銃声
マドノユキ
銃声
昼ご飯の後、銃声が聞こえた。
荒々しい姿の兵士がこんな村に押し寄せてきた日、私は、両親たちが話している戦争の意味を知りました。
いいえ、私は兵士を一人しか見ていない。ただ街から立ち上がる炎が見えた時、父や母や姉に会いたいと思いましたが、私は真っ先に森に逃げ込みました。
薪割り小屋に入ると、遠くから悲鳴が聞こえる。ここまで聞こえるわけがないけれど聞こえた気がしました。
雪を踏む足音が近づいてくる、姉エリカのものではない。扉が開け放たれると、クマのような兵士が私を見て笑った。
兵士は私に近づき腕を握った。巨大なその手と顔に私は震え上がり叫び声を上げたが、兵士は気にせずガチャガチャと武装を降ろし、ズボンを脱ぎだしました。
私はその隙に逃げ出そうとしたけど、大きな手と脚で弄ばれるように転がされ、倒れたまま兵士の顔を踵で蹴ったが、兵士はびくりともしなかった。
闇雲に抵抗を続けていると、兵士が次第に怒り出しました。殺されると思ったけど、乱暴に犯されるより今すぐ殺された方が良い。そう思ってなおも熱心に兵士の顔を蹴った。
「兵隊さん」
呼びかける、姉の声がした。
兵士に優しく語りかける。
「そんな小娘より、私はどう?」
「エリカ、逃げて」
震える声で私は叫んだ。
姉は私を無視し兵士に微笑み、上着を脱いでブラウスのボタンを外して、肩を露出させている。
微笑んでいるのに、恐怖で引きつって別人の様に見えた。
それでも笑顔を作り、兵士に語りかける。
「兵隊さん、落ち着いて。逃げないから」
兵士はなにか言っているが、言葉が解らない。
姉は兵士の手を両手で挟んで、撫でた。
「座って。大きな体。素敵」
姉が兵士の耳元で囁くと”素敵”の意味は通じたのか、嬉しそうな顔をした。
私はクロゼットに身を潜め、姉に逃げるよう願いつつ、隙間から様子を見守った。
――
午前中に敵の軍隊が近づいていると父と母が話していたのを聴いていたが、午後にはもうやってくるとは思ってもいなかった。大人たちは食料を提供すれば共存できると画策して、街の中心に麦を集めていたがそんなことは無意味だった。兵士達はなだれ込み、略奪を始め、麦を燃やし家畜を乱暴に焼いて食べ、家屋から少女達が引きずり出されている。
私は、その宴の中に妹リーサがいないか必死で探した。
両親は私を庇って殺された。私も死ぬわけにはいかない。
森の中に逃げ込むことにした。リーサとよく遊んだ薪割りの小屋がある。街から脱出する間、女性の悲鳴があちこちで聴こえた。
薪割小屋に、リーサのものとは違う大きな足跡が続いている。
私は回り込んで窓から室内を見た。
兵士がこんなところにまで来ていた。
怖くて脚がすくんだ。手遅れだ。涙が溢れてきた。
(リーサごめん)
それでもリーサは果敢に兵士と戦い続けている。
気がつくと、扉を開けていた。
リーサに覆いかぶさろうとしていた兵士に声をかけた。
「兵隊さん」
兵士をリーサから注意をそむけないといけない。
振り返った兵士に、できるだけにこやかに話しかけた。
「兵隊さん、落ち着いて。逃げないから」
肩をむき出しにしてみせると、兵士は興味を示してこっちにやってきた。
その巨大な手に、恐る恐る触れ、撫で、なんとか椅子に座らせる。
言葉は通じないが、耳元で囁きつづける。
「座って。すごい筋肉ね。素敵」
兵士のベルトを解き、ズボンと下着を降ろす。
ひどい悪臭。
そこに触れ、兵士の目を見てさすり続けると、兵士は興奮して私をテーブルに押し倒し、唇を乱暴に押し付けた。臭い息。
私は必死で冷静を繕い、手を動かすのを止めなかった。
「ね、落ち着いて」
兵士の肩を軽く押し、巨大になったものに顔を寄せた。
「すごいね」
舌を伸ばして見せると、兵士の目が輝いた。
その先にキスをして、微笑む。
兵士を口だけで喜ばせれば、犯されることは回避できるかもしれない。
そんな望みをかけて、必死で丁寧に舌を動かした。
兵士は一度で満足せず、二度目は頭を捕まれ強要された。
そんな中でも私は、笑顔で喜んで一生懸命兵士に奉仕した。
――
兵士は興奮してエリカの頭を押さえつけ、乱暴に動かしている。
私はこれが何であるのかは知らないが、だいたい想像がつく。
気高く優しいエリカがこんな扱いを受ける姿は見たくはないけれども、私の替わりに犠牲になっているのだと思うと、目を背けることは出来ない。
すべてが終わると、満足したのか兵士は大股で小屋を出ていった。
「エリカ・・・」
クロゼットを飛び出して、話しかけたが姉は私から目を逸らせ、険しい顔をして口を何度もゆすいで吐き出した。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「リーサ、なぜあなたが謝るの?悪いのはあなたじゃない」
大変な目にあったのは姉なのに、何故か私が慰められていた。
――
兵士は翌日から毎日やってきた。同じ時間。1時間ほどして済ませて帰ってゆく。
エリカは足音が聴こえると、私に隠れているように指図する。
兵士は部屋に入ってくると、当たり前のように椅子に偉そうにすわり、姉に奉仕させる。
エリカは抵抗することもなく、直ぐに兵士に寄り添い笑顔で迎え、献身的に振る舞う。
お茶を淹れ、貴重な菓子を出し、兵士に優しく話しかけ、体を揉みほぐし、ズボンを脱がせる。
兵士は次第に暴れることはなく、快適な奉仕に満足して帰ってゆく様になった。
次の日から、兵士は態度が穏やかになり、扉を開けるときも静かで威嚇しない。
食料を持ってきてくれると、姉ははしゃぐように喜んだ。ここには備蓄は限られていたので私も嬉しかった。
プレゼントを持ってくるようなことすらあった。
おそらく街の略奪品だろう。大きな宝石のついた金の首飾りを取り出すと、姉に渡した。
姉は少し複雑な顔をした。宝石は横に置き、すぐに兵士に笑顔になっていつもの行為を始めようとした。
兵士はそれに怒ったのか、宝石を掴んで投げた。
エリカが殺される。クロゼットを飛び出そうとしたが、姉は冷静にこっちを一瞬見て、出てくるなと押し留め、辛抱強く兵士を宥め続けた。
姉が殴られた時、私が殴られたような気がしてしばらく気絶した。
気がつくと、姉は無表情に兵士のものを咥え、頭を動かし続けていた。
とにかく、兵士はそれ以上乱暴を働くことはなく帰っていった。
私は泣きながら、姉の頬を雪を取ってきて冷やし続けた。
次の日に兵士がやって来た時には、姉は昨日のことなど何事もなかったかのように、以前のようにお茶をだし、笑顔で兵士に尽くした。
兵士はプレゼントを持ってくることはなくなったが、食料は届けてくれた。
姉の奉仕の最中に。頭を掴んで強要するようなことも減った。
しばらく経った日、足音がすると隠れるまもなく、いつもより乱暴に扉が開け放たれた。
入ってきたのは別の兵士だった。
姉はなだめようとしたが、すぐさま飛びかかってきて、私たち姉妹は悲鳴を上げ部屋の中を逃げ惑った。
再び扉が乱暴に開け放たれ、いつもの兵士が入ってきた。
彼は暴れる兵士を動かなくなるまで、散々に打ちのめした。死んだのかもしれないが解らない。
とにかく助けられた。
姉は恐怖から解放され、涙を流して兵士に礼を何度も言った。
奉仕の作業も楽しそうに笑顔で兵士とふざけ合う。
私は物陰に隠れて見ていたが、二人の姿は仲の良い夫婦のようにすら見えた。
兵士は「ボルグ」だと言った。
言葉はわからないが、どうやら名前らしい。
姉もエリカだとボルグに教えた。ボルグは嬉しそうに「エリカ」と口にした。
兵士、もといボルグは一日も開けずやってくる。
最近ではボルグがノックしてから、姉が扉を開け招き入れる。
先日の兵士の乱入事件があってから、ボルグが扉に鍵をつけてくれた。
窓にもカーテンを取り付け光が漏れないようにと身振りで説明してくれた。
ボルグは姉の口だけの奉仕に飽きることはなく、果てるまでの時間も短くなっていた。
行為も一度だけ。
本当はもっとして欲しそうにも見えたが、要求はしなかった。
ボルグは姉に嫌われるのを恐れているのではないか。
早く終わると姉は嬉しそうにしたので、その笑顔で満足してしばらく一緒にいて帰って行く。
キスもしてない、胸に触れてもいない。
私が知っている恋愛とは大分違う。
――
ある日、少し外の様子が慌ただしくなっていた。
エリカは、部隊の移動が始まったのだと教えてくれた。
なぜ姉にはそんなことがわかるのか。ボルグからなにか聞いていたのかもしれない。
ボルグがやって来た。いつもと違って寂しそうな顔に見える。
姉は優しくどうしたのかを聞くと、明日別の戦地に向かうので今夜が最後だと、カタコトの言葉で説明した。
ボルグはプレゼントだと言って荷物から取り出した包を解くと、小さな銃が出てきた。
弾の込め方、撃ち方を姉に教え始める。
猟銃は私も見たことがあるが、姉は初めて見る人殺しの銃におびえていた。
「これは略奪品ではない、軍隊の銃だ」
ボルグは姉にたどたどしい言葉で何度も総説明して銃を渡して、続けた。
「今後はエリカとリーサで身を守らないといけない」
ボルグの心配事は私たちの身の安全だった。
姉は受け取った銃を置き、ボルグに抱きついた。
ボルグも優しく姉を抱きしめた。
「元気を出して」
姉はそう囁くといつものようにフェラチオを始めた。
終わると帰り支度を始めるボルグ。
「待って」
姉はボルグを引き留め、もう一度椅子に座らせボルグのベルトを解いた。
穏やかな関係が築かれてからの、初めて二度連続。
ボルグは声を出して泣き出した。
乱暴なフェラチオを強要していた、一月前の自身を思い出しての罪悪感からだと思う。
終えたが、立ち上がろうとするボルグをエリカはまた座らせ、指を一つ立てもう一度とボルグにねだった。
ボルグは、また泣いた。
きっとエリカが心を開いてくれたことに、今度は感激したのだ。
覗いている私の目も、なぜか潤んできた。
ボルグは姉の頭に触れたがそれは乱暴な行為ではなく、優しく愛でるようにそっとした力に見えた。
「じゃあ、頑張ってね」
すべてが終えると、明るくエリカに励まされ、ボルグは弾むように小屋の扉のノブに手をかけた。
「ボルグ!」
エリカがかけてきてボルグの背中にしがみついた。
(ダーン!)
ボルグの頭に押し当てられたままの銃からの熱い煙と匂が、クローゼットの中にも入ってきた。
銃声 マドノユキ @yukizone
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