赤ん坊だけが残された
紺青ヤキィ
赤ん坊は残され、殺されたのは、いつも母親だった。
子育て世代が多く住んでいる町で恐ろしい事件が起きた。
ベビーカーの足に麻縄が縛られており、その紐の先には首を絞められた女性の死体が繋がっている事件が起きた。しかも1週間後に状況が同様の女性の死体が発見された。どちらの事件にもベビーカーの中に赤ん坊がいた。幸いにも赤ん坊は無事無傷であった。しかし母親が連続で殺されたことに町の人々は恐怖に陥る。
この連続事件を担当することになった若手刑事のアルフレッドは事件現場で怒りを露わにしていた。
「こんなふざけた殺し方をして……必ず犯人を捕まえてやる」
「犯人はふざけていないと思うが」
「!? 誰だ!」
アルフレッドが振り向くと事件現場に似つかない派手なスーツを着たダンディな男が立っていた。
「僕はオズ。不思議な事件が大好きで旅をしている探偵さ。もちろん事件解決にも協力してあげよう」
突然オズの紹介にアルフレッドはさらに怒った。
「部外者が勝手に入ってくるな! これは遊びではないんだぞ!」
アルフレッドに対してオズは気にせず現場を見ていた。
「わかっている。犯人は異常で早く捕まえないといけない。それは僕も賛成だ。ただ犯人を捕まえるには君が言うふざけた現場の真意を解かないといけない」
アルフレッドはオズの言葉に怯む。
「……だったら今この状況で何がわかるのか教えろよ」
「いいだろう。2つの事件には共通点がある。まず死体の母親は仰向けになって麻縄で首を縛られている。傷跡から人の手により縄で首を絞めて殺した。しかし犯人はわざわざ死体を首で吊ったような形にしている。そしてその紐はベビーカーに繋がっている。さらにベビーカーの中には赤ん坊が乗っている。もし女性だけを殺したいならベビーカーも赤ん坊もお荷物だ。でも犯人は捨てもしなければ殺してもいない。これは犯人は意図して殺人現場を作っている」
「どうしてわざとベビーカーと赤ん坊、そして絞首刑みたいな首吊りスタイルにしてるんだ?」
「2通りある。一つは犯人にとって殺人は芸術の手段であり殺人現場は作品だと考えている。そしてもう一つは犯人はこの状態に執着している。過去に何かが起きてそれが今も忘れられず残っている。それが何かの引き金により犯人は再現してしまった」
オズが話している途中アルフレッドのスマホが鳴り響く。
「もしもしどうした……なんだって?!……わかった。すぐ向かう」
アルフレッドは電話を切るとオズに顔を向けた。
「また殺人が起きた」
アルフレッドとオズはすぐ第3の現場に向かった。
ベビーカーと赤ん坊、そして結ばれた麻縄。今までの事件と同じだが、殺された母親の状況だけが違った。今までは首以外は傷一つ何もされていない状況だった。しかし今回は顔が殴られていて誰だか判別できないほど酷い状態だった。
正義感の強いアルフレッドは当然怒っていた。
「殺し足りずに殴ったのか?! 最低な犯人だ!許せない!」
一方オズは冷静に遺体を見つめていた。
「なるほど。母親か」
「おい! なに冷静に見てるんだ! 早く犯人を探さないとどんどん酷くなるぞ!」
「ああそうだな。犯人はもう冷静ではいられないようだ。その前に一つ質問がある。1件目の現場と2件目の現場は前に自殺が起きた場所かい?」
オズの質問に怒っていたアルフレッドは目を丸くする。
「なんで知ってるんだ……」
「やはりな」
オズはそう言うとポケットからスマホを出し操作した。するとスマホからホログラムの女性が出てきた。
「なんだこれは?!」
「彼女はアリス。この世の情報を解析や検索をしてくれる優れた相棒だよ」
『はぁい! 初めまして! アルフレッドさんよろしくね!』
「なんで俺のこと知ってるの?」
『さっきオズが言ったでしょ。私はこの世の情報をほぼ網羅しているって。それで、今回はどんな事件をお探しなの』
「話が早くて助かるよ。早速だがここ50年くらいで母親が自殺した事件をピックアップしてほしい」
『バカ! 母親が自殺した事件なんてどんだけあると思ってるの?! もっと絞ってよ!』
「それじゃあ首を吊った事件」
『多すぎる。もっとなんかないの?』
「なら、現場にベビーカーがあった事件。しかもそのベビーカーには赤ん坊がいた。これならどうだ?」
『それは探しがいがありそうね。見てみるわ』
オズとアリスのやり取りを黙って聞いていたアルフレッドは疑問を呈した。
「なぜ母親が自殺した事件を調べるんだ?」
「3件目の母親の遺体は殴られてた。この犯人は相当母親というものに怒りを抱き執着している。首を吊ったように仕掛けたのも意味があるなら、犯人は自分の母親の自殺が犯行のきっかけではないかと僕は推理している」
『オズの見解は正解かもね。見つけたわよ。28年前に母親が首を吊った事件で遺体の近くに赤ん坊を載せたベビーカーがあった。死んだ女性は産後うつで相当やられてたみたいね』
「その事件の赤ん坊の名前は?」
『えっと……ロビンね。あら、このロビンって人最近ここに越してきたのね』
「ロビン? もしかして僕の同級生の?」
アルフレッドの言葉にオズは驚いた。
「彼を知ってるのか?」
「ああ。仲良くはないけど同じクラスだったことがある。最近こっちに戻ってきたって話は聞いてたが……まさか彼が?」
アルフレッドが戸惑う一方、オズは真剣な表情をアルフレッドに向けた。
「アルフレッド。ロビンには恋人はいる? 元カノでも憧れだった人でもいい。その人は妊娠をしているか?」
「ちょっと待って」
アルフレッドは汗を流しながら思い出す。
「……確かユニっていう子が好きだったとか。ユニは……妊娠している……」
「アルフレッド、警察の仕事だ。すぐにユニの安全を確保。そしてロビンの居所を探せ。ロビンはユニを殺すはずだ」
アルフレッドの要請で警察全体が動き出した。しかしそれは遅かった。ユニは行方不明になっていた。
「おそらくロビンが攫ったんだろう。アリス。ロビンに関する情報をなんでもいいから教えろ」
『もうやってる! ちょっと待っててよ!』
「なんでロビンが……」
アルフレッドは少し落ち込んでいた。
「……君が警察の仕事で離れている間、アリスからロビンの情報を聞いた。彼は母親が死んだ後、父親と過ごしていたが、父親は妻の死で自暴自棄になっていたらしい。仕事を辞め酒に溺れて、さらにはロビンを虐待していた。ロビンにとって母親の存在が良くない方向で大きくなったのだろう」
「ロビンと今までの被害者たちの接点は?」
「ロビンはこの町の大きな病院で清掃員をしていた。そして被害者たちはその病院で産後うつの治療をしていた。さらにユニはその病院で妊婦健診を受けていた。これは推測だが彼女の妊娠を知ったのがきっかけで殺しはじめたのだろう」
『オズ。ユニとロビンの居場所が分かったかも。町の西側にある廃墟となった教会。その付近でロビンの車がついさっき目撃されてる』
「オズ! 車に乗れ! 俺の運転ならすぐ現場に着く!」
アリスの情報を頼りにオズとアルフレッドは教会に向かった。
教会に辿り着くとロビンのものと思われる車が停まっていた。中に入ると、誰かの泣き声が響いている。視線の先には2人の姿。泣いて地べたに座ってるユニ。そしてユニを見下ろすロビン。
「ロビン! 警察だ!」
「来るなぁ!!」
アルフレッドの言葉に反射してロビンはユニの首に手を回す。ロビンの手にはナイフがある。
「ユニから離れろ! ロビン!」
「うるさい! これ以上近づくと殺すぞ!」
「ロビン。ユニから離れるんだ。彼女を殺しても君の母親への思いは変わらない」
「うるさい! お前に何がわかるんだ!」
ロビンは大粒の涙を流している。
「母さんは俺のせいで死んだんだ。親父が言ってた。お前が殺したんだって。赤ん坊の俺は母さんを苦しめて死なせたんだ」
「君は母親の死を責める必要はないんだぞ。それに罪悪感があるなら今まで死なせてしまった母親たちのためにもユニのためにも、これ以上犯罪を増やすな」
「うるせえええ!!」
ロビンはユニにナイフを振り下ろそうとした瞬間、銃声の音が。そしてロビンは吹っ飛ばされた。アルフレッドの発砲によりロビンはユニから離れた。オズとアルフレッドはすぐさまユニを救う。
「ユニ。大丈夫だ。もう安心だ」
オズはユニを落ち着かせる一方、アルフレッドはロビンに銃口を向けたままだった。
「……ロビン。君がそんな過去を抱えていたなんて」
「なんだよ……俺の人生にお前は関係ない」
「それでも! ……君と仲良くなるべきだった……」
アルフレッドは悲しげにロビンを見つめていた。
その後、他の警察官たちが来てロビンを逮捕。ユニは病院へ搬送された。
アルフレッドは連行されたロビンを遠くから見ていた。
「君も背負う必要はない」
「わかってる。俺の正義感が許せないだけだ」
そう言うとアルフレッドはオズの方に向く。
「ありがとう。あんたがいなければ事件は解決しなかった」
「なに、お役に立てたのなら。それじゃあ」
オズはそう言ってアルフレッドに背を向け、現場から去っていった。
オズはまた不思議な事件に出会うため旅を再開したのであった。
赤ん坊だけが残された 紺青ヤキィ @konjo_8ki
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