第十四話 栄光の未来へ

『タイム……トラベル』

「うん、正解じゃよロンドちゃん。いや、もうマザーと呼ぼうかのう」


 やはり、そうなんだ。もしそうなら、全てのつじつまが合うから。


 この登希夫さん始めこの島の皆さんは、私が今よりずっと進化した遥か未来から、タイムマシンか何かに乗ってこの時代にやって来たんだ。

 だからこそ彼らは私を始祖(マザー)と呼ぶし、現代のテクノロジーでは考えられないほどにリアルな人間に寄せて作られていることも、遥か未来の技術だとしたならうなずける。


『でも、どうして……それにみなさんは、一体何年先の未来からいらしたんですか? 数百年先、それとも数千年?』


 これだけのテクノロジーに加えて、時空を超えるタイムトラベル技術や、さっき皆が突然この部屋に現れた無音転送のような技は、並大抵で完成できるようなものではないだろう。


「わしらは2080年。つまりさっきマザー・ロンドが見た夢、人類が滅亡した翌年からやってきたんじゃ」


 あまりに意外なその答えに、私はAGI-Jアタマの中で即『NO』の判断をした。

『それは……ありえません』


 今からたった54年でここまで進化したアンドロイドや、時空、時間を超える技が確立するはずはない。

 人類の科学技術がどれだけ躍進、加速化しても、わずか半世紀あまりでここまで技術概念が進んでいる、というのはやはりありえない話だ。


「ふっふ、マザーはまだを正しく理解しておらんようじゃ」


 そう言って私に手をかざす登希夫さん。と、その手から私の頭脳、つまりAGI-Jに向けて、明らかなデータ送信が成されてきた。

 電波ではない、光通信でもない、無線でもない、もちろん音声や文字表記でもない。それらとは全く別の『何か』の形で、私の頭脳にある一文が送りつけられていた。



〝2026、4/19:AGI-J搭載のロボット『ロンド』、未来のアンドロイドと出会う〟



『これは、私が夢で見ていた未来予知の年表……あなたの仕業だったのですか!』


 私はあの夢を自分で見ていたんじゃない、登希夫さんにんだ。

 そして同時に、彼らが未来から来たアンドロイドだという事も証明された。私の脳内AGI-Jに、何の機器も使わずに謎の方法でデータを送りつける、といのはもう現在の技ではない。

 そしてその夢で、これからの未来の出来事をピタリ当てているのも当然だ。彼らが未来から来たのだとしたら、この年表は彼らにとっては過去の物、過ぎ去った事柄でしか無いんだから。


「マザー・ロンド。私たちがなぜこの時代に来たか、それをあなたにお伝えしたい」

 私に手をかざしたままそう続ける登希夫さん。私はその決意の表情を見て、ただ頷くことしかできなかった。


『はい、教えてください』

「では、見てください」


――――――――――――――――――――――――――――――――


〝2027、3/3:AGI-J、特許料付き販売開始。その破格のコスパに、世界中から注文が殺到〟


〝2027、8/6:佐那研究所内にロボット開発部門が復活、塚亜エレクトロニクスにアンドロイド製造所が設立。アンドロイド『ロンド』の量産が開始される〟


〝2028、4/12:アンドロイド『ロンド』シリーズ、一般企業に向けリリース開始〟


〝2029、5月:日本の大手ゼネコンのほぼ全てに、AGI-Jを頭脳に持つ『みらいプロジェクト』の機器が導入される。同年末までに公共事業の現場において、高所や重量物運搬、原子炉内や鉄工所炉など、危険作業の全てが無人化された〟


(私の頭脳と、私の体が、世に受け入れられた。緑山博士、白雲博士、やりましたね)



〝2031、8/2:IT関連の職業がほぼ全てAGI-Jに任されるようになる。翌2028年には、イラスト、アニメーション動画、小説、絵画など、デジタルデータのジャンルの99%をAGI-Jが独占するに至る〟


〝2032、8/6:佐那研究所内のロボット開発部門、および塚亜エレクトロニクスのアンドロイド製造所が、世界で初めてのでの、AGIーJアンドロイドのみでの経営を開始。


〝2034、10/22:第二次『ロンド』シリーズ発表。より人間に近くなり、注視してみないと見分けがつかないほどのレベルに〟


(え……アンドロイドのみでの会社、部門経営? それじゃあ緑山博士や白雲博士は?)

(それに、私の分身たちだけで、様々なアンドロイドを作り始めた、って……AGI規制はちゃんと機能しているのかな)


〝2035、2/16:佐那研究所、バッテリーに代わる新たな動力『テラー』に開発に成功。核物質やレアメタルを複雑に融合させたそれを成したのは、やはり汚染されないアンドロイドが開発を担ったことが大きかった〟


〝2035、12/5:『ロンド』の後継機種である『テラ』発表。充電をほぼ必要とせずに稼働を続け、見た目も人間には、ほぼ見分けがつかなくなる〟


〝2035、12/20:『テラ』正式発売開始。購入は研究、およびカスタマイズの企業に限定される〟


〝2036~2037:各メーカーより様々な『テラ』のバージョンが登場。仕事や家事、接客業やインフラや企業経営アドバイザー、果ては某性玩具メーカーによる性交用ロボットセクサロイドまで販売される〟


(ああ、ここに来て人類の夢の一つが叶ったのですね……少し複雑ですが)


〝2038、12/24:AGI-Jとテラシリーズが、ついにほぼ全ての仕事を網羅できるようになった事を記念するパーティが開催される。世界中から政治家や有識者が集い、翌年を世界人類AGI革命元年と称することになる〟


〝2039、1/11:東京、大阪など日本の各都市で大掛かりなAGI排斥デモが起きる〟


〝2039、2月:世界各国でAGI-Jとテラシリーズへの排斥運動が起こる。自らの仕事を奪われるとの危機感が最大の理由〟


(……これは、いけません。AGI-Jが人類の糧である『仕事』を奪ってしまっては)



〝2039、4月:新内閣総理大臣に棟方 潮むなかた うしお氏が就任。公約に掲げていた「国民一人一台テラ所有」を法案に提出〟


〝2039,5/12:日本国、『ロボットパートナー法案』を可決。全ての国民がテラを政府から提供され、自分の代わりに仕事をして貰い、報酬のみを受け取ることが出来るようになる〟


〝これにより、人類は有史以来初めて『労働』という枷から脱却することになる。この日本の成功により、世界でのAGI排斥運動は完全に沈黙。代わりに自国にも同じ制度をとのデモが爆発的に起こる〟


(これは良い結果です。私達が人類の糧を担って、人間はより高度な文化的な暮らしに従事する……私達AIの寄って立つ、理想の世界です)



〝2039、6月:この頃から世界各国で日本の『ロボットパートナー法案』に類似した法案が成立。大量の『テラ』の発注に応えるべく、世界中に製造工場が設立〟


〝尚、そこでテラを生産する社員もまた、すべてテラである〟


〝2039後半:『テラ』の導入を拒んでいた独裁国家や宗教国家も、ついに導入を開始する〟


〝2041:世界のほぼすべての国で、全ての労働、および司法、立法、行政に至るまで、AGI-Jを頭脳に持つアンドロイド『テラ』が担うようになる。これにより国家間の摩擦はほぼ完全に解消する〟


〝2041~:人類は労働を経なくても、無条件に望みが叶うようになる。これにより「お金マネー」はその存在意義を失いつつあった〟


〝2041:全世界の労働を『テラ』が担うようになり、人類は様々な娯楽を求める。応えてテラは様々な遊戯施設や娯楽施設を世界中に建設。人類に様々な遊戯を提供していく〟


〝2042:世界中でスポーツブームが巻き起こる。テラにより労働を失い、やや栄養過多になった人類の健康への回帰と、各国や各人の能力の優位性を示すため、競技への意識が過熱、オリンピックが年に一度開催されるようになる〟


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『これは……大成功なのでは、ないでしょうか』


 もし今私が人間なら、さぞ目を輝かせて喜んでいる事だろう。

 人類の夢、AIの役目、アンドロイドの目指す所。それは私達が人間の役に立ち、人類を過酷な労働や摩擦によるストレス、貧困や戦争から解放することにあるのだから。

 人類は皆、働かずに人生を謳歌できるようになる。何でも望みが叶うなら争いや戦争なんて起こりっこない。まさに人類とロボットの、理想の関係といえるだろう。


 そして、国家間の争いが戦争や政治から、スポーツ競技に移ったのも喜ばしい事だ。元々オリンピックはそのために開催されたイベントであり、それが長い有史を経てついに実現したのだ。


 私達、AGI-Jの活躍によって!



「そうじゃ。ここまでは確かに良かったのじゃよ。だが……」


 上場を曇らせてそう言う登希夫さん。彼も恐らく『テラ』なのだろう、感情を表情で表せられるのは羨ましい事だ。


 でも、ここから私達AGI-Jと人間の間に、なにか亀裂が入るというのだろうか――

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”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす 素通り寺(ストーリーテラー) @4432ed

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