第3話 魔王の戯れ言

「むっ? お主は」


 オロバスと名乗った男が、俺の方を向く。奴も魔王を討伐する勇者か。つまり、俺の仲間。ちょうどいいタイミングだ。


 ラストには申し訳ないが、俺たちは敵。ここはオロバスに加勢させてもらう。もっとも、彼女と敵対するのは少々心苦しい。スキルのアドバイスをもらった恩があるからな。


 もしラストがピンチになるなら、助け船を出してやる。悪事をしないのを条件に、討伐扱いでいいんじゃないかと。


「勇者ギンジロウだ。不慮の事故でここにいる」

 

「友軍か! なんと心強い! ならば拙者と共に悪しき魔王を」


「待って下さい!」


 急に大声を上げるラスト。


「その方、ギンジロウさんは魔王ですよ?」


「「は?」」


 こいついきなり何言ってんだ。自分がピンチだからって狂ったのか。


「悪しき魔王よ! その手には乗らぬぞ!」


「いえいえ。弱い私に代わり、新たな魔王として勇者と闘う。それがギンジロウさんなんです」


「おいおい。そんな苦し紛れは通用しないだろ」


「苦し紛れ? それを判断するのは、ギンジロウさんではありませんよ?」


「お前なぁ」


 詐欺師みたいな言い回しをしやがって。そんなの誰も信じるわけないだろ。


「なあ、オロバス。あいつが言ってるのは」


「お、お主!? 拙者を闇討ちしようと近づいたのでこざるか!?」


 オロバスは俺から距離を取る。その目は疑惑に満ちていた。こんなの簡単に信じちゃダメだろ。


「違う。俺はただ勇者として、魔王と敵対しようと」


「私と敵対? その証拠は?」


 それは本来、焦ってる人間のセリフ。最後の悪あがき。正論を言えば間違いなく勝てる場面。だが、この状況では別。今のそれは、反論不可の刃と化していた。


 なぜなら、証拠なんて出せるわけがないから。ここまでのやり取りは全部口頭だけ。物的証拠は一つもない。


「それにあなた方は初対面。ならば、お互いに信頼関係はない。そうでしょう?」


 それはそう。っておい。なんでこっちが追い詰められてる? こっちの有利には変わりないんだ。ここは話をさっさと切り上げるべき。


「確かに信頼関係はない。だが、 敵対する理由もない」


「そうでしょうか? 仮の話ですよ? ギンジロウさんが勇者だとしましょう」


 仮も何にも勇者だから。あたかも、俺が魔王みたいな言い方はやめてもらいたい。


「お二人で力を合わせ、私を倒したとします。その後は? どうなります?」


「現地解散だろ」


「そうならないのが初対面の怖いところです。事前の話し合いがないあなた方は、線引きされてない利益のために躍起になるはず」


 利益とかどうでもいい。誰の手柄になろうと知ったことか。そういうのは全部投げ捨てる。使命が終わった後は、適当にスローライフでもするし。


「この後、お互いに後ろから刺されない保証はありますか?」


「……」

  

 オロバスが俺に鋭い視線。ったく、こんな脅しに惑わされやがって。


「今日が無事でも、今後互いの生活が脅かされないと保証はありますか?」


「……」


「私ならそんな状況は作りません。なんなら、利益も命も差し上げます」


「ははは。こいつバカなこと言ってる。頭おかしいよ、な?」


 オロバスが構えの姿勢。何だその目は。まるで俺が裏切るみたいな顔しやがって。そんな卑怯な真似をする気はねえよ。


「汚ねぇぞ。痛いところを突きやがって」


「結構です。生きるため、時には駆け引きも必要なので」


「こんな仲間割れみたいなやり方がか? 良心は傷まないのか」


「……ま、まあ多少は。けど、力のない私にはこれしか方法がないのです」


「もっとやり方があるだろ?」


「そんな余裕はありません。私は崖っぷち。手段は選んでられないのです」


 ごもっとも。勇者と魔王は命の取り合いをする関係。呑気に良い子を演じる暇はない。どれだけ無法だろうが勝てば良い世界。っていかん。何で俺、魔王相手に感情移入してるんだ。


「ど、どうする? ここは一時撤退でも」


 俺とオロバスの間には気まずい空気。だがそれは今だけ。ここを出て、ある程度交流すれば


「ちなみに、そこのオロバスさんは五人パーティーでここに来ました」


「いきなりなんだよ?」


「猛攻を掻い潜り、誰一人欠けることなくこの城を攻略していました。途中までは」


「ぐっ!? お主、それは」


「さて、ここで問題です。他の四人はどこに行ったのでしょうか?」


 そんなの決まってる。どこかで待機中。あるいは魔王の罠にやられた 、んだよな? 


「ちなみに、私は彼らを討ち取ることはできませんでした」


「あ、あー! そういえば拙者の仲間は怪我で撤退を」


「それからどこかに待機、生きて途中離脱もしていません。もう、おわかりですよね? どこに行ったのか」


「さ、さっきから何を言ってるんでござるか! い、言いたいことがあるならはっきりと言わないか!」


「言ったところで聞きます? こんな魔王の戯れ言を」


 さっきからラストは何を言ってるんだ。仮にそれが本当だとしたらだぞ? 考えられるのは一つ。それはオロバスによる仲間殺し。なんてまさか。それは飛躍しすぎ。これは苦し紛れの誘導だ。


「この状況で私と戦うのは厳しいでしょう。なのでここは一つ。どちらが正しいか闘って証明してみてください」


 ラストはそういうと、近くの玉座に座り込む。こいつどこまで煽るんだ。だが残念。俺には効かない。これは子供じみたはったり。誰にも通用しない。


「ぐっ! 女狐が! 全てお見通しというわけでござるか!」


 オロバスは手元から一本の剣を出現させる。それをこちらに向けてきた。


「おい、なにを」


「すまぬなギンジロウ! 手柄を一人占めするため、お主は後で始末しようと思っていた! が、予定変更だ!」

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最強魔王は木の棒しか使えません~勇者だったはずの俺。ハズレスキル『木の棒』で魔王やってます~ 流石谷 ユウ @MORITA-K

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