未知である資料と人たち。
狐囃もやし(こばやしもやし)
未知数
(英語で話されたレコーダーを日本語に翻訳してお届けしています)
『えー見えてますか?』
男は一人、カメラを回していた。もう一人の男は、試験管に入っている無色透明の液体をぐるぐると混ぜている。
『隕石衝突から二十日。我々は未だこの地を探索しています』
『なんせ、外に出れないからね』
カメラを回していた金髪の男の名前は、アレックス・スターフェイタ。ここ、フロリダの地に留まっていた。数日前、未知の小惑星による衝突でフロリダ州広域で甚大な被害をもたらした隕石の正体を掴もうとこの地に踏み込んできた男だ。
そして、その隣で試験管をいじっているのが、ラウス・クラウド。アレックスの助手で、この地に踏み込んだ男である。頭がよく回って、常に冷静であることが印象的だ。
『我々は放射能汚染地域に来ているわけだが』
『防護服も車も全部焼き尽くされちゃったからね』
そう。彼らは外に出る術がないのだ。
ここはフロリダ州のケネディ宇宙センタ付近の地下格納庫。
ここに来るまで彼らは防護服や放射能耐性付き車両を所有していたが全て落石と火災によって消失。
かろうじて格納庫までたどり着いたが、研究チームは残り二人。他は全員死んでいる。
『電波も繋がらない、衛星電話も未だ修理中。救助を待っている段階です』
『それまで星を見ることしかできないけどね』
彼らは缶詰を開けながらそう言った。
ラウスが言うには、天井には地上が見える双眼鏡がつけられているらしく、この崩壊した土地では星を見ることだけが唯一の楽しみだった。
『と言うことで今日のレポートは終わり。俺らがこれを記録していなかったら察してくれ』
『やめてよ。面白くないジョークだね』
『HAHA……』
そう言って動画は途切れた。
___________
『はい、四十七日目です。未だ救助は来ていません』
『今日はどうやら巷では水星が見えるらしいですね。みなさん楽しんでください』
『俺らも見るからなぁ……。ここからでも空は見えるから』
『だけど声が届かないんよね』
『まるで宇宙に取り残されたみたいだな』
『なんかNETFLIXに無かった?火星に取り残されて生き残る男って映画無かった?』
『ここWi-Fi無いから見れないんだよね』
『そう言えばワンピースって今何話?』
『知らない。ジャパニーズ漫画は戻ってから買えばいいじゃん?』
『帰れる日を楽しみにしてるぜ!じゃあな!』
___________
『七十八日目。食料がつきそうです。まあ、二人で節約すればなんとかなる』
『限界になったらトマト缶の種でトマトを育てればいい』
『うんこは?』
『俺らの使えばいいじゃん』
『水は?』
『尿。それか水素と酸素をどうにか反応させるか』
『難しいねぇ……』
___________
『百八十九日目。救助はいつ来るんですか?』
『誰も答えてくれない虚しさ』
『星が綺麗だね』
『いつものことですよ』
『今頑張って食糧を育ててる』
『早いこと救助されることを望んでいます』
___________
『……二百六十九日目』
『なんで誰も来ない?』
『防護服着ればどうにかなるだろ……早くこいよ』
『それな』
『お前さぁ、もっと解決案とか出せないのかよ!?』
『は?なんだお前』
(争う音)
『“$yhwjし!#$#L』
『“!”wd#ED$%>+絵d?』
___________
『……』
『何日目?』
『知らねえ』
『どうでもいっか』
___________
『……』
『プレアデス星団だね』
『あれか』
___________
『……』
『……』
『星が綺麗だね』
『ああ』
___________
『……発見しました』
『死んでるかもしれません』
『応答せよ。対象者発見しました。応答せよ』
『脈がない……』
『クソッ……クソまみれだしゴミまみれ……アレ?こんなところにテープレコーダー』
『なんだこれ……こいつらが残していたのか?』
『本部に持ち帰ろうか。大事な資料だし』
『こいつら、なんでこんなに幸せそうなんだ?』
『みろ、これ』
『あん?』
『星に関する手記だ。なんだ?なんでこんなの書いたんだ?』
『ヴォイニッチ手稿みたいだな。全くもって未知だ』
『まあ、大事な資料だしな』
ここでレコーダーは途切れている。
未知である資料と人たち。 狐囃もやし(こばやしもやし) @cornkon-moyashi
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