年上だと思っていた幼馴染と高校で再会したら、実は年下の後輩でした。

みつぎ

第1話:私たち、どこかで会ったことないですか?

「ねえ。リクって、何歳なの?」

「ぼくは五さいだよ。あおちゃんは?」

「……年下じゃん。あたし六歳だから、リクは『後輩』だね」

「こーはい?」

「うん。あたし、『先輩』ね」

「せんぱい……」

「あたしの方がお姉ちゃんってこと。だからあたしの方が偉いの」

「えー……」

「いい? これからはあたしとは、敬語で話すこと」

「けーご?」

「あんた全然言葉しらないのね。しょーがないなあ。あたしが色々教えたげる!」


 

 

 ***

 

 

 高二の春。

 

 今日は部活動見学会。

 部活動参加が義務付けられるこの高校において、新入生にとって入学式の次に重大なイベントだ。


 そして廃部寸前の崖っぷち部活で部長を務める、二年生の俺にとっても。

 


「ふぅ……」


 部室で一人椅子に座り、俺は本を読む。文芸部らしく。

 ページをめくる音だけが、虚しく部屋に響く。

 

 さて。どれくらいウチの文芸部が終わっているかというと、部員が俺一人である。

 

 いや、正確には幽霊部員が五人いる。

 実質活動しているのは部長の俺だけで、他は全員幽霊だ。死霊術師ネクロマンサーか俺は。



「失礼しまーす」


 と。

 突然部室の扉が開き、誰かが入ってきた。

 紙擦れの音に加え、ローファーの足音が部屋に追加される。

 

 女子だった。

 

 

「あれ。お一人ですかぁ?」

 

 そう言いながら、部屋を見渡す少女。綺麗な栗色のボブヘアが揺れる。

 

 よく見ると、彼女はやけに整った顔立ちをしていた。明るい声色に加え、一つ一つの仕草が軽快で、可愛らしい女の子だった。

 

 ……恐らく新入生なのだろうが、少し驚いた。

 こんな不人気部活、やる気のない不良か、教室の隅で読書してるような地味キャラ(例:俺)くらいしか来ないと思っていたから。

 

 まさかこのような、『クラスカーストトップです』と言わんばかりの美少女が来るとは。


「……見ての通り、一人だけど」

「そうですか。ここは、なに部なんですか?」

「文芸部だよ。ドアに貼り紙あったろ」

「ふぅん。なにする部活なんです?」

「本を読んだり、書いたり……。たまに部誌とかも出すかな」


 部誌。またの名を、教師へ活動をアピールするための申し訳程度の成果物。

 

 そしてこの様子だと、どうやら入部希望で来たわけじゃなさそうだな、この子。

 

「へー、楽しそうな部活ですね」


 と、俺の説明を受けての感想を彼女はこぼす。

 いや嘘つけ。

 徐々にその瞳から、興味という名の光が消えていくのを、俺は見逃さなかった。


「私、これといって入りたい部活なくて、とりあえず適当に部室棟を回ってたんです」

「そうなんだ。なんか好きなこととかやってみたいこと、ないの?」

「ないんですよねー、これが。先輩、なんかオススメの部活あります? できれば文化系がいいかなあ」

 

 もう我が部に入る気がないことを、隠そうともしない。

 だったら早く出ていってほしいものだが、一つ下の後輩のために、優しい先輩を演じることにする。


「まあ、文化系ならベタに軽音部は人気だよな。あとは茶道部とか手芸部あたりは女子も多いし、ほどよく緩いって聞くけど」

「ふぅん……。じゃあその辺り、見てみますか。ありがとうございます、親切な先輩」

「どうも」 


 とりあえず、勧誘は無理そうだ。別に期待もしてなかったけど。


 既に他の部活へ興味を移した後輩は、さっさと部屋から出ていく――と思いきや、なぜかまだ、俺の顔を見ながら立ち尽くしていた。


「……どうしたの?」

「あの、先輩。もう一つ質問があるんですけど」

「なんだ?」

「私たち、どこかで会ったことないですか?」

「……はい?」


 学校や部活のこと聞かれると思ったら、なんだその質問……。

 

 ……でも確かにさっきから、俺も少し引っかかってはいた。

 彼女とはなぜか、初めて会った気がしない。


 だけど俺に一個下の女子の知り合いなんて、いたかな……。

 

 

「先輩。一応、名前聞いてもいいです?」


 次にきた質問に、俺は何の気なしに答える。

  

木谷理久きたにりく、だけど」

「…………」


 後輩は目を丸くし、

 

「うっそ……」


 と、驚愕の表情を浮かべた。

 

「おい、なんだその反応。後輩、キミの名前は?」

「……わ、私の名前は別に、どうでもよくないですか?」

「そんな反応しといてそりゃないだろ」

「えっとじゃあ、ヤマ……ヤマダ……」

「今考えるな偽名を! 学生証出せ」

「はいはい言いますよ! その……私の名前は、青嶋葵あおしまあおいです」

「……」


 その名前を聞いた瞬間に、脳内で溢れ出す記憶。


 小さい頃一緒によく遊んだ、ある女の子との思い出。

 過ごした時間は長くはなかったけど、鮮烈に俺は覚えている。

 

「お、お前……『あおちゃん』か?」

「……久しぶり、だね。リク」


 

 ぎこちなく敬語を崩したその後輩は――間違いなく俺が知る、年上の幼馴染だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

年上だと思っていた幼馴染と高校で再会したら、実は年下の後輩でした。 みつぎ @mitugi693

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画