第11話 真実の鍵

 固唾を呑んでその先の言葉を待つ…どういう意味なんだろうと。アレクが来たのは間違いない?そんなふうに期待して。


 「黒髪の青年だろう?君のご主人は。確かに現れたよ、最初はブルック男爵様から託された書類を持ってきたと言って。そして大事なものだから伯爵様に直接手渡す指示を受けていると言ってね。だがその後旦那様は非常に激高されていた…嘘だったのだと思う。それで追い出されるものだと思っていたら、その青年は臆することなく旦那様に近付き、何事かを耳打ちしていたんだ。それに旦那様は、即座に溜飲を下げられていた」


 ──何かを耳打ち?一体何の話をしたって言うの…


 「それから二人で執務室に入られたかと思うと、一時間ほど出てこなかった。同室を認められなかった私は、内容については何も聞いてはいないんだ…その後お尋ねしたんだが、はぐらかされてしまってね」


 伯爵と二人で話していたですって?どういうことなんだろう…その事実に狼狽える。最初はアレクの嘘にご立腹だったロンド伯爵。それなのに二人で話すなんて…おまけにまさかの耳打ち。そんな失礼な態度が許される?きっとその内容に価値があったということ。どんなものだったのか検討も付かない!それで更に聞いてみると…


 「一時間後現れた夫は、何かを持っていませんでしたか?手のひらに乗るような大きさの瓶のようなものを」


 アレクがロンド伯爵と対面したのは分かった。だけど肝心の薬の出処までは判明していない。それでもしや目撃していたのかも知れないと、聞いてみることにした。すると…


 「瓶のようなもの…?うーん、中身は知らないが箱のようなものは持っていたように思う。それからその男は、素直にここから去って行ったんだ。その後見かけてはいない」


 「やはりあの薬はこちらで手に入れたものなんですね…」


 思わずそう呟いてしまっていた…そして間違いなくそうなんだと思う。だけど、何故伯爵は渡したのだろう。気の毒に思って?馬鹿な!そんな都合の良いことがあるはずがない。暫くの間押し黙って考えていると、意外なところからその答えが出る。それは…


 「薬…かい?もしかして黒病のかな?それならあって不思議ではない。大昔のことだが、旦那様の姉君が黒病で亡くなられたことで、お嬢様が年頃になってから心配になり常備されたと聞いている。私は見たこともないのだが…。お嬢様は罹ることがなかったから、城の何処かには保存されていたはずだよ。それを君のご主人が手に入れたという訳か…だがどうやってだ?」


 これで点と線が繋がった!やはり黒病の薬は領主城にあった…それをどうにかアレクは譲り受けることが出来たのだろう。そしてそのせいで姿を消すことのなったのね…そうなると、どうしてもロンド伯爵にお会いして聞いてみなければ!


 「無理を言っているのは分かっています。ですが…どうしても伯爵様にお会いしたいのです!一度でいいので…一目で構いませんから、会わせていただけませんか?」


 そう私は真剣に訴える。アレクの行方を知るにはそれしかない!難しいのは分かっているけど、その他に手立てがないもの。何とかお願い出来ないかと祈る思いで見つめる。すると…


 「残念だけど、旦那様はもうここにはいらっしゃらない。とっくに違う街にいかれているんだ。このユージア国にはローウデン商会の支店があって、各所を巡っておられるから。そうだな…もしかしたら、ここから馬車で二週間ほど行ったハイデンという街でギリギリで出会えるかも?だが…急がなければならないよ?その後は商談で隣国に行かれてしまうから。そうなったらお会いすることは難しくなるだろう」


 ──ええっ、ハイデン?初めて聞く街…


 だけど迷っている暇はなかった。そこでもし会える可能性があるなら、どうにかして行かないと!


 それから急いで家に帰り、シスタージェーンとスージーおばさんにこれまでのことを報告する。そしてアレクに繋がる唯一の手掛かり…ロンド伯爵の後を追い掛けてみることを話した。二人はまだ病み上がりの私の身体を心配したけど、私はもう既に決めていた。赤ちゃんが出来た時にと二人で貯めたお金を握り締めて、後のことは二人に頼んで家を飛び出した。もしも私がいない時にアレクが帰って来たなら、その時はハイデンに迎えに来て欲しいと。それを密かに期待しながら…

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

どうかあなた、幸せになって下さい。私のことは忘れていいのです MEIKO @MEIKO_TO

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ