第2話:賢者タイムと最強女騎士

 ひょんなことから聖剣セクスカリバーをヌいた直後の俺。


 その股間からは、達した後の純白な光の残滓ホワイトスプラッシュが僅かに滲んでいる。それは、神聖な奇跡のあとのような光景だった。


 俺の心は虚無で満たされていた。あんなに熱狂した性欲も、聖剣をヌく快感も、今は遠い夢のようである。


(聖剣の反動か……ものすごい賢者タイムだ……)


 前世で幾度となく味わったこの感覚。満たされたはずなのに、全てが無意味に思えるこの虚無。


 そして、聖剣をヌいた俺を見つめる民衆の視線は、もはや軽蔑どころの騒ぎではなかった。


 民衆の否定と罵声が、波濤はとうのように俺に襲い掛かった。


「この変態野郎!」

「死ね! わいせつ罪の極刑を執行しろ!」

「神聖なる聖剣を汚した罪は重いぞ!」


 罵声とともに、硬い石や、腐った果物、液体が入った瓶などが、四方八方から容赦なく投げつけられる。


 男が投げた生ゴミの塊が俺の頬にべちゃりと張り付き、若い女性が叫びながら放った硬い木の枝が肩をかすめた。


 賢者タイム中の俺はこんなことでは怒りすら沸かない。



 その時、広場に駆けつけたのはイラマチ王国の国王だった。

 太った体に豪華なローブを纏い、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしている。


「伝説の勇者の再来が、こんな最低の変態だと? 余は許さんぞ!」


 国王は、広場を埋め尽くす衛兵百人に向けて、怒りに震えながら剣を突きつけた。


「全兵、かかれ! 神聖なる勇者を汚すあの犯罪者を殺せ! 生かしておくな!」


 という国王の言葉を合図に百人の衛兵が一斉に抜剣し、俺に向かって突進してきた。


 一斉に襲いかかる兵士たちの剣の切っ先が、キラキラと太陽の光を反射させる。

 その殺意は本物だ。百本の剣が、まるで巨大な針山のようになって俺を串刺しにしようと迫る。


 地面を蹴る兵士たちの足音が、地鳴りのように轟いた。

 俺は襲い掛かってくる剣を、聖剣セクスカリバーで防いだ。


 キンッ! キンッ! キンッ!


 兵士たちの攻撃を最低限の動きで避けながら、俺は聖剣の柄を握りしめ、力を込める。


 俺は次に何をするかを悟っていた。


「刮目せよ! 賢者の力を!」


 すると、足元の石畳に魔力の紋様が生まれ、俺の体を包み込んだ。


 ブオンッ!


 俺の体は空高く舞い上がった。


「な、なんだと!?」

「空を飛んだぞ!」


 俺は虚空で魔法を練り始める。


(火の玉……火の玉をたくさん……)


 ブゴゴゴゴォォォ……


 俺の周囲に、巨大な火の玉が十個、二十個と次々に生成されていく。赤く、熱く、不気味に揺らめく火の玉は、まるで天から降り注ぐ隕石の群れのようだ。


 「フレアレイン」――俺の脳裏に、その魔法名が閃いた。


「受け止めよ愚民ども【フレアレイン】!」


 俺が指を振り下ろすと同時に、無数の火の玉が雨のように地上へと降り注いだ。


 ドゴォォン! ドゴォォン!


 直撃した兵士は一瞬で黒焦げになり、火の玉を避けられた兵士も高熱に炙られ苦しみながら地を這いずり回っている。


 次の瞬間、地上は地獄のような光景と、苦悶の声で埋め尽くされた。焦げた肉の臭いが、広場に立ち込める。


「な……ま、魔法だと! 賢者にしか使えないはずでは……」

「まさか……」


 国王が恐怖に顔を引きつらせている。


「まさか、本当にあのお下劣な男が勇者であり、賢者なのか……」


 国王の眼前に俺は音もなく着地した。湯気を上げる聖剣を肩に担いで睨む。


「で? 勇者様を殺そうとした奴が、生きていられると思うのか?」


 俺は、聖剣の柄の先で、国王の顔面を思いっきりぶん殴った。


「ぐぇっ!」


 鈍い音とともに、国王は血を吹き出し、そのまま意識を失った。





 王宮の国王の間――


 玉座にふんぞり返る俺の目の前には、顔を腫らし、頭を深く垂れて跪く国王と、青い顔をした大臣たちが並んでいた。もちろん、俺はまだパンティ一丁だ。


「で? この勇者様をなぜ殺そうとしたんだ?」


 俺は、玉座に深く沈み込み、偉そうに足を組みながら、高圧的な態度で問い詰める。


「そ、それは、貴方様が大変お下劣でらっしゃいまして……わいせつ罪は我がイラマチ王国では即刻死罪の重罪で……」


 国王は顔面を殴られた痛みで涙目になりながらも、震える声で弁明する。


「ほーん? 聖剣セクスカリバーをヌいたこの勇者様兼賢者様を、お前らの力で倒せると?」


「いえ、貴方様のお力には到底敵わない事を、この身をもって理解いたしました。お詫びいたします……」


 国王の土下座に、大臣たちも一斉に頭を地面に擦りつける。


 俺は権力を手に入れたという事実に、内心ニヤニヤが止まらなかった。


 その時、部屋の扉が勢いよく開けられた。


 そこに立っていたのは、一人の女騎士だった。


 全身を覆う白いプレートアーマーは彼女の鍛え抜かれた肉体に合わせて作られているようで、特に胸元の豊かさが際立っている。

 腰の剣は磨き抜かれて銀色に光っていた。


 そして、何よりも目を引くのは、その顔立ちだ。


 切れ長の瞳、通った鼻筋、薄く引き結ばれた口元。凛とした表情で、一切の隙がない。前世のバイト先の女子大生――香澄たんに、どことなく面影がある。


 ただし、彼女の方が遥かにスタイルが良く、隙のない美しさがあった。

 その騎士は、玉座のパンティ姿の俺を見て、一瞬で顔を歪ませた。


「貴様が偽勇者を名乗る輩か! そして、なんてお下劣な格好を……」


 彼女は、まるで汚物を見るかのような目で俺を見据える。


「このイラマチ王国騎士団長、マーラ・センズーリが、貴様を成敗してくれる!」


「お前の方がお下劣だろーーッッ」


 マーラは一瞬の躊躇もなく、腰の剣に手をかけた。


 凄まじい速さで襲い来るマーラを返り討ちにしようと、俺も聖剣セクスカリバーを握る。


 ぶにゅ――


「え?」


 握りしめた聖剣は、なぜか短く、柔らかく、まるで萎れたムスコのように垂れ下がっている。


「な、なんだこれ!? さっきまで、めっちゃ硬かったのに!」


 俺の焦りとは裏腹に、マーラの剣は容赦なく迫ってくる。


(こうなったら、魔法だ! 賢者様は魔法が使えるんだぞ!)


 俺は、必殺の火の玉魔法を、彼女の顔面に叩き込もうと詠唱する。


 「【フレアアロー】!」


 ぷすん――


「え?」


(まさか、俺って賢者タイムの時にしか魔法は使えないのーーッッ?)


 マーラの剣は、そんな俺の思考を待ってくれない。


 ガァン!


 俺の意識は刈り取られた……





 玉座に座る国王は、先ほど俺に殴られた場所を冷やしながら、満足げな顔をしている。その横には鞘に収まった剣を地面に立て、仁王立ちする女騎士マーラの姿。


 その前で、顔をボコボコに腫らした俺は、地べたに這いつくばって土下座をしていた。


「貴様、シモネ・タオと申したか。よくも余より偉そうにしてくれたな」

 国王は、俺の腫れた顔を見て、上機嫌に笑う。


「ずびばぜん……調子にのりばじだ……」

 涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、俺は絞り出すような声で謝罪した。


「貴様は、本来死罪なのだが……」

 国王は言葉を区切る。


(やべぇ、やっぱ死罪か? 今度こそホントに死ぬのーーッッ?)


「貴様が聖剣を抜き、さらに魔法を使ったのは事実。聖剣の抜き方はお下劣極まりないが、勇者と賢者であることは余も認めざるを得ない」


(あぶねー! 死罪回避できそうだー!)


「ゆえに! この度の無礼は不問に付す。その代わり、伝承の通り、勇者として魔王を倒す旅に出てもらうぞ!」


 国王は、厳かに告げた。


「旅に出ろシモネ・タオ! このイラマチ王国と世界を救うために!」




 こうして俺の魔王を倒す旅は、聖剣セクスカリバーとパンティ一丁で始まった。

 まず俺が目指すのは、隣国――フェラチ王国だ!


(完)


――あとがき

投稿作業してて、ふと我に返りました。

俺、なんでこんな小説書いたんだろう……。クリスマスに、なんかすみません。


カクヨムコンテスト11(短編)に参加しております。

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聖剣セクスカリバーをヌいた勇者の賢者タイム 〜オナニー死して転生した俺、絶頂(ヌ)くたびに魔法(チート)が発動して世界最強〜 いぬがみとうま @tomainugami

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