【異星人外交官】槍

ロックホッパー

 

【異星人外交官】槍

                      -修.


 突然、管制室に警報が鳴り渡った。

 「いったいどうした。」

 「所長、レーダーが飛翔体を感知しました。そして・・・」

 管制室が小さく振動した。所長と呼ばれた男は、言い淀んだ部下の視線の先を追った。視線の先には、管制室から数キロ離れた位置にある、異星人の宇宙船専用の発着床を映したディスプレイがあった。そして、そこには電柱のような円筒状の物体がそそり立っていた。

 「どうやら、発着床に刺さったようですね・・・」


 銀河連邦のエージェントとして最初の異星人が地球に来訪して以来、毎年のように次々と新たな異星人が表敬訪問するようになった。このため、地球政府は、砂漠にある宇宙港に、異星人専門の外交機関を設置した。

 最初の異星人は地球の言語を研究し、公用語で通信してきた。しかし、それに続いて来訪する異星人達はお構いなしに自分たちの言語とコミュニケーション手段で話かけてきた。その手段は音声以外にも、電磁波、重力波、接触型など多様を極めた。

 このため、外交機関は、異星人を出迎えるよりも、むしろコミュニケーション手段と言語の解析が主なミッションとなっていた。


 「あれはなんだ?宇宙船にしては細長いな。それと、宇宙船が縦に着陸するものかな・・・」

 「所長、大きさは直径1m、長さは見える範囲で20mほどですね。さっきの振動からすると、発着床にいくらかめり込んでいるんじゃないでしょうか。」

 部下がコンソールを操作して画像を拡大すると、発着床の円筒状の物体の周囲が少し盛り上がっていた。

 「やはり突き刺さっているようです。発着床はかなり強固にできているのに・・・」

 「そうだな。まるで槍だな。これは攻撃なのか、それとも何かのメッセージなのか。異星人が現れそうな気配もないが・・・」


 その時再び、管制室に警報が鳴り渡った。

 「所長、また飛翔体です。」

 再び管制室が小さく振動した。

 「所長、次は2本刺さってます。」

 ディスプレイには、先ほどの槍から数十メートル離れた位置に新しい槍が2本刺さっていた。

 「今度は2本か。どんどん増えていくのだろうか。そもそもどこから飛んできているんだ。」

 「所長、上空カメラの映像を見ると、最初は数百メートル上空に突然現れるようですね。」

 「なんだって。ワープアウトか?ますます判らんな。」


 二人の想像通り、槍は数を増やしながら、定期的に降ってきて、一列に並んでいった。刺さる位置はすでに発着床からはみ出し、砂漠に直接刺さっていった。


 そして9回目の落下で変化が起こった。9本降ってくると予想してところが、実際には1本だけ降ってきて、しかも列から少し離れた位置に刺さった。

 「これは8進数を表しているのではないか。これが異星人の仕業だとすると、指だか、何かが8本ということかもしれないな。」

 「そうですね。だとすると、次は8進数の11で2本降ってくるということでしょうか・・・」

 外交官たちの予想は的中した。

 「これは言語を教えようとしているようだな。上空にドローンを飛ばして、映像をコンピューター解析してくれ。」

 「承知しました。」


 それから3カ月ほど槍が降り続き、異星人の言語が徐々に解読できるようになった。地球側は発着床に発光体のマトリクスを作り、点滅により異星人にメッセージを送ることに成功した。


 会話の結果、異星人は亜空間に存在しており、地球上に現れることができないとのことだった。そこで、槍状の物質を送り込み、表敬メッセージを送ることにしたそうだ。


 異星人は最後に公式な表敬メッセージを地球側に伝えたのち、姿を見せることなく消え去った。外交官たちは、異星人との会話が成立したことに安堵した。


 そして、はじめて、宇宙港の発着床と周囲の砂漠に刺さった、数百万本の槍をどう処分したらいいものか途方に暮れることとなった。


おしまい

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