未知のUFOに轢かれたので、異世界と宇宙の審判者になる事にしました

とらいぽっど

第1話 異世界転生女神と宇宙人が喧嘩したので審判者になった

 この作品はショートなので説明は最小限にする。


 俺は帰宅中の事故で死んで、これから転生するらしい。


光、轟音、衝撃。たぶんトラックだ。 気づいたら白い空間に女神が立っていた。



 なぜ女神と分かるのかって? このシチュエーションで別の奴が出てきたらどうすればいいか分からないだろう。

銀髪に白いローブ、神々しいオーラ。テンプレ通りの女神だ。


「本来、地球ではありえない事故でした。お詫びにスキルを授けます」


 テンプレ通りのことを言われ、俺のテンションが上がる。最近はこのシーンすらテンポ悪いとカットされがちだ。


今だとママやおばあさん役が多くなってしまった、俺が好きな大御所女性声優っぽい声なのもたぎるものがある。ギャラが高いので「1話の転生シーンでしか呼ばれないやつ」だ。



 そのとき、空間が割れた。



 裂け目から銀色の人型がぬるりと現れる。身長二メートル以上、全身金属質、目が青白く光っている。


この世のどの常識にも当てはまらない、どこからどう見ても宇宙人だった。

どこかで見た事あるような…、とはいうわけにはいかない、俺は社会人だ。


「失礼。我々の円盤でこの人間を殺したので、命をもう一つ持ってきました(きました、きました……)」

 カラオケでやりすぎたみたいなエコーがかかっている。



 ……え?


「は?」

 女神の声が低くなった。地声が低いのもあの声優さんっぽい。


「この魂は私が回収しました。管轄は私にあります」


「キーン、プツッ——

 殺したのは我々です。補償の権利は我々にある」

 ハウリングしたのでエコーは切ったようだ。大教室の予備校講師かよ。



 待て待て待て。

 俺を轢いたの、トラックじゃなくてUFOだったのか? あれは運輸業の方へのリスペクトを欠くとはいえ…


「あなた方は次元を超えて魂を奪いに来る侵略者です」

「そちらこそ、異世界転生と称して次元兵器を送り込んでいる」


 俺は一瞬で理解した。

 こいつら、どっちも同じことをやっている。チート持ちの転生者を量産して、他の次元に送り込む。そうやって世界を侵食していく。


 女神も宇宙人も、やり口が同じなのだ。


「話し合いは無駄のようですね」

「同意する」


 女神が動いた。

 宇宙人の腕を取り——回した。


 ぐるんぐるんぐるんぐるん。

 ジャイアントスイング。

 銀色のボディが神聖な空間をぐるぐる回っている。


 女神が手を離す。宇宙人は空中で姿勢を制御し、着地と同時に組み付いた。抱え上げ、反転、頭から叩きつける。

 パイルドライバー。女神の頭が床に突き刺さった。


 女神、起き上がりざまにラリアット。宇宙人、耐えてバックドロップ。

最近なら、もっとかっこいい名前の派生技が中心なのに、上位生命体は時の流れが人より遅いらしい。


 白と銀がもつれ合う。神聖な空間で汗と機械油が飛び散る。


(なんで素手の格闘技なんだよ)

(神秘な力とか超科学とかないのかよ)





 バシッ、ジシッ、ゲシッ。





 後からつけた効果音のような、「コンプラ無視だった時代のTVのバラエティ番組」と全く同じ、安っぽい打撃音がちょっと耳にきつい。

 俺はただ、呆然と見ていた。




 ……いや、待て。

 ネット配信のまとめ動画で見た昭和の特撮。宇宙からやってきた巨人も、自称: 神の化身も、なぜか、造成地や石切り場で怪生命体と泥仕合のようなプロレスをしていた。終始無言で。

 あれの理由を、俺は今なんとなく理解した。



 たぶん全力を出したら次元が壊れる。肉体言語が上位的な存在の平和的解決なのだ。



 ——まあ、どうでもいい。

 問題は、この戦いの勝者が俺を自分のコマにするということだ。

 どちらについても、俺は次元侵略の尖兵になる。


 それは嫌だ。

 俺の手に、いつの間にかゴングがあった。どこから出たのか分からない。必要なものは必要なときに出てくるらしい。便利な空間だな。

 鳴らした。



 カンカンカンカン!

 女神と宇宙人が動きを止めた。



「両者反則負け! この試合、無効!」



 沈黙。

「「……誰だお前」」

 ハモった。仲いいなお前ら。でもブック(台本)があるというと本気で説教されるやつ。



「俺はどちらのスキルも受け取らない」

 宣言する。

「代わりに、お前たち両方を裁く権利をもらう。二つの世界のチート転生者ども、そしてそれを送り込むお前たち上位存在を——審判する者になる」



 女神と宇宙人が顔を見合わせた。

「「……いいでしょう」」

 またハモった。同意とみてよろしいようだ。


 二人は手を振って消えた。

 押し付けられた。絶対これ面倒な仕事を押し付けられた。

 こうして俺は、二つの世界の「審判者」となった。



 まず最初にやることは決まっている。




 謎の白ずくめの着ぐるみと、大物歌手の舞台衣装みたいな大きな白い羽を買ってきて、「世界の審判者」っぽい姿になることだ。




 大丈夫、あのディスカウントショップなら24時間営業だ。

リボ払いだって使える。




 カンカンカンカン。

 ゴングの音が、二つの次元に響いた。

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