初夢
山谷麻也
ついに電車は来なかった
シーン1 新型車両
どこでどう間違えたのだろうか。駅員にちゃんと確認したはずなのに。
乗客はまばらだった。
車両の中にパイプ椅子が数脚おいてある。腰かけた。
折り畳まれた新聞が目に入った。センスの悪い紙面だった。
急いで着替えたのか、ズボンと上着がいかにも不釣り合いだ。客の視線が気になった。
シーン2 上り専用
終点に着いた。みんな降りる。私は乗り換えて都心に向かうことになっていた。
一両だけの電車が後から後から乗客を運んでくる。しかし、肝心の電車は姿を見せない。
(となりのホームから出ている電車じゃないかな)
私は線路に降りた。草ぼうぼうだった。
保線区の車両が通りかかったので訊いてみた。
「新宿に出るには、どの電車に乗ればいいですか」
要領を得ない答えだった。
シーン3 田舎発・都会行き
なんとかホームに上がった。発車間際の電車がいたので、行き先を尋ねてみた。地方都市行きだった。
「おじさんはどこへ行かれるですか」
親切な田舎の青年だった。
「新宿でも渋谷でも、都会ならどこでもいいです」
青年は笑った。
「そんなところに行く電車はないですよ」
シーン4 お荷物
時計を見ると、もう一時半を回っていた。とんだ時間を食ってしまったものだ。今日は仕事にならない。
こうなれば、いったん家に帰って出直すしかない。しかし、入ってくるのは上りだけだった。
(ところで、なんで出かけてきたのだったっけ)
ミーティングの予定が入っていた。
視覚障害が進んで、転職した。創業した会社のことが心配だった。やり残したことがあったのだ。
(でも、白杖を突いた状態で、スタッフと一緒に仕事ができるだろうか)
有難迷惑になるかも知れなかった。
シーン5 覚醒
(そうだ! どこかで途中下車して、盲導犬を迎えに行ったのだ。じゃ、あの盲導犬はどうしたのだろう。あんなに鮮明に見えていた景色は、もしかして、夢を見ていたのでは‥‥‥)
タイムアップだった。
目覚ましを止め、トイレに入る。気配を察して、盲導犬・エヴァンが身震いし、スタンバイしている。
昨夜はかつて恒例にしていた樋口一葉の『大つごもり』を聴いた。
薄幸の天才作家を想い、静かに飲んだ。長生きしていたら、どんな文学を遺していただろうか。
Uターンして丸一〇年が過ぎ、新しい年が訪れた。馬齢を重ねているとは思いたくないのだが。
初夢 山谷麻也 @mk1624
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