第10話スマホで検針?と富樫の腹筋崩壊


安藤ありさの衝撃発言と、それに対する山伏慶太のキレ芸、そして富樫警官の大爆笑という、おなじみの構図でエピソードを執筆します。


***


### 第6話:スマホで検針?と富樫の腹筋崩壊


行方不明になっていたVTuberが保護され、事件解決の祝杯と称して、おれは生活安全課の富樫さんから、いつもの缶コーヒーをおごってもらっていた。もちろん、ありさも一緒だ。


「いやぁ、それにしても安藤君の能力には驚かされたな。配信アーカイブから事件の核心を読み取るなんて、うちのサイバー課も真っ青だ。もはや君は、デジタル時代の新たな霊媒師だな」

「まあね」


ありさは富樫さんの褒め言葉にも、特に表情を変えず、スマホを弄っている。

すると突然、そのスマホをおれの方に突きつけてきた。


「**最近はね? 山伏くん!**」


ありさの瞳がキラリと光る。

「**スマホでも電気測定できるのよ。** アプリを使えば、消費電力とか電圧とか、色々なデータがリアルタイムでわかるんだから」


おれは嫌な予感がした。


「ほら、見て。ほらほら、これ」


彼女はスマホの画面をタップし、ニヤリと笑った。


「**だからあなた、お払い箱行きね!**」


その言葉と、彼女の自信満々の顔に、おれはブチギレた。

「はぁああああ!? なんだとこのクソアマァ!!」


おれは思わず立ち上がった。

「何がお払い箱だ! スマホで測れるのは確かにそうかもしれないが、おれたち検針員はな! 安全確認もするんだよ! 漏電はないか! メーターに異常はないか! 目視で、五感で確認するんだ! お前みたいに、画面だけ見て『はい、おしまい』じゃねえんだよ!」

「ふーん。でも、私の方が正確だし?」

「嘘つけ! お前がスマホで針を揺らすから佐藤さん具合が悪く寝込むんだろが! お前は電気を測定してるんじゃなくて、弄んでるだけだろが!」


おれの怒鳴り声と、ありさの涼しい顔のコントラストに、富樫さんは、さっきまで飲んでいたコーヒーを盛大に吹き出した。


**「はっはっはっは!!」**


富樫さんの笑い声が、生活安全課のフロア中に響き渡る。

椅子を倒しそうになりながら、富樫さんは腹を抱えて笑い転げていた。


「いやー、最高だな! お前ら、漫才コンビか! 山伏君のキレ芸も、安藤君の悪女ぶりも、毎回笑わせてもらうよ!」

「笑い事じゃないですよ、富樫さん! こいつ、マジで検針員の存在意義を否定してきてるんですよ!」


「でも、お払い箱は言い過ぎかなあ。だって、私が見えない『泣いてるメーター』の場所を特定しても、あなたがいなきゃ、その原因を探って供養したり、解決したりできないでしょ?」


ありさが、スマホから目を離し、珍しくおれの目をまっすぐ見て言った。

その言葉に、おれの怒りが、スッと引いていく。


「…それに、私が見てるのは『使われた電気の量』じゃないもの。その裏側にある、**誰かの感情の『残滓』**だから」


ありさは、またいつもの飄々とした顔に戻り、スマホの画面に視線を落とした。

「ま、そういうわけで。検針員は暇になったら、私の助手くらいにはなれるんじゃない?」

「誰が助手になるかァアアア!!」


おれは、またもや怒鳴り散らした。

富樫さんは、もう笑いすぎて呼吸困難になりかけている。


結局、おれは今日も、この厄介なパートナーに振り回され、そして富樫さんの爆笑を誘うだけの、しがない検針員で終わるのだ。

だが、その日々に、以前のような退屈さは、もう微塵もない。


(了)

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『磁場のおかしい家』 志乃原七海 @09093495732p

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