まなじり

新庄司

第1話

「今熱いジャンル何?」


 ベッドの上に寝そべっていた幼馴染の玲が、ベッドの上から彰太のスマートフォンの画面を覗く。


「玲ちゃんが好きなの飯漫画とかファンタジーだからなぁ」


 何かあったかと検索をかける彰太の指に重なるように、細い指が一本画面を辿る。


「お前が好きなの。ね、何が好きなの」


 耳裏の辺りからする声、指がブルーのPのアイコンを押す。


「お気に入り見ちゃお」


 くくく、と喉の方で鳴った笑い声の高さに喉仏の存在は感じられなかった。

 やめさせたくて腕を退けようにも、玲はさらに体をつけて有無を言わせないようにグイと手をスマートフォンに押し付けた。

 お気に入り欄の性癖の羅列、居た堪れなさに身を縮こめれば頭の血管に全ての血液が集まった感覚に陥る。

 中身までは見られてなるものかと手を強く引いて、携帯電話を伏せてテーブルに投げ置いた。

 けれど身を乗り出してそのスマートフォンを奪おうとする玲がいて、彰太はその体を咄嗟に留めるとベッドに乗り上げて玲を押し倒した。


「怒るよ」


 顔を険しくしかめて見下ろした顔、分厚いメガネ越しの目は思い出の中よりも垂れていた。

 同級生と比べれば長身で大きく表情を変えるタイプではない、そんな玲が今自分の体の下で目を丸くしている。

 重たい前髪は乱れて、見えた眉毛は下がっていた。

 次に吐き出す言葉に悩んで呑み込んだ息の塊がまるで溶けた鉛のように重たく感じる。


「したことあんの?」


 セックス、と聞かれて転がり出た素っ頓狂な声に先ほども聞いた高い笑い声が返される。


「いっしょだね」


 子供の頃から変わらない、共通を見つけた時の声だった。


「する?」


 何を、と純情ぶるには育ってしまって。

 しかしすぐに飛びつくこともできなかった。


「いいの」


 震えた声、伸びた前髪が下りて視界が遮られる。


「私の好奇心だから、責任感じないでいいよ」


 眼鏡を外してヘッドボードに伸ばされた手が小箱を手に取ると、中からは避妊具が出てきた。


「なんで?!」

「一人でする時、道具に着けると後片付け楽だから…」


 もちゃもちゃと口の中で恥ずかしそうに言葉を転がした玲は、荒っぽく上に着ていたTシャツを脱ぎ捨てると彰太に投げつけた。

 顕になった素肌、下着に包まれているであろうキャミソールの下の膨らみの大きさに目が眩んだ。


「外してみる?」


 キャミソールもモゾモゾと脱いで、胸を張って背中に隙間を作った声に促されて手を差し入れる。 

 もつれた指先でホックを探って、何度か擦り合わせるように指先を動かせば締め付けが緩くなる。

 寝転がっているために流れた、けれど張りのある乳房とその先端の色濃い乳頭は性を嗅ぐわせるものというよりも美しさすらあった。

 これからの行為をまざまざと感じて、誤魔化すように玲のハーフパンツに手をかけた。

 最後の一枚、いわゆるパンツはブラジャーとは違う色合い。

 玲は言い訳のように「ブラとパンツが常に一緒とか童貞の願望すぎるから」と強がっていた。


「ど、すれば」


 脱がせたらあとは、と思わず手が止まる。


「さわっていーよ」


 手を取って導かれた先の乳房は彰太の手の形にたわんで、柔らかくしっとりとしていた。

 下から持ち上げるように揺らせば重みは直接手にかかって、これを常に支えているのかと驚くほどだった。

 先端。乳頭は硬く屹立として赤みを帯びていた。

 そこだけじゃない、両方の乳房の真ん中から顔にかけての皮膚に赤く血の色が透けているのが明かりを取り込んだ部屋でよく見えた。

 そばかすの浮いた白い顔がのぼせている。

 化粧気のない唇が紅をさしたように赤らんでいた。

 赤みが引くようにと胸の真ん中を摩れば、こくりと喉が動く。

 下半身に手を向かわせて、まろみのある太ももを撫持った。

 彰太の太ももに玲の足が乗るようにして下着越しに指で撫ればピクリと太ももが動いた。

 もう少し、と股間同士を押し当てて擬似を演じるように腰を揺らせば体の下の玲は瞼をキツく降ろしてしまった。

 彰太はもうすでに挿入できる、けれど玲はどうなのだろうと思考を巡らせれば「挿れないの」と玲から聞かれてしまう。


「大丈夫なの?」


 彰太の言葉に、玲は頷いて自分から下着を下ろした。

 このままの流れだとそのまま挿入されかねないと先ほど出された避妊具を保険の授業を思い出しながら着ければ、案の定玲が身じろぎをして下半身をくっつけてくる。

 押し付けられた女蕾は十分に濡れていて、杭打たれるのを待っていた。

 何度も確認を取るのは格好悪いのではと思って何をいうでもなく挿入を果たせば、ぬかるんだ肉の筒は搾り取らんと動きを始める。

 思考が持っていかれる、気を使う余裕がないと奥までの挿入を果たせば小さな声が「ちょ、と。いたい」と肩に額が合わさる。

 その声に腰を引けば、入り口付近で「ぬくのはだめ」と声が上がる。

 ゆったりとピストンを繰り返しながらもじわりじわりと掘削するように許容を増やしていけば、すぐ慣れたのか甘く抜けるような息が漏れていく。


「しょ、たぁ」


 染み込むような快楽に焦れたような声。

 今、自分はセックスをしているのだ。


「れいちゃんごめん、奥がいい」


 セックスならば、肉欲ならもっと激しい方がいい。

 体を織り込むように足を抱えて、真上から深く子宮までもを刺し貫いた。

 一度だけではない、何度も何度も腰を大きく振って行ったピストンはベッドを軋ませて肌がぶつかる音が大きく響いていた。

 すぐそばにきた頭、丸い頭を撫でて抱き寄せれば目の前の体が自分のものだと錯覚してしまう。

 寄せてしまう唇を引いて額を合わせるだけに留めれば、玲の目は不思議そうに彰太を見つめていた。


「ァ、っあ゛!しょ、たッ゛!!ま、ってェ゛」


 それに対して彰太は「無理」だか「待てない」とは返したはずではあったけれど記憶にはなかった。

 ただ目の前に差し出された幼馴染の体を貪って、ラテックスの中に射精して。

 気だるさに支配された体に鞭を打った。


「玲ちゃんごめん、大丈夫…」


 言葉を失った。理由は玲の涙だった。


「痛かった?!それとも嫌だった?!」


 ヘタれた声でティッシュを渡せば、玲はぐしぐしと涙を拭ったティッシュを丸めてそれを彰太に投げつけた。


「玲ちゃん、言ってくれないとわからないよ」


 両方全裸の情けない格好で聞けば「キスしなかった」と小さな声がつぶやいた。

 女の子としてのプライドを傷つけられたのだと訴えかけている姿がいじらしくて、あまりに可愛らしく思えた。

 黒髪も、白い肌も、頬に浮くそばかすも、なんならイタズラする時の容赦のなさも可愛らしい、大好きだ。

 自分が目の前の玲のことが好きなのだと考えると、彰太は異様に腑に落ちた。

 腕を引いて顔を寄せれば素直に降りる瞼に笑みが溢れて、上がった口角で唇を合わせた。


「泣いてるからしてるの?」

「好きだからしてるの」


 セックスの余韻と涙で赤らんだまなじりを撫でて、しょっぱいキスだったねと言い合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

まなじり 新庄司 @wasabee1337

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ