恋占い

久遠 燦

第1話

最近好きな女の子が出来た。

長い黒髪で肌の白い綺麗な女の子。

僕が退学した高校に通っている同級生だ。

どうしても手に入れたい。

でも、勇気が出ない。

笑われたら怖いので友達にも相談できず、内緒にしている。

でも、告白へと乗り出すための自信を人から与えてもらいたい。

だから、占いをしてくれる住職がいる事で有名な寺に行く。占ってもらって、いい結果が出たら、告白しようと思うんだ。

時計を見ると針はちょうどてっぺんを指していた。

学校、会社、みんなそれぞれの場でそれぞれの役割を演じている時間帯だ。

でも、僕にはそういった役割はない。

自由気ままに生きて、何にも縛られず、好きな事をする。金なんて、稼ぎたい時に適当に稼げばいい。今したいことだけをする。それが僕の人生だ。家の前の道路に沿って真っ直ぐ歩き、路地に入った。

視界に入ったのは、掃除をしている能面を付けた女達5、6人だった。

ありふれた住宅地には似合わない不気味な光景であった。

どうしても占いをして欲しいから来たのに、帰りたくてしょうがない。

ぼーっと突っ立っていると、能面を付けた女の一人がじっとこちらを見つめてきた。

仮面の裏にあるのは、人の顔なのだろうか?それとも機械?

ぴたりと止まったその姿に、何か人間らしからぬものを感じて、悪寒が走った。

その女がこちらに向かって手招きをしたので、静かに建物の中に入った。


建物の中に入るとすぐに、小太りの禿げた住職が、ニコニコと笑いながら擦り寄ってきた。

「占いのためにいらっしゃったのですか?」

グイグイと近づいてきて、彼は僕の手にそっと触れた。


その瞬間


「今まで何をしてきたんだ!!!」


彼は怒鳴った。

赤くなった額には汗が滲んでいる。

客に占い結果を教えるための、住職が立っている後ろにあるスクリーンが、黒と赤のモヤに包まれたような状態になり、結果の悪さをはっきりと表している。

住職の怒鳴り声を聞いて、すっ飛んできた巫女が、柱の後ろからじっとこちらを見ている。

「どんな結果が出たんだ、ちゃんと説明してくれ。」と僕が言うと、

住職は、「感情的になってしまい申し訳なかった。念写してあげます。ちょっと待っていなさい。」と言って、念写を始めた。

しばらくすると、紙に黒い影のような物が映し出された。

じっと見つめる。

それは黒い虫の形をした影に取り憑かれている僕の姿であった。僕の顔の部分には虫の形をした影がうじゃうじゃ湧いていた。抑えられないほどの吐き気が押し寄せてきて、僕はそっと紙を裏返した。

目線をあげると、そこにいたのは、呆然として小刻みに震えている哀れな老人であった。

もはや、恋愛に関する質問など、する気にはなれなかった。

僕は何も言わず、その紙を持って寺を出た。


帰る途中、涙が込み上げてきた。

1歩、1歩、歩くにつれ、憎しみが増大していく。

何が悪くてこうなったんだ。

僕は常に、自分のしたいことに忠実に生きてきた。ふと辞めたくなったので、高校は入ってすぐに辞めたし、ちゃんと自分に正直に生きてきた。

ここまで真っ直ぐに生きてきて、それでこの仕打ちか。住職が憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。

適当な結果を教えやがって。

あぁ、こんなに真っ直ぐに生きてきてもまだ真っ直ぐさが足りないのだな。

もう、何も我慢しない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋占い 久遠 燦 @Milai_777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画