画像を見て即興短編執筆…『セイシェルの夕陽』
夢美瑠瑠
第1話
https://kakuyomu.jp/my/news/822139841389501219
…松田聖子の”還暦記念”のコンサートに、私は来ていたのです。
「それでは、最後にこの歌を歌います。 … 『セイシェルの夕陽』。 どうもありがとうございました」
静かな拍手が、海鳴りのように客席を包んだ。
十代のころそのままに見える愛らしさを保っている、妖精のような聖子ちゃんは、一礼して、歌い出した。
「♬…島をめぐる白い船が岬を回って消えていく…」
『セイシェルの夕陽』か、… 大好きな曲だ。 それに、思い出やら思い入れもあった。 青春時代に友達と4人で卒業旅行に「セイシェルの夕陽」見に行こうよ! な~てカルイノリで、出掛けたんだっけ。
「♬…藁の屋根のバンガローに今夜は一人で泊まるのよ…」
翡翠色の、透明感のある海の底に、可愛い熱帯魚が泳いでいたっけ。
紺碧とか?碧い、って表現もあるなあ。忘れられない色。
デビューしたての頃の聖子ちゃんの「青い珊瑚礁」は本当に鮮烈だった。
私たちの青春の象徴みたく、きらびやかな星座さながらに連なっている、聖子ちゃんのいろんなヒット曲はどれも本当に思い出深くて素晴らしい…
「♬…木のハンモックそっと揺らしながらこの絵ハガキを書いたの…」
♬.*゚青春時代がユメなんて、後からしみじみ想うもの~っていう歌もあったっけ。アルバイトなんて失敗ばっかりで、全然続かない。 しまいにはたまたま声をかけてきたオジサンと寝て、それで旅費を工面した…
若気の至りっていうけど、カッコ悪いから青春なのよね。分別つかなくて愚行を重ねて、それがでもかけがえのない思い出。 絵に書いたような青春は映画やテレビの幻想。 でも精一杯それにちかづこうって頑張っていたっけ…
「♬.*゚…ほらセイシェルの夕陽が今海に沈んでいくわ」
『二十歳のエチュード』っていうのもあったなあ。 「つまづきながら、愛することを覚えていくのよ~」なあんて、思い詰めた表情で聖子ちゃんがぶりっ子歌いするって、よくテレビは嗤っていたけど、でもそんな風に表向きは陽気にシニカルにふざけていても、やっぱり若い頃ほどに誰でも苦しんでいたし、聖子ちゃんでもいろいろ紆余曲折あって…それでも、それを含めて私らも一緒に歩んできた。…もう戻れないけど、全部が珠玉みたいな、真珠みたいな思い出ばかりだった。…
「♬…真っ赤なインク海に流してる あなたにも見せたいわ」
そう、あの海の夕焼けを見つめていた時に、サーフボードを抱えた”彼”に出会ったんだっけ。 褐色の、逞しい長身の、金髪碧眼の、笑顔の可愛い大学生。
私を見て、「なんて神秘的なアジアンビューティー!」 なんて、大げさに褒めて、さっそく部屋に誘われた。
解放感もあって、私たちは彼の部屋を訪問したのよ。
「♬…もしあなたがここにいたらきっとロマンスが生まれたわ
離れてみてわかったの大切な人はだれかって」
ロマンチックな雰囲気のリゾートホテルの最上級の部屋。…夜の浜辺と、サザンクロスが覗いているリゾートホテルの窓からはハイビスカスの薫りが漂っていたっけ。
バックパッカーで、気ままな放浪中の彼は、ハーバードの学生で、ケヴィンと名乗った。 穏やかで気さくだけど、セレブな俳優かサッカー選手みたいにハンサム。
天から舞い降りた貴公子とでも話しているみたいに、私たちは有頂天だった…
私たちが、とりわけ私のことが、彼は気に入っているみたいで、気が付くといつも私に向かってじっと注がれている、彼の熱い視線を痛いほどに感じたっけ…
滞在の残り8日間、私たちと彼はずっと一緒に行動して…すっかり打ち解けて…最後の日に、私はケヴィンにプロポーズを受けた。… … 受諾して、(勿論彼にはもうぞっこんだったし)…しばらく文通してから新しい生活をしようという誓いを交わし合いました。
「♬…白い貝殻拾い集めながらブレスレットを創るわ」
一見みすぼらしいバックパッカーの彼は、だけど実は世界有数の大富豪の御曹司だっていうのが、…帰国してからの手紙のやり取りで分かって…私は目を疑った。 シンデレラストーリー! 私ってどんなにか幸運なんでしょう! それからは日々、もう夢心地でした。
「♬…ほらセイシェルの夕陽が今海に沈んでくわ
世界のどんな場所で見るよりも美しい夕焼けよ
ほらセイシェルの夕陽が今海に沈んでくわ」
でも、本当に、「好事魔多し」っていうのか、半年後に、不慮の飛行機事故、大きく報道された米旅客機の墜落事故に巻き込まれて、愛しいケヴィンは不帰の人になったのです。
新聞の犠牲者のリストには紛れもない、彼の写真と名前があった。
… …
「♬…私は熱い紅茶飲みながらなぜかしら涙ぐむ」
そのあとにも無数に喜怒哀楽は、もちろん日々あったけれど、あんなに泣いたことはありませんでした。 その悲痛さがフラッシュバックして、わたしも涙ぐんでいた。
あんなに悲しいことはなかった…だけどそれもほかのたくさんの思い出と同様に、今ではアルバムの中の一ページ、そういう感覚。 こんな時もあった、と、振り返れる、それもダイヤモンド。
…ステージのバックスクリーンには、ビデオエフェクトの、本物のセイシェルの夕陽が真っ赤に燃えていました。
「♬…絵葉書に追伸のキスをして」
静寂。そして万雷の拍手。
安堵の笑顔を浮かべた聖子ちゃんが投げキッスをする。
幕が静かに下りていき、やがて夜のとばりの漆黒の如くにすべてが闇に溶けていきました。…ケヴィンと私が結ばれたあの熱い夜のように。
<了>
画像を見て即興短編執筆…『セイシェルの夕陽』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。画像を見て即興短編執筆…『セイシェルの夕陽』の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます