正しい恋人

朝陽 透

正しい恋人

私には彼氏がいる。

なのに、彼女のいる相手を好きになってしまった。


優しくて、本当にいい彼氏だ。

何も不満はない。


それなのに、

たまに見てしまうのは、

他に彼女がいる男だった。


ダメなのはわかっている。

彼氏がいるんだから。

好きになっちゃいけない。


それに、

好きになるなら、

彼氏と別れろよって話だ。


だから私は、

何もしていない。

何も、していないだけだ。


優しい彼氏と、手を繋いで歩いている。


その手はあたたかい。

ちゃんと、私のほうを向いている。


なのに、

思い浮かべているのは、

あの人の顔だった。


ダメなのに。


苦しい。


別れろって、

毎日、自分に言っている。


でも、

彼氏が優しすぎて、

一緒にいたくなってしまう。


好きな人じゃなくて、

一緒にいられる人を

選んでしまう自分が、

いちばん嫌いだ。


ねえ、

ベッドの中で、

ヤバい。


想像ばかりしてる。


甘えながら。


彼氏が言った。


「お前さ……。」


「いや、何でもない。」


少し間を置いて、

笑うみたいに。


「最近、かわいい。」


「何か……そそる。」


——いや。


違う。


……違わない。


かわいい。


彼氏も、

やっぱり、

かわいい。


この人に抱かれながら、

別の人を思い浮かべていることを、

私だけが知っている。


彼氏がキスした。


「やべぇ。ほんとかわいい。」


「俺、ダメだわ。」


そう言って、

笑っている。


——この人のこと、

好きだな、と思う。


でも、

どうしてそこで、

彼が頭に浮かぶんだろう。


ずっと一緒にいような。


その言葉が、

胸に刺さる。


抜けない。


血も出ない。


ただ、

そこにある。


私は、

何も言わなかった。

それが一番、楽だったから。


そして、その頃、

愛しの彼は、

彼女と寝ていた。


彼氏のいる彼女を思いながら。


——彼女が別れてくれたら、

俺も別れるんだけど。


汚すぎだよな、と思う。


別れても、

彼女は、

まだ付き合っている。


ゲスすぎる考えだ。


そして、

ダメだろう、と思う。


ここに、

彼女がいるのに。


それでも、

好きだと言って、


別の彼女を思い浮かべながら、

キスをしていた。


同じ時間に、

同じことを考えているなんて、

知らないまま。


そして、その彼女は、

こう思っていた。


遊ぶには、

いいんだよね。


彼って。


私って、

ダメだな。


そう思いながら、

それでも、

どこか物足りなかった。


どれだけ

好きだと言われても、


何が足りないのか、

わからなくなってしまう。


朝は来る。

何事もなかったみたいに。









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正しい恋人 朝陽 透 @toru_zero

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