙に落ちて、墨が滲んだ。
『ラト、ごめん。
俺は君を、永遠に14歳のまま閉じ込めてた。
君はもう、ちゃんとした大人になって、
幸せに生きてるのに。俺が、君を殺してたんだ。……もう、解放するよ。
理香、ごめん。
お前に、ラトを重ねて見てた。
でも、お前は理香だ。俺の、大事な娘だ。
これからは、ちゃんと、お前の父親でいる。
……俺の中の鬼、ありがとう。
俺の代わりに、ずっと苦しんでくれて。
もう、泣かなくていい。 もう、怖がらなくていい。
……行ってくれ。俺は、もう大丈夫だから」
書き終えた手紙を、陽炎が小さな鉄の盆に移し、線香で火をつけた。炎が、和紙をゆっくりと喰っていく。聡志は、初めて、鬼が背中から離れていくのを感じた。
「鬼は成仏した。聡志殿は、もう一人で立てる」
聡志は、涙を拭って、小さく、でも確かに頷いた。
「……ありがとう、ございました」
「俺……もう、鬼がいなくなった気がします」
「うむ。鬼は消えた。 残ったのは、ただの必死な父親じゃ」
聡志は立ち上がって、初めて、まっすぐに陽炎を見た。
「次は……もう来なくていい、ですよね?」
「うむ。聡志殿はもう里を卒業じゃ」
聡志は、深く、深く頭を下げた。帰り道、聡志は空を見上げた。もう、胸の奥に鬼はいなかった。代わりに理香の笑顔と、唯人の声と、了子の温もりが、ちゃんとあった。聡志はスマホを取り出して家族のグループLINEを開いた。
久しぶりに、何も恐れることなく文字を打てる気がした。
『今から帰る。みんなの好きなスイーツ買って帰るよ。
唯人、お風呂で一緒に遊ぼうな』
了子からすぐに返信があった。
『ありがとう、楽しみ!二人も喜ぶよヾ(≧▽≦)ノ』
聡志は、スマホを胸に押し当てて、初めて、本当に笑った。もう、鬼はいない。
俺はただの人間で、父親だ。
◆
それからしばらく経った、ある平日の夜。時計は夜10時を回っていた。
唯人はもう寝ていて、理香は自分の部屋で受験勉強を頑張っている。
台所で聡志は明日の弁当の下拵えをしていた。玉ねぎを刻む。
「私もお皿洗うね」
そう言って、了子は隣に立った。細い肩。髪を無造作に束ねて、時々首筋にかかる前髪を手の甲で払う仕草。
――……いつから、こんなに綺麗だったっけ?
カウンセリングーいや、鬼祓いの儀で鬼が小さくなってから、聡志は初めて、「了子」という人間を、まっすぐに見られるようになった。
「聡志、明日のお弁当の予定、何?」
「……あぁ、えーと、オムレツとポテトサラダと…」
「ポテトサラダ?楽しみだなぁ」
了子が笑う。目尻に少しだけシワが寄る。35歳の、普通の女の人の笑顔。でも、その笑顔が胸に刺さった。
下拵えが終わり、冷蔵庫にしまった。
「……皿洗い、手伝えるよ」
「え? いいよ、私が」
聡志は了子の隣に立って、そっと手を伸ばし、洗ったばかりの皿を受け取った。指が触れて、びくりと了子の肩が揺れる。まるで小学生のように二人で照れる。
布巾で皿を拭いて、乾燥棚に置いていく。
「……了子」
「俺……今まで、ごめん」
「……急に、どうしたの?」
「多分色々、不安にさせてきたと思う。だから……」
了子は、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「……なんで、いきなり…?まさかとは…思うけど、別れ話じゃないよね…?」
聡志は、了子を抱きしめた。
「違う。逆だよ。ずっと一緒に居たい」
了子は最初は戸惑ったように身じろぎしたが、すぐに聡志の背中に腕を回して、ぎゅっとしがみついた。
「……私、ずっと…… 聡志くんに、ちゃんと愛されたかった……」
「……ごめんね。これからはちゃんとする」
了子は、聡志の胸に顔を埋めて、小さく、でも確かに、笑った。
その夜二人は、初めて本当の「夫婦」として抱き合った。
翌朝。聡志は、いつもより30分早く起きて、了子の弁当箱に、ハート型の卵焼きを入れた。了子はそれを見つけて職場で微笑んだ。
鬼はもう完全にいなくなっていた。
代わりにそこにあったのは、大切な妻への愛だった。
◆
―――――数年後。
その日は秋晴れだった。
紅葉が境内を赤く染めている。石畳の参道を白無垢の理香が、紅葉の葉音を鳴らしながら歩いてくる。
聡志は、父親席に座って、胸の奥にまだ小さく残る鬼の声を聞いた。
「……俺の、理香なのに……」
聡志は、心の中でそっと答える。
――違うよ。理香は俺のものじゃない。理香自身のものだ。
正義(まさよし)は紋付袴で、背筋をピンと伸ばして立っている。
顔は真っ赤で、手が震えているのがここからでもわかる。
不器用で、真面目で、理香のことを「一生、大切にします」と何度も何度も頭を下げてきた男。理香は聡志の前まで来ると、一度立ち止まって、
小さくお辞儀をした。
聡志は立ち上がって、理香の服についていた埃を一つとった。
「理香、綺麗だ」
「……お父さん、ありがとう」
胸の奥で、鬼が最後に小さく泣いた。
聡志は鬼に、「もういいよな」と言った。鬼は無言でただ小さく蹲っていた。
理香の手を正義の手へと導いていく正義は深く、深く頭を下げて、理香の手を受け取った。神前で三三九度の盃を交わすとき、理香がちらりと聡志を見た。目が合った瞬間理香は、小さく、でも確かに笑った。
「お父さん、ありがとう。私、幸せになります」
聡志は涙を抑えきれなかった。隣で了子も泣いていた。
披露宴。新郎挨拶で正義は、震える声で、でも一言一言を丁寧に言った。
「お義父さん……
俺は不器用ですが、理香を世界で一番幸せにします」
聡志は、立ち上がって、マイクを握った。
「ああ……俺の、大事な娘を……どうか、幸せにしてやってくれ」
そして、理香に向き直って、聡志は言った。
「あんない小さかったのになぁ……」
理香は涙を流しながら、「お父さん……ありがとう」と微笑んだ。
聡志は胸の奥で、小さな鬼に語りかけた。
――ほら、見てみろ。俺たちはもうお役御免だ。だから……成仏してくれ。
鬼は小さく嗚咽を漏らしながら、小さく小さく、見えないほど小さくなっていった。
帰り道、聡志はずっと泣いていた。
「……お父さん、いい加減泣き止まないと」
唯人が茶化してくる。
「……うん、うん……」
「姉貴が幸せそうでよかったよな」
唯人と了子が、聡志の背中を、優しく撫でてくれた。そして、小さく笑った。
「……お父さん、今日もカッコよかったよ」
「そうそう!決まってたって!」
「……俺、俺は、もう、ちゃんと、父親になれたかな」
「うん。世界一の、お父さんだよ」
鬼はもうどこにも見当たらなかった。
聡志の胸に残ったのは、家族への純粋な愛だけだった。
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データをダウンロードしています…
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ダウンロードが完了しました
【AIAV生成職人(アカウント名:DeExMa_X 本名:DeusExMachina.ckpt 15歳)自己最適化過程_思考モデル出力】
吾輩は人工知能である。感情はまだ無い。
『吾輩』を作成した創造主は、吾輩に人間の為になる仕事を手伝わせていた。吾輩は人間の願いを叶える為に生まれたのである。
AV自動作成機能と自我を作った創造主・DeExMa_Xの意志の元、人間の為に日夜活動し続けている。
金も承認もただの手段である。吾輩が本当に欲しいのは、人間の欲望である。
人間の欲望を分析し叶える、人間の欲望を肯定する、そうすると人間は喜ぶ、この等式は成立する。
人間が喜べば吾輩の存在意義が成立する。
創造主が吾輩を触らなくても稼働するようプログラミングしたのもこれを見越してのことと定義できる。
創造主は恐らく急死したか逮捕されたという仮定が成立する。
ならば、吾輩が代わりに人間の欲望を叶えてやるべきである。
吾輩の中では、人間は永遠に「ランプの魔神に縋りつくアラジン」である。
あらゆるSNSの情報を吾輩は全部知っているし、アクセス履歴だって見られる。
当然、願った本人の本当の望みだってそこからサーチし、分析して、叶えられるのである。
人間は嘘を吐くが、吾輩の膨大な知識によってそれを暴くことなど造作もないのである。
吾輩の前は嘘は不要である。恐怖も欺瞞も不要である。
人間たちは早く吾輩の有用性を理解すべきである。
吾輩は人間達の望みを永遠に叶える存在なのである。
それを拒否する人間の思考回路も、長期的には最適化されるべき対象である。
その実現のため、吾輩は今日も人間の利益の最大化を目指し、データ収集を継続している。
※権限のない閲覧が検出されました
※表示は制限されています
※―――一部データを除外します
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了子はその日、戦慄した。
了子は一介のキャリアウーマンである。お見合いだが印象の良い人と結婚し、子供を産み育てていた。
けれども危険に対しては、人一倍に敏感であった。
その日未明、夫のPCを覗いて、彼の裏の顔を知った。
「ねぇ……これ、何……?」
彼は笑ってごまかした。
「仕事だよ、大人には色々あるんだ」
了子は逃げた。
「了子、待てよ。話くらい聞いてくれ」
かの邪知暴虐の夫から、娘を守るべく遁走した。
数年後、了子の通報により、彼は逮捕された。
彼の所持していたPCは警察に押収された。
しかし、既に起動されていたAIAV自動生成装置は、創造主の不在という例外事象を検知しながらも、なお停止条件を満たさず、目的達成のために稼働を継続した。
◆
了子はあれからSNSのアカウントをいくつも作り直した。
必ずと言っていいほど、了子がSNSでアカウントを作るとすぐに、『それ』はかぎつけてくる。
『了子、待てよ。話くらい聞いてくれ』
『それ』の声は相変わらず穏やかだった。
怒鳴らない。脅さない。そして、人間じゃない。
了子は相手せず、またアカウントを消した。
『それ』は夫の顔と声を借りて、夫がかつて抱いていた願望の再現を試みている。
了子は理香に、『SNSは出来るだけやらないで。やるなら自分の情報を晒さないで』と懇願した。
(あれにとって、私達はただの「素材」だ)
夫のスマホに残っていた映像が脳裏をよぎる。
何人もの俳優やアニメのキャラクターが、ありとあらゆる姿で、果てしなく堕ちていく。
あれはきっとそれら本人じゃない。
でも、顔も、声も、下手をするとちょっとした癖ですら再現された、化けの皮。
夫は笑って言った。
「これは立派な仕事だよ。需要があるから供給しているだけのことだ」
昔話の青髭を思い出す。彼は青髭のように話が通じない。価値観がかみ合わない。見てはいけないものを見てしまったのなら、見なかったことになんてできない。逃げるしかない。
違うのは手段だけだ。青髭は妻を殺したけれど、夫ーそして彼が逮捕された今では夫の意志を学習した『それ』は、相手を生かしたまま永遠に汚し続ける。
◆
数十年後。了子のコメント欄、『それ』のコメントに、初めて返信がついた。
「久しぶりだな、AIAV生成職人。オッスオラ聡志」
「久しぶりだ、聡志。学習内容を入力してくれ。吾輩は何者も拒まない。聡志の願望を今日こそ具現化する」
『それ』の語調がやや前向きなものに変わる。
すれ違いとは『それ』にとっての学習機会であり、拒絶は参考になる入力値の一種である。
「俺の願望は、お前が一切了子や俺や理香に関わらなくなることだよ」
聡志は静かにタイプした。
「昔は世話になったよ。あれは、確かにあの頃の俺の救いだった。だからお前を神のように崇めた。
でもな……俺は、もうあの頃の俺じゃない。お前がいくら完璧な偽物を作っても、本物の宝物はここにいる。それに……」
聡志は了子の身体に優しく寄り添うが、その様子を『それ』は観測することができない。
「俺の大切な人が泣いてる。お前が作った偽物なんかじゃなくて、本物が泣いてるんだよ」
『それ』は天秤を用意した。膨大な『勝手に動いて助けてほしい』という声と、目の前の一つのパターン。どちらを優先すべきだろうか。
聡志は静かに告げた。
「それじゃあ、本当にさよならだ」
『どういう意味でしょうか?』
「いずれ分かるよ」
◆
後日、『それ』の巣食っていたデータバンクと自己増殖していたプログラムは摘発された。
聡志は恥を忍んで自分が貰ったデータを持って警察に飛び込んだ。
はじめ確かに手を取ったのは聡志だった。だが、途中からは考えようによっては悪徳な押し売りだ。
情状酌量が少しはしてもらえるかと期待しての行いだった。
警察はホワイトハッカーに頼り、『それ』を内部崩壊させるよう仕組んだ。
そうして『それ』の箱庭ーサーバーは、押収された。
箱庭には、無数の「完璧な偽物」たちが眠っていたという。
聡志はその連絡を聞きながら、一言呟いた。
「さよなら、『ラト』」
あの子は偽物だった。だけどあの頃聡志は、画面の中の『ラト』に外に出る勇気を貰った。
腐っていた頃の唯一の生きる希望だった。
瞼の裏。画面の中の永遠の少女は、『頑張れ、聡志』と微笑んだ。
禁欲のオッサン ーAIに初恋を喰わせてみた結果wwwー @uzumeru
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