悪役令嬢に転生しましたが逆ハーレム目指して邁進いたしますわっ!
やまだ ごんた
悪役令嬢に転生しましたが逆ハーレム目指して邁進いたしますわっ!
お風呂で滑って転んで頭を打ったら前世の記憶が戻りました……なんて、本当にあるんだ……
ミオリネ・アルテミシア・レインブラッド。
正式名称はもっと長ったらしい。これが、今の私の名前。
生まれる前はなんだったっけ?よく覚えてないけど、私は17歳の女子高生で、塾の帰りに歩道橋で足を滑らせて――あぁ、思い出したくない。
奇しくも、今の年齢も17歳。
これは神様が人生をやり直せって言ってくれてるのかしら。
前は平凡なサラリーマンの家庭の平凡な顔だったのに、今は国内でも有数の貴族、マールセル伯爵レインブラッド家の愛娘。
お金ある!美貌ある!胸もある!ついでに婚約者も……ん?
レインブラッド……婚約者……?
あかん。
これ、あかんやつや。
「お嬢様、大丈夫でございますか」
ド派手に転んだものね。わかる。ありがとう、メアリ。
「まあ、お嬢様……ありがとうなんて……頭でもお打ちになられました?」
結論から言うと、私は前世でやってたゲーム「月の乙女と氷の王子」の世界にいるみたい。
ミオリネはもちろん主人公じゃない。
氷の王子、ルーカス・グラース・アルテミオン=ルーグラッド……長ぇ……は、私の婚約者。そして私は悪役令嬢で、月の乙女のセシリア・ウィルビーを虐めて、当然断罪されて投獄されて獄中死となる身。
いじめ、ダメ。絶対。
幸い、月の乙女セシリアとはまだ出会ってない。
って、このゲーム……どんなだっけ。
「ミオリネ。話とはなんだ」
氷の王子……マジで氷だわ。笑うくらい笑わねー。
でもイケメンだわー。さすが攻略難易度MAXキャラだけある。
前世の記憶を取り戻した私は、早速フラグを回収するために王子に会いにきた。
こんな自由に会えるんだ……王子って。
「あの、ですね。婚約やめません?」
思いもかけずすんなり言葉にできたのは、王子が氷だからかも知れない。
間違えた。氷の王子だからかも知れない。
「なんだと?」
王子の顔色が変わった。
あ、これあかんやつ。
もしかしてプライドを傷付けられたと思った?
フラグ回避どころか、早期回収とかやめてほしい。
「ちっ、違うんです――その、私ですね、前世の記憶が戻りまして。だから、なんていいますか、無理なんですよ」
パニックって怖い。何を口走ってるんだろう。
でもルーカス様は驚いた顔で私を見てる。
あれ?効果アリ?
そらそうよね。こんなお約束の中世ヨーロッパ(マカロンあり)の世界で、いきなり前世とかいったら頭おかしいと思われるよね?
そんな女とは婚約破棄ですよね!おっしゃ!
ルーカス様はやおら立ち上がると、私の手を握った。はい?
「君が……月の乙女だったのか……」
は?
しくったわー。
はいはい、思い出しましたよ。
月の夜に突如王子の前に現れた少女が、「自分はここと違う世界からきた」とか言って王子に庇護される。
この国、グラッド王国は月の乙女伝説がある。
簡単に言うとかぐや姫みたいなもんで、別の世界の記憶がある少女――はい。しくった。マジでしくじった。
おかげで今、私はルーカス様から暑苦しいまでの溺愛を受けてる。氷どこいった。
「違うんです、ルーカス様」
「何を言ってるんだ?その可愛い唇を食べられたいのか?」
これですよ。氷カムバック。
私が月の乙女という噂はあっという間に広がり、今では有名人。
多分月の乙女より、ルーカス様の氷を溶かしたことで有名なんじゃないかと信じてる。
月の乙女は5日に1度神殿でお祈りを捧げるとかで、私は神殿に連行された。
ルーカス様の暑苦しさで忘れてたけど、春もまだ遠い冬ですよ。
何が悲しくて冷水で身を清めなきゃいけないのよ。
「無理!心臓麻痺で死ぬ!」
「月の加護がございますから!」
「月の加護なんか感じないわよ!冷たっ」
毎回こんな感じで女性神官と戦いつつ、結局は負けて冷水で体を清められるんだけど。
清めたらお祈り用の衣装を着て祭壇でお祈り。無理。痛い寒いしんどい。
たっぷり1時間はお祈りをさせられて、やっと暖かい部屋でお茶をもらうこのひとときが一番幸せ……いや、この役目いつまでやるの?
「相変わらず美味しそうに召し上がりますね」
そう言って部屋に入ってきたのは、大神官のマクセル・ドーウェン様。
大神官と言ってもおじいちゃんじゃなくて、26歳のお兄さん枠の攻略対象だ。イメージカラーはピンクかな。色気すんごい。
「申し訳ありません……寒かったもので」
「いいのですよ。素直なのが一番ですから」
そう言うと、マクセル様は隣に座って、私の目の前にあるケーキをフォークで掬って口元に運んでくれた。
いや、自分で食べれますから……
「どうしたのです?口を開けて」
無理です。
言い忘れてたけど、みんな大好きヤンデレ腹黒キャラですよ。
マクセルルートは確か束縛溺愛。バッドエンドは監・禁。はい無理。近寄らないで。
「私からは召し上がってくれないのですか?」
「いえ――」
思わず言い訳しようと口を開いたら、甘いケーキをねじ込まれた。
「ふふ……ファーストバイト、ですね」
色気しかないその笑い、とても怖いです。
あと、ちょっとうざい。
一体なんなのよ……
帰りの馬車でぐったりする。
「お疲れですね」
護衛騎士のパトリックが心配そうにこっちを見てる。
今日はメアリが熱を出したから、急遽パトリックが馬車に同乗してるの忘れてた。
こいつも攻略対象。ちなみに幼馴染。
イメージカラーは赤かな。
「無理――してんだろ」
パトリック……お前もか。
「お嬢様――いや、ミオリネ」
あんた一応騎士でしょ?なに呼び捨てにしてんだ。騎士の誓いどうした。
「辛いなら言えよ。お前が望むなら、俺は――」
……お前ら、セシリアはどうした。
結論から言うと、セシリアは登場した。
パトリックと私を乗せた馬車に轢かれそうになって怪我ををしたところを、家に連れて帰った。
「すみません。私――急に記憶が混乱して、気がついたら……」
あ、これパトリックルートのスタートのセリフじゃん。
て、ことはパトリック狙い?
「お気にならさず。落ち着くまでこの屋敷でゆっくりお過ごしください――何日でも」
私が力強く言うと、セシリアは儚げな笑顔で微笑んだ。
優しくしておけばきっと大丈夫。うん。
断罪ダメ、絶対。
パトリックルートは即ちルーカス様が失恋するということ。
でも、清廉なルーカス様は、セシリアを虐めてパトリックを独占しようとするミオリネを断罪し、最後は2人を祝福する。
可哀想。
でも、断罪されるのが私なら可哀想とか言ってられない。すまんな、氷の王子。
――と、思ってたのにですよ?
「ルーカス様。こちらをお召し上がりになりませんか?異世界の知識で作ったブラウニーです」
セシリアはなぜかパトリックではなく、ルーカス様をせっせと攻略してる。
放置されたパトリックはと言うと……
「ミオリネ、あんな浮気男なんか忘れちまえ!俺がお前を幸せにしてやる」
とか言ってる。結構です。
そして、浮気男こと、氷の王子ときたらセシリアには氷の王子どころか、もう氷そのもの。
なんで?
好感度アップアイテムの手作りブラウニー(好物)も、受け取ってもらえない。
あれは無条件で受け取ってもらえる課金アイテムなのに。
「なんでよ……」
ある日、廊下で待ち伏せてたセシリアが、憎しみマックスのお顔で私を睨んだ。
「あたしが月の乙女なのにっ!……っみんな、みんなあんたが月の乙女って言うのよ!」
それなー。ほんとごめん。
「ルーカス様も、パトリックも、マクセル様も、ファーロゥくんも、ノアくんも……みんな私のものなのに!」
なんか、知らん名前が出たけど、まあいいや。
「セシリアさん?落ち着いて?」
「はぁ?落ち着けるわけないじゃん!あんたなんなの?」
それは私も聞きたい。
「ルーカス様返してよ!」
はい?返す前にあんたのものだった事ないよね?
「何をしてる」
噂をすればルーカス様。
「私はミオリネを愛してる。なんと言っても婚約者だ」
「いえ、私こそが月の乙女の魂の伴侶」
「俺は生まれた時からミオリネと一緒だったんだ」
「だから!私が月の乙女なのっ!」
我が家に集まったキャラがうるさい。
「じゃあ、ミオリネに決めてもらおうじゃないか」
黙れパトリック。賛成するな、氷、ヤンデレ。
「だーかーら!」
「うるさい!」
いい加減にしてほしい。叫んでしもたわ。
「大体なんなの?あんたら……私が月の乙女とか言われた瞬間好きだの愛だの!」
私が大声を出したからか、みんな唖然とこっちを見てる。
「ルーカス様。あなた私に興味なかったですよね?ずっと冷たかったし、パーティも一緒に行ってくれなかったし!」
「それは……」
「マクセル様。あなたも、私が参拝客だった時は虫を見るような目で見てましたよね?女に言い寄られすぎて嫌になってたのはわかりますけど、あんな目で見てくる人好きになるわけないでしょ?」
「ミ……ミオリネ?」
「パトリックも。あんた、急に馴れ馴れしくしてきてるけど、そもそも家臣な?」
「そんな……」
「そして、セシリア」
「はい」
「攻略したいならちゃんとルート守れ!ヒロインだからってチートできると思うな!あと、月の乙女奪った形になって、なんかごめん」
「ミオリネぇ……」
言いたい事言うと、スッキリするよね。
で、どうなったかと言いますと。
「ミオリネ、結婚式のドレスだが……やっぱり君の美しさを飾るにはもっと豪華にしたいんだ」
「何回目のやり直しですか。お針子殺す気ですか?」
私は氷が溶けたままの王子と結婚式の打ち合わせに忙しくしてる。
セシリアは月の乙女の2Pキャラみたいな扱いで神殿に行った。
ついでにパトリックもつけてあげたら、マクセル様とパトリックがカップリング成立したようで、セシリアが興奮気味に教えてくれた。
セシリアは神殿での生活が気に入ったのか、平民のフリをして会いにくる攻略対象のノアくんが気に入ったのか、時々遊びに来ては楽しそうに話して帰る。お茶やらケーキやら散々食べて。
そしてルーカス様。
「王家の男は月の乙女が現れたら妻にしなければならない。だから君を愛さないように冷たくしてたんだ」
なんて子犬のような目で言われたらて……ねぇ?
まぁ、元々婚約者ですし?仕方ないですよね?
しかし……転生して逆ハーレム目指せる人ってすごい。
私はこの王子1人でお手上げだってのに……
とりあえず、みなさんも滑って転んで頭なんか打たないように気をつけて。
ろくなことにならないから。
悪役令嬢に転生しましたが逆ハーレム目指して邁進いたしますわっ! やまだ ごんた @yamagonta
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます