【出所不明の都市伝説】「消えた観覧車」
藤城ゆきひら
【1話完結】消えた観覧車
「ねえ、翔子、『消えた観覧車』って知ってる?」
昼休みの教室で、スマホをいじっていた沙月が、向かいの席の私に顔を上げた。
「それも、沙月が好きな都市伝説なの?」
「そのと~り。この都市伝説はね、観覧車が行方不明になる話なんだって」
「……は?」
思わず気の抜けた声が出てしまう。
「確認だけど、観覧車“が”行方不明になるの? 観覧車に乗った人じゃなくて?」
そう聞くと、沙月はしてやったり、という顔をした。
「不思議だよね。観覧車に乗った人が消えるとかじゃなくて、観覧車そのものが丸ごと消えちゃうんだってさ」
「不思議というか、例えば遊園地の観覧車が消えたら、大パニックになるんじゃない?」
「なのに、ニュース記事も公式発表も残ってないの」
そんなやりとりをしていると、当然の疑問が湧き上がってきたので思わず沙月に聞いてしまった。
「ニュース記事も公式発表もないのに、どうしてこんな都市伝説が出たのよ……」
「それが全く分からないんだよね、だから翔子も考えてみてよ」
「はいはい、わかったわよ」
そんなとりとめもないやり取りをしながら、
実際に観覧車が消えたのか、それとも誰かが観覧車があったと勘違いしただけなのか、あーでもないこーでもないといった話を続けていた。
昼休みも終わりに近づいてきたころ、沙月が言った。
「観覧車といえば、小学生の頃はよく、○○ランドの観覧車に乗ったよね」
そこで私は驚いてしまった。
「……え? ○○ランドに観覧車なんて無いわよ」
私のその発言に、沙月は少々面食らったような顔をしていた。
そしておもむろにスマホを操作して、少々画質の悪い写真を見せてきた。
その写真を見て、今度は私が面食らってしまうのだった。
「……うそ、よね?」
沙月の見せてきた写真は、間違いなく○○ランド内であるとわかる観覧車に幼い日の私と沙月が隣り合って座っている写真だったのだ。
慌てて私もスマホを使い、○○ランドのアトラクションを検索してみた。
そして、気が付いてしまった。
○○ランドには、観覧車が無いことに……
私には○○ランドの観覧車の記憶が無い。
沙月には○○ランドの観覧車の記憶と写真がある。
私が記憶を失っている?
でも、○○ランドに観覧車は無い。
どういうことなのだろうか……
二人とも困惑したまま、次の言葉を発せずにいると……
――キーンコーンカーンコーン――
チャイムの音で我に返った私は、次の授業が美術であることに気が付いた。
「次の授業って美術じゃん! 美術室に急ぐよ沙月」
そんな会話をして、私たちは駆け足で教室を移動するのだった。
――これを読んでいるアナタにも、記憶の合わない観覧車がありませんか?――
【出所不明の都市伝説】「消えた観覧車」 藤城ゆきひら @wistaria_castrum
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