第8話 戦闘

「かしこまりました」


 城のあちこちからぞろぞろと、メイドが数十人足並みをそろえながら現れ、素早く周りを囲まれてしまった。


(ここまでするのは、きっとユルルのことがとても大切だからね……)


 セリナは切迫した状況だが、怯えているユルルのほうに目をやり胸が締め付けられた。

 

 銃をトルテとセリナに構え、メイドは2人をきびきびとした動作で捕らえようとした。


「私が引きつけるから、あなたは逃げなさい。」


 セリナは小声でそう囁き、不可視の能力で姿を消した。


「銀髪の女の姿が消えたぞ!どこだ?」


「とりあえず緑の少年を捕らえろ!」


 メイドたちは困惑しトルテを捕らえることを最優先にいそいそと動いた。

 トルテはバタバタと一瞬で倒れるメイド達を目にし、一体何が起きてるのか、わからなかった。


「後ろ見てみろ!気絶してるぞ」


「一体どういうことだ!?」


 メイド達は突然の事態に驚愕した。


「ふふふ、こっちよ」


 そこには、音もなく、さきほど消えていたはずのセリナが立っていた。


 種は単純。まず不可視で姿を消し、持ち前の殺し屋として培った身体能力で、メイド達の真上を飛躍し、

 その後、ナイフに麻酔を塗ったあとそれを得意の投げナイフでメイドを刺し、

 セリナが囲いの外にいたということだ。


「あいつ!いつのまに!このままだと全員倒されるぞ」


「あいつを捕らえろ!」


「でも、あいつ見えなくなれるぞ!どうするんだ!」


 メイド達は指示を通りに動くが、どうすればいいかざわざわと困惑していた。


 そんな中、トルテは


「お願いします。一緒に、旅に出たいんです!」


 父親の前で、いつの間にか必死に負けまいと説得していた。

 発する子供特有の甲高い声にセリナは気付き反応し、


「なにしてるのよ!逃げなさい!」


 セリナは頭の中で警報をならしながら、眉をつりさせ切迫した声で放った。


「もう一度言う。お前にユルルが守れるのか?」


「はい!」


 その一言で、父親の中で張り詰めていたものが切れた。


「ふざけるな!」


 大事なユルルを奪われまいと、

 血管が浮きでるほど拳を握り右手を素早く振りかざした。


「トルテ!」


 それを見ていたユルルは残酷な受け入れたくない現実に、思わず目を瞑った。


 重低音が響き、空気が震えた。

 ユルルはゆっくり目を開くと、そこには信じられない光景が広がっていた。


 トルテの周りに衝撃波が飛び、トルテは少し後ろに弾かれた。

 なんとトルテが訓練されたたくましい、大人の力強い拳を受け止めていたのだ。


「なに!?」


 父親は歯を食いしばり、驚いて動きを数秒止めた。


「お願い、します」


 トルテはさきほどまで希望を持ったような表情させていたが、今度は父親を真っすぐ見つめ、強い意志を感じるような真剣な表情をしていた。


「……。」


 戦いに歴のある父親は、瞬時にただ者ではないと感じ取った。

 それとトルテの見せた恐れ知らずな力強い意志に、感心しユルルを守るに値すると判断し、拳をゆっくり下げた。


「いいだろう。よい友達を持ったな。ユルル」


 ぱあっと三人は表情を明るく浮かべて、ユルルはすぐさま父親に近づき抱きついた。


「ありがとう!お父さん!」


 ユルルはいままで見せたことのないような幸せな表情を見せて、柔らかな印象を醸し出した。

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ふれんず! だいこん @daikonz

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