第3話
足首に重さと周りの視線を感じながら、僕は席に座る。
「ところで あなたはどうして私の話を聞いてくれるんですか...?」
「...?」
「こんな気持ちが悪い話をずっと聞いてたのはあなたが初めてですよ...」
喫茶店に赤ん坊の泣き声が響く中、コトブキは僕に問を投げる。正直、僕自身もわからない。ただ最初は「小説を書いているからネタになるかもしれない」というのがあったのだが、話を聞いていくたびに何か、いや僕自身がおかしくなっていったに近い。
赤ん坊の泣き声はまだ響いていたが、店長はレコード盤を持ってきて、ロックな曲を流す。
「多分だけど 君はあの店長から警告されていますよね...?」
「なぜ それを...」
「なんとなくですよ...」
コトブキは話を続ける。
「私は 『子供』が生まれて精神がおかしくなっていたんです...」
コトブキの包帯が赤に変わり、じわじわと広がっていくがそのことは気にせず話を続ける。
「精神がおかしくなったが正解ですが もう聞こえないんですよね...赤ん坊の声が...聞こえていえるなら左耳もここで切り落とすはずでした...刃物がないから引きちぎるが正解かなぁ...」
僕は全身に悪寒が走った。(いや、まだ響いているぞ)そう僕の耳はまだ赤ん坊の声が響いている。僕自身の鼓膜がそう振動し、情報を捉えている。
「もしかして こっくりさん方式ですか...?」
コトブキはにやりと口角を上げる。
店長が警告した時、覚えている範囲だがほかの客は確かにコトブキの奇妙な話を聞いた。聞いたのだが、コトブキの言い方だと途中で聞くのを拒絶している。こっくりさんとか言う降霊術は途中で十円玉を離すのはダメなはず、確か離したら不幸が来る的な話だったような...それと同じように、彼らはコトブキの話を途中で離脱したことによって彼らに不幸が訪れた。
「ああ なるほど 僕に『伝染』もしくは『譲渡』したってことですか...?」
コトブキは頷いた。
恐らく、彼が言っている事は本当なのだろう。絵画に対し本当に「行為」をしてどういう仕組みかはわからないが実際に孕ませ、生まれた。だが彼はそれを「呪い」だと思った。思ってしまった。いや、思い込んでしまったが正しい。
「『呪い』を感染させる...いや『分散』が正しいか...『呪い』というのはウイルスみたいなもので聞いたり 見たりすることで媒介する...私は『呪い』を分散させるためにここの喫茶店に通ったんだ」
「呪いを分散させて何がしたいんです...」
「泣き声から逃げたかった...ただそれだけだよ...だから右耳を引きちぎった...」
「だから...包帯を」
「ああ おかげで少し静かになった...」
コトブキは上を向いた。右耳から何かが垂れる。
「もう あの家には戻りたくない...帰ったら泣き声が部屋の中であの...泣き声が...あの泣き声が響いていると思うと ぞっとするんだ...」
コトブキの目には涙が溢れていた。
僕の足にはまだ重みを感じ、赤ん坊の泣き声が聞こえていた。多分僕にしか聞こえていない。
「ありがとう...話を聞いてくれて...」
「話を聞く感じだと 聞いている時点で僕は呪われる確定だったってことですか...?」
コトブキは頷いた。
恐らく僕が最後まで話を聞いたのは第六感とかいうやつだと思う。聞かなきゃやばい、聞きたいとなっていたのは聞かないと不幸が訪れるかのように感じていたから...。
いや、ただの偶然だろう。僕はただ彼の「話」を聞きたかっただけだ。僕はリュックと伝票を持ちレジに向かう。コトブキのスマホは尻ポケットに入れていた。
「三千五百円になります」
「ご馳走様...」
そういって彼は喫茶店を出た。
足が軽くなり、赤ん坊の声が聞こえなくなった。
「パ...パ...」
最後にそう聞こえ彼の白いキャンパスのような右肩に赤ん坊の手形が赤い手形が描かれた。
裸婦の絵 夏炉 冬扇 @karotousen0321
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます