呪いのアプリ【短編】

冬野ゆな

呪いのアプリ

 最近はなんでもかんでもアプリになるからって、まさか呪いまでアプリになっているなんて。


 もうダメだ。

 俺はスマホをベッドに放り投げ、頭を抱えた。

 あのアプリをインストールしてしまってからというもの、噂通りのことが起き始めている。


 呪いのアプリ。

 黒の背景に赤い字で書かれた、いかにもなアプリだ。この中で誰かをお手軽に呪うことができる。


「呪いのアプリ。基本無料、アプリ内購入あり」


 こんなのどう考えたってジョークだと思ったのに!

 呪いの言葉を書き込むのはタダ。だけどアプリ内で三百円を払えば、呪いの藁人形が買える。タップして釘を藁人形に打ち込めば、呪いは成就する。

 藁人形だって、きっと投げ銭の類だろうと思った。

 本気にするやつなんていない。

 だから、気に食わない上司と同僚の名前をかたっぱしから入力した。それだけじゃない。藁人形も買った。上司と同僚の写真を張って、あちこちに打ち付けた。

 だって、たった三百円だぞ。

 その通りになった。


 俺を怒鳴りつけていた上司の胸や額や顔からあちこち穴が開いて、血を吹いて死んだ。


 呪いの人形は、誰かに見られてはならない。

 俺は笑いながら、上司の名前を友人に見せてしまった。

 そのせいなのか、俺の周りに先日から、ずっと死んだ上司と同僚が見ている。


 アンインストールもできなければ、削除もできない。何をしてもダメだった。何度もアンインストールした。でも、気が付けばまたそこにある。恨みがましい視線が、両側からずっと突き刺さる。血まみれで穴の開いた手が、いまにも俺の首にかけられそうになっている。


 どうにか、どうにかならないのか。

 俺は祈るような気持ちで検索する。生成AIにも聞いたし、掲示板にも助けを求めた。でも、書き込んだ途端に消えてしまう。

 これ以上黙っていることもできず、俺は有名な神社に飛び込んだ。

 そこにいる巫女さんに、自分のしたことを包み隠さず話した。あまりにもパニックになって泣きながら訴える俺に、巫女さんはびっくりした顔をしていたが、「こちらへどうぞ」と言ってくれた。

 通された先にいる神主のような人に、もう一度やったことを告白した。

 そして、自分が使ったアプリも見せた。


「どうにか、どうにかお祓いとかできないですか」

「なるほど、わかりました」


 神主は頷くと、一枚のチラシを差し出した。


「それでは、まずこのアプリをインストールしてください」


 目の前に差し出されたチラシには、『お祓いアプリ、インストールにはこちら』とQRコードが提示されている。


「え?」


 呆然と神主を見返す。

 神主は当然というような顔で笑った。


「大丈夫ですよ。初月無料なので」

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呪いのアプリ【短編】 冬野ゆな @unknown_winter

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