第3話
王位継承権に対する譲歩。
王女との恋愛。
ラムセスには、そんなものがメリクの魂を死ぬほど傷つけ、
または、逆に死ぬほど惹き付けられるとはどうしても思えなかった。
だから別の理由があるだろうと思ったが、アミアカルバの説明で納得が行った。
【天界セフィラ】の黄金色の草原で一人で佇む姿。
国を唐突に出たのは、自分のような気まぐれや、忠誠心の無さが理由じゃない。
かといって自由に底なしに憧れたわけでもない。
メリクは恐らく、留まっていられる魂だ。
これはラムセスの直感だった。
一つの場所に留まれない自分とは違う。
彼はいろと命じられれば、永遠にそこに留まれる人間だ。
世の中にはそういう人間がいる。
類いな稀な才能、魅力を持ちながら、
たった一つの愛情を拠り所に、自分にそぐわない場所に永遠に留まれる人間が。
彼は遠い記憶、だが鮮烈な魂の印象をまだ残す、美しい王妃を思い出した。
彼女も何故こんな人間が、こんなつまらない場所にいるのかと思うような女性だった。
ラムセスはそう思った時、自分がとっくに忘れている、何か想いのようなものを一瞬思い出せそうな気がした。
初めて見たメリクの涙が呼び覚ましたのだろうか。
『死ぬしかなくなる』
思いも掛けない、苛烈な激情も。
あれはそういう意味だったのだ。
メリクの死んだ理由も、生きた景色もラムセスは全く知らない。
だがたった一つ確信があった。
(あいつは【魔眼の王子】のために死んだ)
偉大なる王妃ダナソフィア・レーヴが、
サンゴール王宮で生涯を閉じたことと全く同じことだ。
この世には不思議な生を生き、不思議な場所で死ぬ者がいる。
だがそれは不思議そうに見えても、実は一つ一つの真実を紐解けば、天の理のように最初からそうなるべく約束されたものだったことが多い。
正しき場所へ正しきものが戻されたように。
【星は天に】
【
【この世の輝く、叡智のすべて】
【星の瞬きすら その掌に宿る】
【終】
その翡翠き彷徨い【第83話 天麗】 七海ポルカ @reeeeeen13
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます