序章 Smoulder〜惰性のスリーピース〜

「おつかれさまです」

翌日、授業が終わり音葉は部室に入る。

見ると既に先客がいた。

「あら、音葉。おつかれさま」

赤い髪を上で纏めている、キリッとした顔立ちの部長、朱音(あかね)だ。

「音葉ちゃん、おつ〜」

気の抜けた口調で挨拶を返してきたのはウェーブの掛かった銀髪に、着崩した制服姿の副部長音亜(ねあ)だ。

2人は各々の機材の準備中だった。

音葉も準備を始める。

「先輩達は卒業しちゃったし〜、3人でやるわけじゃ〜ん?パート分けどうしよっか〜?」

ドラムセットの調整をしながら、音亜が尋ねる。

「音亜はドラムで固定でしょう。音葉は元々ギターだから…いったん私がベースを弾きながら歌を入れる形で良いと思うわ。」

マイクをスタンドにセットし、PA機器の調整をしながら朱音が答える。

「ボクも、とりあえずそれで良いかな、と思います」

さすがに去年一年間は同じ空間にいるため、会話は出来るようになった。ぎこちないけど。

自分もギターをスタンドに置き、エフェクターを繋げる。

昔の名バンド、NIRVANAのギターボーカルであるカート・コバーンに影響されて買った、BOSSの名機"DS"と、エレハモ製のコーラス"SMALL CLONE"、その2つをワンタッチで切り替えられるようにスイッチャーという機材に接続すれば準備完了だ。

このスイッチャーに接続する事で、クリーン+コーラスと、歪み単体とをスムーズに切り替える事が可能になる。エフェクターの種類を増やせば、もっと複雑な使い分けも可能になるが自分にはこれで必要充分だ。

「前から思ってたけど〜、音葉ちゃんのギターってカワイイよねぇ〜♪」

セッティングが終わり、ヒマを持て余していた音亜が言う。

「えぇ…?カワイイ…ですか?いや、たしかに気に入ってはいますけど…」

音葉のギターはエピフォンと呼ばれるメーカーで作られたレスポールと呼ばれる機種だ。

ギブソンという世界でトップレベルに有名なギターメーカーの子会社で、自分達のような高校生が手に取れる価格にまで抑えた廉価モデルを作っているメーカーだ。

とはいえ、親会社のギブソンの遺伝子はきちんと受け継がれており、本家の直系だけが名乗る事を許された「レスポール」の名も継承している。

カッコいいならわかるが、音亜の言うカワイイ要素がどこにあるのかは謎である。

「ワインレッドのちょっと大人?な色に〜、木目が透けて見えてるの、ちょ〜カワイイと思うんだよねぇ〜」

音亜の独特の感性だけは、何年の付き合いになってもわからないだろうなと音葉は確信した。


全員がセッティングを済ませ、朱音の提案した曲を3人でカバーする。

卒業生が在学していた時代でも、なんとなくの雰囲気でカバーして遊ぶといった、かなりユルい部活であった。

それが卒業してしまった現在。残った音葉、朱音、音亜のスリーピースで出来る曲となるとどうしても限られる。

大音量で演奏できるのは楽しいけど、何か物足りない。

卒業生が抜けた分の楽器パート、目指すべき目標、自分達に無い新たな刺激…

口には出さないが、全員がくすぶったような同じ気持ちを秘めたまま惰性のスリーピースは続いていった

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ビビッド☆ロック てんちょ @10-tyo

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