第5話『見てろよ!人間ども!』

第5話『見てろよ!人間ども!』


焼きたてのアップルパイは、研究室いっぱいに甘い匂いを広げていた。

「はい、ラビノコ。できたよ」

ぼくは小さく切り分けたアップルパイを差し出す。

ラビノコは一瞬それを見てから――

ぱくっ。

「……!」

目を見開いた。

そして次の瞬間。

もぐもぐ。

もぐもぐもぐ。

しっぽを揺らしながら、夢中で食べている。

「でしょ? 美味しいでしょ?」

ぼくは思わず笑った。

「デリンゴの甘酸っぱさと、サクサクの生地がさ。最高なんだよ」

ラビノコは答えないけど、

食べるスピードがすべてを物語っていた。

ほどなくして、

皿の上はきれいに空になる。

「ごちそうさま、だね」

ぼくはふぅ、と一息ついた。

「あ、そうだ」

思い出したように、感知メガネを取り出す。

「さすがにさ。アップルパイを食べただけでレベル上がるってことは……ないと思うけど」

そう言いながら、ラビノコを見る。

―――――――――

レベル:2

攻撃力:2

防御力:2

素早さ:2

魔力:1

体力:2

―――――――――

「……やっぱり変わってないか。残念」

でも。

「……ん?」

ぼくは眉をひそめた。

「魔力が……1?」

さっきは、確か2だったはず。

「なんでだろう……?」

ラビノコを見ると、

アップルパイで満足したのか、すでに眠そうだ。

まぶたが、とろんとしている。

「魔力を使ったとすれば……いつだ?」

ぼくは頭をひねる。

「さっきの特訓? いや、あの時は魔力は使ってないはずだし……」

うーん、と唸って――

「あっ」

ひらめいた。

「もしかして……デリンゴ?」

視線を戻すと、

ラビノコは完全にウトウトしている。

「ラビノコ、ちょっと待って」

ぼくは慌てて声をかけた。

「寝るなら、少しだけ待って」

ラビノコは、うっすら目を開ける。

「ラビノコ」

ごくり、と喉を鳴らす。

「デリンゴ、出して」

その瞬間。

ラビノコの目が――

また、ほんのり光った……気がした。

ズン!

ぼくの目の前に、赤い果実が落ちる。

「……!」

「やっぱり!」

思わず声が跳ねた。

「これだ! これがラビノコの能力!」

胸が、どくんと高鳴る。

「これなら……これなら!」

ぼくは拳を握りしめる。

「魔王様の仇が取れる!」

顔が勝手ににやける。

「待ってろよ……」

ぼくは、天井を見上げた。

「見てろよ! 人間ども!」

ラビノコは、そのままころんと横になり、

すぅ……と眠りに落ちた。

数時間後。

「……ラビノコ?」

ぼくは、そっと声をかける。

「起きた?」

ラビノコは、ぱちっと目を開けた。

「待ってたよ!」

ぼくは、満面の笑みで言う。

「君はやっぱり最強の魔物だったみたいだな! ぼくの目に狂いはなかった!」

ラビノコは、きょとんとしている。

「寝て魔力も回復したみたいだし……」

ぼくは、ごくりと息を飲む。

「じゃあ、早速いくよ」

少しだけ、緊張する。

「ラビノコ」

少し間を置いて――

「人間界に大ダメージを与える生物兵器を、出して」

……。

…………

………………。

何も、起きない。

「……あれ?」

ぼくは瞬きをする。

「なんで……?」

周囲を見回す。

研究室は、いつも通り。

「魔力が戻ってなかったとか……? いや、そんなことは……」

視線を戻すと。

ラビノコが、元気いっぱいにぴょんぴょん跳ねていた。

「……おかしい」

ぼくは額に手を当てる。

「絶対、おかしい」

ぼくは不安になってもう一度あの言葉を言った。

「ラビノコ。デリンゴ、出して」

ズン!

今度は――

ぼくの足元に、デリンゴが落ちた。

「……やっぱり!」

すぐに感知メガネをかける。

―――――――――

魔力:1

―――――――――

「……なるほど」

ぼくは、ようやく理解した。

「ラビノコは、レベルに応じた魔力分しか物を出せないんだ」

だから。

「だから兵器は……出せなかった」

肩の力が、少し抜ける。

「ってことは……」

ぼくは、ラビノコを見る。

「ぼくはラビノコのレベルを上げていくしかないってことか」

ラビノコは、嬉しそうにぴょんっと跳ねた。

「……はは」

思わず、笑ってしまう。

「仕方ないな」

ぼくは、ラビノコに手を伸ばす。

「行こうか。ラビノコ。一緒に旅に出よう。」

「君が最強になるまで――ぼくに付き合ってもらうよ」

その言葉にラビノコは、弾けるような笑顔をみせた。

こうして。

最弱ステータスの魔物と、

元・魔王軍研究者見習いの、

ちょっとズレた復讐の旅が――

静かに、始まったのだった。

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『召喚じゃない。生成だ。〜ラビノコと魔王軍科学者見習いの復讐録〜』 なかごころひつき @nakagokoro

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