第2話『ノコギリ角と、いろいろな実験』

第2話『ノコギリ角と、いろいろな実験』

 

「……うん」

ぼくは研究台の前で腕を組んだ。

目の前には、例のウサギ。

相変わらず、ぴょんぴょん跳ねている。

「とりあえず、落ち着こう」

ステータスが全部1だったからって、すぐに失敗だって決めつけるのは早い。

だって、成長タイプかもしれないし、特殊条件で覚醒する可能性だってある。

そう、たとえば――

「月の光とか」

ウサギは首をかしげた。

「雷とか」

鼻をひくひくさせた。

「炎とか、氷とか、血の儀式とか……」

その場で丸くなった。

「……まあ、順番にいこうか」

ぼくはメモ帳を取り出して、実験項目を書き始める。

――――――――

・外見チェック

・攻撃テスト

・環境変化テスト

――――――――

まずは、外見。

「……ん?」

よく見ると、このウサギ。

頭のてっぺんに、なにか生えている。

最初は毛の流れかと思ったけど、違う。

「……角?」

指でそっと触れてみる。

ギザッ。

「痛った!?」

思わず指を引っ込めた。

血は出てないけど、普通に痛い。

「……え、なにこれ」

角は一本。

短いけど、形がちょっとおかしい。

まっすぐじゃなくて、

ギザギザしてる。

まるで――

「……ノコギリ?」

ウサギは、えへへ、みたいな顔でこっちを見ている。

「……なるほど」

ぼくは一つうなずいた。

「攻撃力1でも、装甲破壊タイプかもしれない」

そういうの、あるよな。

防御力無視とか、出血効果とか。

「よし、次。攻撃テスト」

研究室の隅から、木箱を引っ張ってくる。

中身は、魔物実験用の木製ダミー。

「いけ、ウサギ」

ウサギは動かない。

「……えっと」

ぼくは指で前を指した。

「攻撃を、して?」

ウサギは、ぴょん、と跳ねて――

ダミーの前で止まった。

そして。

ぺち。

前足で、軽く触った。

「……終わり?」

ダミーは、無傷。

「……じゃあ、体当たり!」

ぼくが言うと、ウサギは勢いをつけて――

とん。

ダミーにぶつかった。

音もしない。

ダミー、無傷。

「……なんか、ウサギの方が痛そうだな」

ぼくはウサギを見る。

「ノコギリ角は?」

ウサギは首をぶんぶん振った。

角は当たらない。

「……うん」

メモ帳に書く。

――――――――

・通常攻撃:弱い

――――――――

次。

環境変化テスト。

「まずは、光」

魔力ランプを最大出力にする。

研究室が昼間みたいに明るくなった。

ウサギは、まぶしそうに目を細めた。

以上。

「……月の光」

夜まで待って、外に出す。

月明かりの下で、ウサギは草を食べた。

以上。

「……熱」

小さな炎を出す。

ウサギ、ちょっと後ずさる。

「……寒さ」

氷の魔法を使う。

ウサギ、くしゃみをする。

「……特殊魔法は?」

無さそう。

「……進化は?」

しない。

「……覚醒は?」

しない。

「……暴走とかは?」

しない。

「……無敵になったりは?」

ならない。

「……」

ぼくは、その場に座り込んだ。

「まずい……おかしいなぁ」

素材は間違ってない。

設計図も、たぶん合ってる。

たぶん。

「……たぶん?」

ウサギは、ぴょん、と跳ねて、ぼくの膝の上に乗ってきた。

あったかい。

「……」

ぼくは、そっとウサギの背中を撫でる。

「お前、やさしいなぁ……ねえ」

ウサギは、きゅっ、と鳴いた。

「これってさ」

胸の奥に、嫌な予感が広がってくる。

「もしかして……」

ぼくは、ゆっくり口に出した。

「これって、失敗だったりする?」

ウサギは、何も答えない。

ただ、ノコギリみたいな角が、

月の光を受けて、きらっと光った。

「……」

ぼくは、その角を見つめながら思った。

――もし本当に失敗だったら。

――この子は、どうなるんだろう。

「……」

考えるのは、まだ早い。

きっと、まだ何かある。

最強の魔物なんだから。

そう自分に言い聞かせて、

ぼくはウサギを抱き上げた。

「……次は、もっとちゃんと調べるからね」

ウサギは、くすぐったそうに跳ねた。

でも――

その夜、布団の中で。

ぼくは、ずっと考えていた。

――これって、本当に……失敗なのか?

せめて、名称と種族が分かればなぁ……。

「……明日、感知メガネを改造してみるか」

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2026年1月2日 12:00
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『召喚じゃない。生成だ。〜ラビノコと魔王軍科学者見習いの復讐録〜』 なかごころひつき @nakagokoro

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