かんぺきな、しょくばのかんせい

サカモト

かんぺきな、しょくばのかんせい

 すべてはお金のためだった。わたしは、お金のためだけに、ここでバイトをしている。

 他のバイトの人たちの考えは、わからない。でも、わたしはお金にためだけにここに来ている。他のバイトのみんなと働いる。そして、そんな、みんなと休憩時間はいつも一緒だった。休憩する場所も一緒だった。

 働いている間は、誰かと世間話できない状況のせいか、休憩時間になると、なかには、人との会話になかなか飢えていたのか、自発的に、たくさんしゃべったり、しゃべりかけたりする人もいた。

 あるバイトの先輩もそういう人だった。休憩時間、だれか休憩室にいると、近く行き、世間話をし出す。 。

 わたしはお金のためにここに来ている、ここに人とのつながりを求めてはない。とはいえど、そんなわたしでも、多少の社会性はあるので、休憩時間、誰かに話かけられたちょっとした、あいづちをうったりはする。それから、その場で話して、その場で消えるレベルの話をする。

 でも、その日、たまたま、休憩時間、わたしと、棒よくしゃべる先輩と一緒になった。先輩は、とうぜんのように、わたしのそばに来て、あれこれと世間話を開始した。

 わたしは、オートマチックに、はい、そうですね、はは、と、三種類くらいの反応をしつつ、休憩時間なので、休憩時間の本題である自分の体力の回復につとめた。

 すると、先輩がいった。

「そういえば、お酒とか飲む方なの?」

 問われて、ぼんやりと「はい」と答えてしまった。

「あー、そうなの! じゃあさぁ、こんどさ、飲み会しようよ!」

 しまった。

 うかつ。

 飲み会の発生をうながすような反応をしてしまった。

 飲み会。飲み会には行きたくない。わたしはここへはお金を稼ぐためにバイトに来ている。すべて金のためだった。なのに、バイト先に、ぜんぜん求めてない人間関係の維持運営のために、バイトで稼いだお金を使いたくない。

 しかも、飲み会といっているけど、ここにはわたしと先輩のふたりしかいない。

 もしかすると、先輩とのマンツーマン飲み会かもしれない。

 全力回避しないと。

 でも、どうやって。

 どうやって。

「のめないです」

 と、まず言ってみた。

「え、あれ? でも、さっきのめるって」

「いえ、わたし、その日、ようじがあって」

「ようじ?」

「はい、ようじが。その、つまり、つまりようじあって」

「え? でも、その日にもなにも、まだ日付も決めてないよ………」

「つまり、つまり、じつは、つまりようじ、つまようじが、いまわたしの右腕に刺さってて、刺さりっぱなしで、毎日、名医のいる地方の大きな病院に行かなくといけなくて」

「ええっ! あっ、なに! だ、だいじょうぶなのぉ! なになになに、どうしたの、なんでつまようじが腕に………」

「昨日の夜、つまようじでだけでタゥー彫ろうとして、しっぱいして。腕に『すべては小銭のために』って文字のいれようしまして。とにかく、ようじがあるんです、ようじか体内にあるんです」

「ああ、そ………うなんだ………」

 先輩は動揺し、目を泳がせ、そのまま、もうわたしへ話かけるのをやめた。

 こうして、わたしは飲み会の卵を、孵化するまてにつぶした。

 しかも、その後、バイト先で、わたしのその時の発言職場に広まったのか、わたしを飲み会を誘うどころか、世間話を持ちかける人も発生しなくなった。

 すべてはお金のためだった。

 そう、お金の力で、わたしは、わたしの完璧な職場を完成させた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かんぺきな、しょくばのかんせい サカモト @gen-kaku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画