【お題フェス11②】貴女のことがずっと好きだった

蒼河颯人

貴女のことがずっと好きだった

 わたくしの手を引くのは一体誰かしら?

 あなたは一体誰なの?

 そこは行っては駄目だと、お父様とお母様が仰られたわ。

 白い、白い、空と地面の境目の分からない場所。

 そこは、一度足を踏み入れれば二度と戻って来られない、魔の巣窟と聞いておりますわ。

 え? あなたが一緒だから大丈夫ですって?

 そのお言葉、わたくしはどう信用すれば宜しいのです?

 しっかり説明なさって下さいまし。

 ええ、そうですわ。あなたのその軽々しいその口で。

 憎たらしいその口で。


 え? 何ですって?

 わたくしはそこへ行くしかないと仰っしゃるの?

 何故そう言い切れるの?


 ……あなた、やはりわたくしを騙したのね!

 一体何を飲ませたと仰っしゃるの?


 ……めき……めき……めき……


 あああ、お腹が痛いわ……。

 身体全体が痛い……。


 ああ……ああ……ああ……誰か……

 誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か


 わたくしを助けて頂戴!!


 ……めき……めき……めき……


 あああ、頭が痛いわ……。

 割れてしまいそうに痛い……!!



 何これ!?

 額からヒビが入ってきているわ!

 お腹からも縦に割れてきているわ!

 卵みたいに割れてきているわ!


 あああ止めて!

 止めて頂戴!


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!







 ……くちゃ……くちゃ……くちゃ……



 うふふっ!!

 うふふふふっ!!

 これで、あたしは貴女の全てを手に入れた。


 あたしね。ずっと貴女のことが好きだったの。

 艷やかな長い黒髪で、透き通るような白肌。ふっくらした頬に、ぱっちりとした瞳。若い女特有の甘い匂い。


 何て美しい人なんだろうって……。

 お肌なんて、さぞ柔らかいだろうって。

 齧ったら、とっても美味しいだろうって。

 血も飲み干したくなるほどとびきり甘いだろうって。

 ずっと思っていたの。


 あたし、どうかしていたわ。

 貴女のことを食べてしまいたいと思い詰めてしまった位、貴女が欲しかったのね、きっと。


 あたしはずっと、貴女を手に入れたいと思っていた。

 ずっとずっと思っていた。

 そう何年も何年も思っていたら、気持ちが更に膨らんじゃって、貴女を誰にも会わせたくなくなっちゃったの。


 だって、貴女のことが大好きだったんだもの!

 あたしだけのものにしたい位にね!


 でも貴女ったら、あたしの姿を見た途端、化け物って罵ったわ。 

 脚が何本もあって気持ち悪いって。


 (だから、貴女に懸想しているあの男の力を借りたのよ。いい気味だわ! )


 でも良いの。美しいのは、貴女だけで充分だから。

 貴女さえいれば、あたしはこの世界が崩壊したって構わないのだから。



 うふふっ。もう大丈夫よ。心配しないで。

 あなたはもう一人じゃないわ。

 あたしが一緒にいてあげる。



 うふっうふふふふっ!

 先ほど貴女の養分ごと全て吸収して、漸く一つになれたのだから。


 すっごぉく美味しかった!

 極上の味がしたわ!


 憎らしくて愛おしい、貴女とあたしは、文字通り一つになれたのよ!


 貴女が醜いと罵ったこのあたしが、貴女の胎内に入り込んで、全てを奪い取ってやったのだから!


 貴女はあたしから二度と逃げられないわ。


 永遠に……ね。




 ──完──










 

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