借り物競争

三毛猫ジョーラ

本編


 その日彼女とケンカした。


 原因はおれの浮気。会社の後輩と飲みに行き、酔っ払ってつい手を出してしまった。部署は違うが彼女とその後輩は顔見知りだった。修羅場となるのは当然だろうと覚悟していた。


「すまなかった!ユミ!もう二度としないから許してくれ!」


 おれは誠心誠意、彼女に謝った。なんなら裸で土下座したっていい。おれはそれ程までに彼女のことを愛している。ユミはおれの全てだ。決して失いたくない。


「いいわよ。許してあげる」


「本当か!許してくれるのか!?」


「だって酔った勢いだったんでしょ? 誰だってそれくらいの失敗はあるわ。いつもあなたはとても優しいし、私を大切にしてくれる。罪滅ぼしはバッグでいいわよ」


「ああ! もちろん買うさ! なんならもうすぐ付き合って一周年記念日だ。アクセサリーもプレゼントするよ」


「まぁ、ありがとう。じゃあ何買ってもらうか考えとくね。あと、今日のディナーのお店はちゃんと予約してる?」


「ああ、ちゃんと予約してるよ。ほんとは君にすっぽかされるかと思ったけど、予約を入れるのに3ヶ月待ったから。キャンセルしなくてよかったよ」


「バカね。あなたとのデートに行かないわけないじゃない。じゃあ早く行きましょ」


「ああ。愛してるよ。ユミ」


「ふふ。私も」


 その日は二人で心ゆくまで高級料理に舌鼓を打った。



 それから数日後。毎年恒例の社内運動会が開かれた。おれはユミにいい所を見せようと朝から張り切っていた。学生の頃から足には自信がある。100m走では見事1位を勝ち取った。おれがガッツポーズをして見せると、ユミはにこりと微笑んでくれた。


 そして次はユミが走る借り物競争。毎年この競技でカップルが誕生する。何を隠そう、実は俺達もその中の一組だ。


 昨年おれが走った際、借り物のお題が『世界で一番大切な人』だった。おれは迷わずユミの元へと駆け寄った。彼女は驚いていたが、お題が書かれた紙を見せると微笑んでいた。さて、今年のユミのお題は一体なんだろう?



 スタートの号令がパンっと鳴り響く。ユミがテーブルに置かれた紙を取った。彼女は少し首をひねっていたが、すぐにおれの元へと走ってきた。彼女は息を切らしながらおれに手を振った。


「アツムくん! 早く! 早く!」


 おれは彼女の手を取りゴールへと走った。去年はお姫様抱っこでゴールしたが、今年は自重しておこう。そしておれ達はトップでゴールテープを切った。ユミはぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜んでいる。


 そんな彼女の手から一枚の紙切れがはらりと落ちた。たぶんお題が書かれている紙だろう。きっと『大好きな人』とか『一番大事な人』とか書かれてるのだろう。もしかしたら『結婚したい人』かもしれない。


 おれは顔がにやけるのを抑えながら紙を拾い上げた。その紙にはこう書かれていた。











『軽くて便利なもの』









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