序章 Sign〜美弦(みつる)編〜
序章 sign〜美弦編〜
目を覚ました美弦は寝ぼけたまま制服に袖を通し、下着が見えないようにスパッツを履く。
そして自分のアイデンティティであるドクロをあしらったチョーカーを仕上げに装着して欠伸をひとつ。
今日から着る、高校の新しい制服はやや大きめでダボッとしている。
ボーッとしながら時計に目をやるともうギリギリの時間だった。
「やっべ」
寝ぼけていた頭が一気に覚醒する。
寝起きはなぜかいつもより時間の流れが早い気がするが、たぶん気のせいだろう。
寝癖の直りきらなかったショートヘアで家を飛び出す。
入学式から遅刻なんてさすがに悪目立ちがすぎる。
改札を駆け抜けて、どうにか電車に飛び乗り一息つく。
近くにいた女子大生2人組がその様子を見ていたのか、小声で話しているのがかすかに聞こえた。
「ねぇねぇ、あの子中学生かな?ちっちゃくて可愛いよねぇ」「うんうん、持ち帰って妹にしたいよねぇ」
聞こえなかったフリをして少し離れた座席に座る。
どうにもならない事だが、昔から小柄な自分に少しコンプレックスがある。
性別的に「可愛い」は褒め言葉であるはずだが、その言葉には"小動物"や"妹っぽい"という意味合いがあるように感じて素直に喜べない自分がいる。
小さくため息をつき、学校へ向かう。
入学式が終わって教室へ戻ると何人かのクラスメイトに話しかけられた。
「ねぇねぇ、みつるちゃん!そのドクロのチョーカーすごくオシャレだね!」
「ライン交換しよ!」
そんな会話を数人と交わし、ラインを交換する。
ごった返したような人混みは苦手だが、普通に会話する分には問題ない。
普通に会話はするし、交流も最低限している。
ただ、自分にとってギターの優先順位がそれより上というだけだ。
「ねーねー!みつるちゃんは部活どこ入るのー?それとも入らないでバイトとかー?」
隣の席に座るクラスメイトと話していたら部活の話題になった。
「軽音部に入る予定。あと、部活終わりにバイトも入れるつもりだよ」
自分が現在使っている機材であるFenderのストラトキャスターは、洋楽好きな親戚から使わなくなったからと譲り受けたのだ。
入学したての高校生が手を出せるような安物ではなく、使えば使うほど良いものだと重々承知しているし気に入ってもいる。
しかし自分の求めている理想を追い求めるのであれば、自分で稼いで買い足していく必要があった。
「はえ〜…部活とバイト両方やるんだぁ!みつるちゃんと遊びたいのに寂しいよ〜」
クラスメイトはちょっと残念そうだ。
「部活は毎日あるけど、バイトは週3〜4日くらいのつもりだから、まぁえっと…バイト無い日なら良いけど…」
高校生活初めての友達が出来てちょっと嬉しい。
嬉しい反面、ちょっと照れくさくて口ごもってしまった。
「やったー!じゃ、バイト無くて、部活早く終わる時はラインしてよね!って、みつるちゃん軽音部ってことはなにか楽器できるの!?かっこいい!」
目をキラキラさせて食い気味に訪ねてきた。
「ギター…をちょっとやってて。まだまだだし、たぶん知ってる曲は無いと思うよ。」
自分のレパートリーでは、おそらくこの子が知ってるような曲は一つも無い。
逆に自分も最近の曲はまったくと言っていいほど知らないし、興味もなかった。
「そっかぁ〜。上手になったら、今度聴いてみたいな!」
屈託のない笑顔でそんな事を言われるもんだから
「ん…いつか機会があったらね」
と、返すしかなかった。最近の曲、ちょっと調べてみようかな。
そんなやり取りをして帰路につく。
ベッドにダイブして想いを巡らせる。
この高校の軽音部にはどんな奴がいるんだろうか…
「ま、どんな奴だろうと圧倒してやる。カワイイなんて言わせねぇよ」
そう呟いて相棒を手に取る。
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