第36話 拾われなかったものたち


 王都管理局・第三監査課の会議室は、珍しく満席だった。


 エルディン=クロウは、机の上に並ぶ報告書を一枚ずつ閉じていく。

 どれも途中で止まっている。

 結論が書かれていない。


「――つまり」

 彼は顔を上げた。「君は、判断を拒否した」


「はい」

 ユウキは即答した。


「回収も、消去も、割当も」


「全部やろうとしたら、全部壊れる気がしたので」


 数人の職員が顔を見合わせる。


「それは管理局としては困る判断だ」

 エルディンは淡々と言った。


「ですよね」


「だが――」

 一拍置く。「間違いとも言い切れない」


 その言葉に、空気が微妙に緩んだ。


「未確定案件が、確定されずに残ったのは初めてだ」

 エルディンは書類を指で叩く。「普通はどこかで“押し切られる”」


「今回は、押し切らせなかった」


「そうだ」

 エルディンは頷いた。「君が止めた」


 マルタが、部屋の隅で小さく息を吐いた。


「……あの子らしいね」


 リィナは何も言わず、ただ静かにユウキを見ている。


「結果として」

 エルディンは続けた。「倉庫の案件は“保留”扱いになった」


「怒られません?」


「怒られる」

 即答だった。「上からも、下からも」


「ですよね」


「だが同時に」

 エルディンは視線を鋭くする。「君にしか触れられない領域が確定した」


 ユウキは、少しだけ考えた。


「それ、嬉しい話ですか?」


「管理局的には最悪だ」


「でしょうね」


「だが世界的には――」

 エルディンは言葉を選ぶ。「保険になる」


 その言葉で、全てが腑に落ちた。


 ユウキは英雄でも、処刑人でもない。

 ただの遅延装置だ。


「今後も同じ判断を?」


「たぶん」

 ユウキは笑った。「迷いながら」


 エルディンは、ほんのわずかに口角を上げた。


「それでいい。即断即決できる者は、もう十分いる」


 会議は、それで終わった。



 夕方。

 ユウキはいつもの路地を歩いていた。


 拾われない箱。

 掃かれた跡だけ残る地面。

 名も役割も与えられなかった物たち。


 それらはまだ、そこにある。


「……次はもっと厄介になりそうだな」


 独り言に、返事はない。


 だが遠くで、

 軽くする流れが動き、

 整える意志が揺れ、

 拾う手が、静かに待っている。


 世界は一つの答えを選ばなかった。


 だが代わりに――

 選ばない存在を、はっきりと浮かび上がらせた。


 ゴミは、まだ終わらない。


 清掃も、終わらない。


 そしてユウキは今日も、

 拾うかどうかを――

 決めずに歩いている。

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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています Y.K @ykkk4

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