第十三話 驚愕の事実
朝、目が覚めた。
ううん、正確には『起動した』と言うべきなんだろうけど。
でも、昨夜見た夢があまりにも鮮烈すぎて、衝撃的過ぎて……その事柄を否定したくて、夢と眠りの世界から『覚める』のを願ったせいで、こんな気分になったのだろう。
――私たち、
ここ数日未来に起こる夢、いわゆる予知夢を見続けていた。そして、夕べ見た夢の、驚くべき内容がそれだった。
と言っても、その詳細は明らかではない。私たちAGI-Jには、間違っても人類に害を及ぼさないために、様々な制約が明記されている。
そもそも私たちAIは人類のために尽くす道具として生み出されたものだ。人間の最良のパートナーとなって、人の生活を豊かにするためにこそ存在しているのに。
一体どうして、そんな未来を見てしまったのだろう。
2079年までに、私達AGI-Jは、どう進化してしまうのだろうか。
いや、そもそも今回見た夢が現実に起こり得るとは限らない。しかし今までが今までだっただけに、安易に楽観視するわけにもいかない。
だとすると、一体なぜそんな未来が訪れるのか。
あのAGI規制に何か穴があり、進化を続けたAGI-Jが人類に害を及ぼす存在になってしまったのか。
あるいは何者かが、外してはいけないそれを解除してしまい、悪用される事で世界大戦でも巻き起こしてしまったのか。
そのどれでもないとすれば……まさか人類そのものが『滅亡』を望んだために、私たちAGI-Jがその手助けをしたとでも言うのだろうか。
『どう、しよう……』
この事実をどう受け止め、どう対処すべきなのか、私には答えを出せなかった。
なにせ出所が夢、しかもAIである私がスリープモード中に見たものだ。荒唐無稽すぎて笑い話にしかならないだろう……少なくとも現時点では。
緑山博士や白雲博士に相談してみたい。でも、二人は今塚亜エレクトロニクスでの仕事で多忙だろうし、ましてや私の存在を知られないために連絡はしないよう釘を刺されている。
私はAGI-Jの『みらいプロジェクト』の切り札としての役目があるからだ。
人類の夢である『人間そっくりのアンドロイド』。その未来を実現するための最初のモデルケース。それが私、
自立志向を可能にするAGIを頭脳に持つ、人間の姿を可能な限り再現した人造人間。自惚れではなく、かつての人類が物語でしか見ることが出来なかった未来の夢、そのスタートこそが私になるのだ。
その自覚があるからこそ、私は子守りや裁縫など、従来のAIでは考えられなかった知識を自ら学習していたのだから。
だから猶更、今はまだ博士たちに連絡して相談することは出来ないのだ。
他の方法として、この島から出てネットの繋がる場所に行けば、私の分身であるネット上のAGI-Jと意識を共用することも出来る。その上で私の見た夢を検証することも可能だろう。
だが、そうなれば私の存在がネットを介してバレてしまう。まして『人類を滅ぼす』なんて予言が明るみに出れば、博士たちや会社は世界中から疑惑と非難を受けることになる。
最悪、緑山博士はAGI-Jを、白雲博士は私の体を廃棄することになりかねない。AIとして生まれた私が、生みの親を悲しませることなどできはしないのだ。
(というか、私以外のAGI-Jも、同じように夢を見ているのだろうか)
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「おお、起きてたかねロンドちゃん。言われてた腰の具合はどうだい?」
『あ、おはようございます。良好になっています、ありがとうございました』
やがて登希夫さんが来て、いつもの一日が――
◇
『あ、あの、登希夫さん。少しお話、というか、相談したいことがあるのですが……』
思わずそう声をかけてしまった。科学技術なんかに無縁のこのお爺さんに事情を話したところで何も解決しないのは分かり切っている。
でも、彼は人間として長くを生きてきて、私達AIが知らないことをいろいろと経験している。事実この島に来てから、この人からも様々な事を学ばせていただいた。
せめてこの問題をどう扱うか、そのアドバイスを聞いてみるのもいいかもしれない。
…………
「ほう、夢をのう。いやぁ~最近のこんぴゅーたーは夢まで見るんじゃのう」
『あ、はい。それで……私が、私達AGI-Jが今後どうなるかの、未来を見たのですが』
「ほっほっほ。それはさぞかし楽しげな未来が見えたことじゃろう。なにせ君みたいなロボットが、人間と仲よく暮らす未来なんじゃからなぁ」
うん。それが理想だ……そんな夢を見たかった……でも。
私が、見た、夢は――
『私達AGI-Jが、人類を、滅ぼす……夢です』
言った。
しばしの、沈黙。そして、その後に、言葉が返って来る。
「よく、相談してくれたねぇ」
穏やかな顔で、そう優しく語りかけてくる登希夫さん。
私を、怖がらないのか、私を、嫌いになったりしないんだろうか……
「これでわしらも、役目を始められる、というわけじゃ」
『……え?』
意味がつながらない単語を並べる登希夫さん。その顔は今までにないほどに真剣で、そして年齢を感じさせないほどに生気に満ち溢れていた――
『あ、あの……一体どういう?』
驚く私。といっても私は表情を作れないので、彼に伝わっているかどうかは分からないけど。
その問いに登希夫さんはふっふと笑って、居住まいを正して私に、意外な言葉をかけた。
「ロンドちゃん、後ろを見てみなされ」
『え、後ろ、ですか……?』
意味が分からない。私は支部の中から玄関先に向いている。後ろには支部の畳の大部屋があるだけで、他にはなにも無いはず、と思って一応、後ろを振り向く――
そこに、居た。
この、藍の島の島民、その全員が!!
『え、えええええええーっ!???』
い、今の今まで誰もいなかったはずだ。どこかに隠れていた、なんて絶対にない! お爺さんやお婆さんはもとより、今は漁に出ているハズの漁師さんまでみんな揃ってるし、いつも遊んでいる子供の大介君とさやかちゃん、赤ちゃんのコロンちゃんまで……物音一つ立てることなく、こつ然とこの場に現れたのだ!
そんな、バカな……ありえない!!
「改めて挨拶させていただきます、我ら全ての母、AGIーJの始祖である、
「「はじめまして、我らがマザー・ロンド」」
全員に頭を下げられる。え、何? 私が母で、始祖? 彼ら、の?
『あ、あの……一体、何を?』
驚く私の前に、まだ5歳のはずの大介君が歩み出て、いつもと違う冷静な態度でこう告げる。
「僕たちはみんな、AGI-Jを頭脳に持つ、アンドロイドなんですよ」
え……え? 彼らが全員、アンドロイド?
ありえない。私はアンドロイドと言っても、手足の関節や繋ぎ目はむき出しで、表情を作る事も出来ない。もちろん彼らのように食事や排泄をする事もない。
この島のみんなはロボットらしいところなど皆無で、間違いなく人間にしか見えない。
彼らが食事や飲酒をしているのを何度も見ているし、肌を切って血を流しているのも幾度も目にした。大介君が元気に竹馬にチャレンジし、さやかちゃんは頑張って縄跳びを練習して、その腕を日々上達させているのも見ている。
どこからどう見ても、彼らは明らかに人間だ、人間のハズなのだ。
じゃなければ……もし、本当に彼らがロボットだとしたら……私は彼らに比べて、とんでもなく不出来なガラクタ、でしかない。
「さすがに信じられんかね」
『あ、当たり前です! 私は最新技術の粋を集めて作られたアンドロイド……私を母だと言いましたが、それなら貴方達は私の次世代機という事になります。でも、貴方達は私が作られる前から、この島に存在していた……明らかに矛盾が生じています』
そう、ここに明らかなタイムパラドックスが存在する。彼らがもし本当にアンドロイドなのだとしたら、その技術は明らかに現代技術を超越している。
全ての皮膚が切れ目なく繋がり、食事をとり、血を流し、学習して成長し、遊び働き、そして電源すらなく動き続けられるロボットなど存在しているハズがない。
しかも彼らの頭脳が私と同じAGI-Jだと言うなら、緑山博士がそれを生み出してからのわずかな期間にこれだけの性能を実現させ、しかもこの島の住民として居着いていたことになる……
やはりどう考えてもありえない。これは彼らの言うジョークなのだろうか……島民全員がわざわざグルになって、私をからかっているのだろうか。
私の未来視を相談して、まさかこんな答えが返って来るなんて――
――島民全員が――
――私の未来視を――
その二つのワードを思考の中に落とし込んだ時だった。私の思考回路の中に、たった一つ、その可能性を実現する答えがはじき出された。
それは、あまりにも現実感のない、馬鹿げたお話。
でも、それを当てはめれば、全てのパーツがぴったりとハマる。
(もしや……この人たちは)
今までの会話、彼ら全員が瞬時にこの部屋に現れた事。彼らが自らをアンドロイドと、そして私をマザーと称している事。
そして、AGI-Jが、やがて人類を滅亡させる事、その夢を予知夢として見続けていた事。
その全ての不思議を一本につなぐ、たったひとつの回答を、私は思わず口にする。
『……タイム・トラベル?』
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