わたし美術館【空が心を病む程度】

夏野くじら

プロローグ

冬の早朝は寒い。冷たい空色と枯れ木を過ぎて、少し色の濁った白い箱状の建物へと足を運ぶ。静かに開いた扉の奥は細長い一本の通路になっており、壁に等間隔で並ぶ絵画が見られる。


全く異なる作者によって創られた絵画にはみな、記憶があり、歪な空白がある。きっと、曲がった現実を無理矢理消してしまったのだろう。ぽつぽつと穴のある絵画の中から今日に惹かれる一枚を吟味する。通路の行き止まりにさも重要な作品のように飾られた真っ白なキャンパスを、ペーパーナイフで切り裂いてから真反対、入り口に一番近い絵画を取り出す。向き合って微笑む男女、に見える。


「今日は、君だ。」


ここは、人生を飾る専門美術館。私は、空白を塗り足す仕事をしているしがない1人である。

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わたし美術館【空が心を病む程度】 夏野くじら @tooneneru0922

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