エピローグ

 基地の更衣室。

 カイトはバイザーをひったくるように脱ぎ捨て、洗面台に顔を突っ込んだ。


「……温かいタオルを……! 誰か、熱いお茶と、温かいタオルをくれええええ!!」


 顔面は氷のように冷え切り、目は真っ赤に充血し、まぶたには氷の粒がこびりついている。

 彼は鏡を見ながら、鼻の頭を真っ赤にして、情けなくタオルで顔を擦った。


「カイト、お疲れ様。世界中のSNSがあなたの話題で持ちきりよ。『氷の瞳を持つ聖者』だって」

 リンが、呆れたように、しかしどこか誇らしげに言った。


「……もう、限界だ」


 カイトは温かいお茶の湯気に顔を寄せ、凍えた眼球を温めながら呟いた。


「……結局、何も変わってない。沸騰するか、凍るか、あんかけになるか。……それだけだ。……なあ、リン。俺はいつになったら、普通の湿度の世界で、普通に瞬きができるんだ?」


「そうね……。でも、今日のあなたの湯気、本当に格好良かったわよ」


 カイトは、温かいタオルを顔に押し当て、心からの、そして今日一番の潤った溜息をついた。


「俺さ……本当はわかってるんだよ……。首に濡れタオルをかけて、懐に目薬。家に帰ったら『あー、今日も疲れたな!』って言って、目にあずきアイマスクをつけてゆっくりする……それが一番効率的だって……」


 カイトは鼻声になりながら、魂の底から思いを吐き出した。


「でもさ……そんなヒーロー格好悪すぎるだろ……! 何だよ!? 目からビームを出したら即座に濡れタオルで顔を拭いて目薬をさしたら、お疲れ様ー、今日も一仕事終わったな! って帰るやつ!! そんなの……そんなの、嫌過ぎるだろっ……!!」


「あ……えっと……そうよね……」


(……手から出れば。……手から出れば、タオル一枚で済んだのに。……なんで、目なんだよ……)


 最強のビームを放つ男の戦いは、これからも続く。

 いつか、自分の肉体の設計ミスを許せる日が来るまで。

 あるいは、手のひらからビームを出す外付けデバイスが、実用化されるその日まで……。


(おしまい)

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閃光の代償は、零度で曇る かきのたね @inumohumohu11

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